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改訂版 妹と歩く、異世界探訪記  作者: 東郷 珠(サークル珠道)
第十一章 変わりゆく日常

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第三百三十七話 ロイスマリア武闘会 ~最後の出場者~

 武闘大会の開催が告知されてから早二か月、会場となる施設の建築は佳境に入り、ペスカは世界中を飛び回り各地でイベントを開催していた。中継施設が次々と設置され、否が応でも盛り上がりを見せていく。

 更に大会を盛り上げる為に、ペスカは各国の商業組合にかけ合い、スポーツくじを仕掛けた。世界中が活気づく中で、未だに公開されていない一名を予想して、世界中で争論が巻き起こっていた。


 そしてペスカの自宅では、久しぶりの休日を満喫する様に、リビングで寛ぐペスカと冬也の姿が有った。


「う~ん。意外にエレナの人気が高いね」

「そりゃあエレナは、亜人達だけじゃなくて魔獣達にも人気があるからな」

「お兄ちゃん的には、優勝は誰だと思う?」

「あ~、どいつかな?」

「も~。優勝者はお兄ちゃんと戦うんだよ!」

「誰と勝負する事になっても、別に構いやしねぇよ。それよりもペスカ、最後の一人はどうなってんだよ! もう決まってるんだろ?」

「気になる?」

「当たり前だろ! お前が賭けを仕掛けてるのは知ってんだぞ! お前が選んだ奴が優勝したら、最悪のマッチポンプだぞ!」

「まぁ、流石に優勝は無いと思うけど。性格的には予想がつかないんだよなぁ~。お兄ちゃんと同じで、熱くなったら絶対に引かないからなぁ」

「はぁ? どういう意味だ?」

「そろそろ頃合いだし、召喚しよっか」


 冬也は、召喚の一言を聞き逃さなかった。嫌な予感がし、ペスカを止めようとするが、一足遅く魔法が発動する。


「次元の扉よ、我が名に応えよ。我が神気を持って、定められし運命の子を此処へ」


 ペスカの体から光が溢れ、リビングが眩い光に包まれる。そして、光がおさまっていくと、そこには一人の男が呆気に取られた様子で佇んでいた。現れたのは、冬也が最も良く知る男であり、呆気に取られたのはその男だけでは無かった。


「親父? なんで?」

「元気そうだな冬也。馬鹿な所は相変わらずだな、感が悪い奴だ」

「ペスカ! まさかこいつが、最後の出場者って事じゃねぇだろうな!」

「まさかって、いやいや。わざわざ親子の再会だけで、パパリンを召喚する訳ないでしょ」

 

 声を荒げる冬也に、あっけらかんと答えるペスカと父遼太郎。その態度に、流石の冬也も感づいた。最初から決まっていた事なんだと。それは、冬也の怒りを買って然るべしであろう。瞬間的に冬也は怒声を発する。


「ペスカ! なんでこいつを連れて来やがった!」

「だって、パパリンが出たら盛り上がるじゃない」

「そんな問題じゃねぇ! 出場するのは、どいつも怪物じみた強さなんだぞ! この馬鹿は怪我どころじゃ済まねぇぞ!」


 遼太郎を指差しながら、ペスカを叱りつける冬也。しかし、その言葉は遼太郎に火をつける。


「てめぇ、いつからそんな偉そうな事が言える様になったんだ、あぁ? てめぇ如きが、俺を雑魚呼ばわりするのは、一億年早えぇんだよ!」

「あぁ? 雑魚だろうが、糞親父! 俺にも勝てねぇ奴が、調子に乗ってんじゃねぇよ!」

「たかだか俺に一回勝っただけだろうが! 調子に乗ってんのはてめぇだ馬鹿!」

「馬鹿はお前だ糞親父! 一勝どころか十勝してんだろうが!」

「はぁ? てめぇ俺と何千回勝負したと思ってやがる! その内のたかだか十勝だろうが!」

「ガキの頃を含めんじゃねぇよ! 遂にボケたか糞親父! とっとと引退して大人しくしてろ!」

「うるせぇよガキ! いっちょ前に大人の面してんじゃねぇ!」

 

 久しぶりの対面は、盛大な口喧嘩になった。


 この大会は、例え命のやりとりにならないとしても、地球には存在しない怪物が現れる人外の戦いである。身内を何よりも大切にする冬也は、父を関わらせる気は毛頭なかった。


 対して、遼太郎にも父親としてのプライドが有る。自慢の拳で息子に上を行かれては、鷹揚としていられない。それと、差し当った問題も存在する。邪神ロメリアが残した傷跡は、まだ深く残る。東京に未だ存在する異能力者、それに対抗する手段は余りにも少ない。


 手詰まりになりつつある状況を打開する為にも、自身の能力を高める事は必須であった。


 両者は互いに譲る気はなく、一色即発となる。口喧嘩が殴り合いに発展しようとした時の事だった。ガチャリとリビングのドアが開く。冬也と遼太郎は握った拳を下ろし、ドアに視線を向ける。そして中に入って来たのは、呑気に欠伸をしているアルキエルであった。


「珍しくうっせぇ~な。祭りにゃ早えぞ冬也ぁ」


 冬也は、アルキエルがペスカ宅に居る事は知っていた。しかし、目の前の父に集中し、アルキエルが傍に来ている事に気が付いておらず、思わずギョットしていた。

 当のアルキエルは、遼太郎を見定める様に凝視すると、険しい表情で「そう言う事かよ」と吐き捨てる様に呟く。そして直ぐに立ち去ろうと反転した。


「良く聞け、ペスカぁ。そいつを、俺に近づけんじゃねぇぞ! てめぇの事だ、全部知っててそいつを呼んだんだろうけど、俺は関わらねぇぞ! てめぇの回りくどいやり方は、好きじゃねぇ。知ってるならちゃんと教えてやれ、馬鹿兄貴の系統ってやつをなぁ」


 ペスカ達に背を向けて言い放つと、アルキエルはぞんざいにリビングのドアを閉めて立ち去った。見ず知らずの相手が居るにも関わらず、行う態度ではない。遼太郎は呆れた様子でポツリと呟く。


「少しはマシになったかと思ったのに、根本は変わらねぇんだな」

「あれ? アルキエルの事を知ってたの?」

「いいや。知らねぇな。冬也如きに使役されるなんて雑魚はよ」

「それ、間違ってもアルキエルの前で言わないでね。喧嘩どころじゃすまないよ」

「そこまでガキじゃねぇよ」

「本当にわかってるのかなぁ? パパリンはそろそろはしゃぐの止めて、大人しくしてよね! お兄ちゃんもだよ! 色々理由があるんだから、とやかく言わないでよね!」


 ペスカが眉を八の字にして、声を大にする。


「だってよ」

「だってじゃないの! 大会までお兄ちゃんは、パパリンの修行相手だからね!」

「まじかよ!」

「冗談で言ってるんじゃないの。流石のパパリンでも、力を取り戻さないと怪我するんだからね!」

「だから! 怪我どころじゃねぇって!」

「お兄ちゃん、うっさい! 良いから言う事聞く! わかった?」


 冬也は黙って頷いた。


 気になる事は一向に明確になっていない。遼太郎の言葉やアルキエルの言動は、その最たるものである。しかしペスカが、自分に対して有無を言わさぬ態度を取る事は、そう有る事ではない。冬也は一先ず疑問に蓋をし、ペスカの言う通りに父と修行をする事に決めた。

 

 冬也を先頭に、ペスカと遼太郎は庭へと出る。途中で冬也は辺りの気配を探るが、アルキエルは姿を消した様であった。アルキエルの事を少し気にしつつも、冬也は遼太郎と向かい合う。


 ただ、普通に稽古をするのでは意味が無い事を、ペスカ自身が良くわかっている。ペスカは、遼太郎の前に立つと覗き込む様にして見つめた。


「パパリン、わかる? 私とお兄ちゃんは前と違うんだよ?」

「そりゃあな。神気を会得したのか。偉いぞ、ペスカ」

「今のパパリンだと、本気のお兄ちゃんにはどうしたって勝てないよ」


 わかっている。マナしか扱えない自分は、天地がひっくり返っても冬也には勝てない事を。


「そもそもさ。パパリンって、いつからマナを扱える様になったの?」

「いつからだろうな……」

「そうやってはぐらかすんだ……」

「あぁ? 何か知った風な事を言うじゃねぇか、ペスカ」

「そりゃあね。取り合えずパパリンには、原点って物を思い出して貰わないとね」

「原点?」

「そうだよ。わかってると思うけど、本気を出してよ」

「わかってる。このままだと、本当に手詰まりになっちまうからな」


 遼太郎の軽口を諫める様に、ペスカは言い放つ。そして、冬也は既に肩や首等を回してストレッチをし、戦う態勢を整えていた。


 冬也に向かい、全身に巡るマナを意識しながら、遼太郎は一歩を踏み出す。その一歩で違いを感じる。地球とは違い空気中に漂うマナが濃厚なせいか、やけに体が軽い。まるで身に着けていた数十キロの錘を手放した様に。


 次の瞬間、数メートルの距離を縮め、遼太郎は冬也の背後に回った。横薙ぎする様に蹴りだされる遼太郎の右足。自分が繰り出したにも関わらず、遼太郎自身が驚いていた。


 蹴りのスピードが段違いである、威力も圧倒的に上がっているだろう。


 だが、そんな単調な攻撃を冬也が食らうはずが無い。冬也は瞬時に振り向くと、右足で蹴りを放つ。そして右足同士がぶつかり合うと、遼太郎は吹き飛ばされる。

 吹き飛ばされて態勢を崩す遼太郎に対し、冬也は追撃を行わない。次元の違いを見せつけるのだろうか、それとも単に稽古だからと力を抜いているのだろうか。


 いずれにしても、そんな冬也の態度に遼太郎はヒートアップする。


「へぇ、世界最強か。面白れぇ」


 当然に冬也は神気を抑えている。対して遼太郎はマナのみの力で身体能力を上げている。そんな遼太郎に対し、冬也は技だけで対応した。力の差は歴然であった。


 遼太郎はどれだけ軽口を叩こうと、本心では冬也を見くびっていない。遼太郎とて達人の域に達した使い手である。相手の力量がわからない程の愚か者ではない。幼少の頃から冬也に稽古をつけて来た遼太郎は、正当にその強さを評価していた。


 修行は激しさを増す。一方、アルキエルはモーリス達との修行用に使っていた空間に籠り、眉をひそめていた。


「けっ。今更、昔の悪行に向き合わされるとは思ってなかったぜ。これもてめぇが仕組んだ事か、セリュシュオネ。ったく悪趣味な奴だぜ」


 それぞれの思いを秘めて、時は流れる。


 質実剛健を絵に描いた様な魔獣達。優勝候補が揃う人間達。危険が孕む出場者を要する亜人達。その中にたった一人、次元を超え遼太郎が挑む。そんな出場者達を、世界中がお祭り騒ぎで歓迎する。


 熱い戦いが、始まろうとしていた。

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