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改訂版 妹と歩く、異世界探訪記  作者: 東郷 珠(サークル珠道)
第十二章 混乱の東京

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第三百七十一話 新たな日常 ~土地神~

 朝食を終え、簡単な打ち合わせも終えたペスカ達は、TVをつけて朝のニュースを見ながら、少しリビングで寛いでいた。

 初めてTVの存在を知ったアルキエルは、興味津々といった様子で、カラクリに興味を示していた。

 どのチャンネルをつけても、昨日の事件を報道しており、騒ぎが広がっている事が理解出来た。当事者であるペスカ達は、ニュースに対し敢て言及しなかった。しかし、日本全国に報道された事により、国民の危機感を無用に煽った事には、一同が不満を感じていた。

 暫く寛いだ後、ペスカは徐に口を開く。


「これから、近くの神社に行くよ」

「ペスカ様、それは神同士の話し合いでしょうか?」

「まぁそうなるね」

「それなら、私は遠慮させて頂いた方が宜しいでしょうね」

「そんなに固く考える必要は無いと思うけど」

「ペスカちゃん。私は講義があるから、付き合えないけど良い?」

「問題ないよ、空ちゃん。そうだクラウス。今日は、空ちゃんの護衛を頼める?」

「畏まりましたペスカ様」


 話がまとまると、空は一度自宅へ戻る為に、クラウスを連れて東郷宅を後にする。ペスカ達も後を追う様に外に出て、神社へと向かった。


 東郷宅から神社へは大した距離ではない。住宅街を抜ければ直ぐに着く。ペスカと冬也は、見慣れた光景に懐かしさを覚える。それに対しアルキエルは、歩いている最中ずっと、辺りをキョロキョロと眺めていた。


 石や煉瓦を用いたロイスマリアの建築と、木造を主体とした日本の建築は明らかな違いがある。異なる文化の違いを肌で感じ、アルキエルは興味津々といった様子であった。


 程なくしてペスカ達は神社へ辿り着く。


 鳥居をくぐった瞬間に、辺りはピリピリとした空気に変わった。それはまるで、本殿にいる土地神の緊張が、伝わって来る様だった。

 そんな緊張感もお構いなしに、ペスカ達は拝殿を迂回し本殿へ向かう。すると、慌てた様に土地神が顕現した。受肉をしていない為、表情まではわからいないが、もし人間であれば顔面蒼白になっていたに違いない。


 だが、ピリピリとした空気は、土地神がペスカと冬也を認識した時点で、ほんの僅かに緩和する。次の瞬間に土地神は、腰を抜かした様にへたり込んでいた。


「どれ程の神が顕現なさったのかと思ったが、其方らか。何をしに来た! 即刻立ち去れ!」

「ちょっと! そんな言い方、酷くない?」

「其方らのせいで、八百万神がこぞって姿を隠しおった。其方らはそれでも神気を抑えてるようじゃが、力の弱い神々には影響を与えるのじゃ。即刻、元の世界に戻れ!」


 土地神は一方的に捲し立てた。それは、土地神自身がペスカ達に、恐れを感じているからでもあろう。ペスカと冬也は無論の事、アルキエルでさえ威嚇をする様な態度を取っていないのにも関わらず。


 そもそもペスカ達は神の一員として、地元の神へ挨拶に来ているのだ。それ自体は、かなり良識的な行動であろう。しかし碌に挨拶も出来ず追い返される様な始末に、アルキエルの怒りが爆発した。


「おい木端。てめぇ何か勘違いしちゃいねぇか。俺らがわざわざ、てめぇみてぇな格下の所へ挨拶しに来てやったんだ。出迎えるのが普通じゃねぇのか?」

「挨拶など、いらん気遣いじゃ!」

「ならてめぇらの国が、大変な事になっても無関心て事かよ、あぁ?」

「それは、其方に関係のない事じゃ。そもそもが、其方らの世界から来た邪悪が原因じゃ。我らも大神様も関わる事ではない!」

「あくまでも我関せずって事か? なら、てめぇの親に合わせろ! 直接、話をつけてやる」

「愚かな事を! どれだけ無礼な事を言っているのか、わかっておるのか?」

「無礼はてめぇだ馬鹿野郎! ロイスマリア最高神の息子で有り、最強と謳われた神が、わざわざ会いに来てんだ! てめぇみてぇな木端と格が違うだろうが!」


 アルキエルの語気が強まり、段々とエスカレートしていく。予想外の展開に、ペスカは冬也に視線を送る。冬也は頷くとアルキエルの肩を軽く叩き、アルキエルの前へと進んだ。

 このままでは、神社へ訪れた意味が無くなる。冬也は柔らかな物腰で、静かに口を開く。それは少しでも土地神の警戒を解こうとした、意思の表れだったのだろう。


「なぁ爺さん。俺達は喧嘩しに来たんじゃねぇんだ。この国に起きる事態を解決しようと思ってんだ。取り付く島も無いなら、話になんねぇんだよ。普通、話し合いってもんは、妥協点を探す事が重要じゃねぇのか? それもせずにただ突き放すのは、良策とは思えねぇな」

「此度の件、本をただせば彼の邪悪に起因する。しかし現実に起きる問題とは、本質が異なる。人間の内に潜む闇が、負の遺産を増大させた。問題なのは、矮小な人間の方だ。其方らの役目は、彼の邪悪を元世界に送り返した時点で済んでいる」


 冬也が口を開いた時点で、アルキエルは怒りを抑え様と堪えていた。当然だ、主が対話を試みているのだ。主を差し置いて、自分が口出しをする様な恥知らずは晒せまい。

 しかし、土地神の言葉で我慢の限界を超えたのだろう。再び、アルキエルは土地神に迫る。それも、胸倉を掴まんばかりの勢いで。


「済んでる? 何がだ、あぁ? 笑わせんなよ木端がぁ! てめぇは何も見えてねぇのか!」

「何をだ! 何が見え取らんと言うのだ! 勝手な事を言うでない!」


 アルキエルが少しでも神気を放とうとしたなら、この土地神はただでは済まないだろう。流石にそんな馬鹿な真似はしないだろうと高を括るっているのか、それとも土地神としての矜持が有るのか。いずれにせよ、土地神は強気な態度を崩さない。

 

 しかし、このまま互いにヒートアップしたままでは、話しは一向に進まない。それに、冬也はゆったりと腕を組み、事態の様子を窺っている。

 冬也自身、土地神の言葉には腹を立てていた。しかし、それをぐっと腹の底に押し込んだ。

 アルキエルの行動は主である自分を慮っての行動だ。恐らく気が済むまでやらせようという魂胆なのだろう。


 この時ペスカは、呆れた様な表情で深いため息をついていた。そして歩みを進めると、アルキエルの肩を軽く叩き、ゆっくりと首を振る。次に土地神へ向けて静かに口を開いた。


「いやいや、お爺ちゃん。それは流石に話しにならないよ」

「だから、何を言うておる!」

「あのさ。私達は、別に手伝って欲しいなんて要求する気は無いの。私達がこの世界で活動する事は、少なからず色々なものに影響を与えるでしょ? でも、私達は引く気はないの。だからね、私達はちゃんと話し合いがしたいの。お爺ちゃんがそんな態度だと、私達も自分達の流儀でやるしかなくなっちゃう」

「確かに其方の言い分は、筋が通っておる。しかし、我ではどうにもならん」

「ならアルキエルが言った通り、爺さんより上の奴と話をするしかねぇだろうが。それとも、俺達じゃ役不足か?」


 土地神が冬也を凝視する。既にわかっていた事である。目の前の三柱からは、制限されていても尚、強大な力の存在を感じる。思わずひれ伏したくなる感情をぐっと堪え、土地神は冬也に答えた


「直ぐにとはいかん。いずれ、話す機会を作ろう。だから、今日は引き返せ」

「いずれ? 木端ぁ、神の時間で計るんじゃねぇぞ!」

「この者は、其方の眷属であろう? なぜ、一々突っかかって来るんじゃ」

「まぁこいつは、戦いの神だからな。怖けりゃ、護衛を付ける事をお勧めするぜ。それこそ、てめぇら全員縛り上げて言う事を聞かす位、訳ねぇんだからよ」


 冬也の言葉で、流石に土地神も縮こまる。わかっていたはず。それでも思い知らされた。この三柱の前では、己の存在が如何に矮小であるかを。


 ここまで碌な会話が出来ず、ペスカは溜息を漏らす。冬也に視線を送り、帰る事を促す。そしてペスカ達が振り向き、神社を後にしようとした時、土地神は零す様に呟いた。


「なぜ其方は、人間の見方をする? 人間は、たかが数十年しか生きられない生物、己の住まう地を汚す事しか出来ない生物なのだぞ。滅びても構わんじゃろ? それが大地の為じゃ」

「あんたら神が、そんな事を言ってるから、この世界は良くならねぇんだ」

「其方も神じゃろう?」

「馬鹿言うな、俺は人間だ。ただの日本人だよ」


 つい、土地神の本音が零れたのだろう。そして、冬也は少し呆れた様に答え、一同は神社を後にした。

 結局は、格が高い神との対話が出来るチャンスを得ただけで、ほとんど無駄足に終わり一同には些かの不満が残る。


「まぁさ、今回は仕方ないよ。せっかく外に出たんだし、買い物したり美味しい物食べて帰ろうよ」

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