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改訂版 妹と歩く、異世界探訪記  作者: 東郷 珠(サークル珠道)
第十一章 変わりゆく日常
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第三百三十三話 ロイスマリア武闘会 ~ドラグスメリア大陸の出場者達~

 一度目の会議が終わって数日後の事、ミュールは三柱の眷属を集めた。


 いつになく鬼気迫る雰囲気のミュールに対し、山の神ベオログは怪訝そうな眼差しを向ける。どちらかと言えば信奉者に近い風の女神ゼフィロスは、久しぶりの対面に目を輝かせ、水の女神カーラは柔らかく微笑んでいた。


 元々、大地母神であるミュールは忙しく、眷属達と顔を合わせる事が少ない。更にここ一年は忙しく、顔を合わせる余裕が無かった。

 ただ、大乱以来の再会にも関わらずミュールの表情は険しい。そして重苦しい雰囲気の中、三柱の眷属を前にミュールは口を開いた。

 

「あんた等は、これから眷属を作るんだよ。ラフィスフィアの連中には、負けんじゃないよ!」


 幼い容姿に似合わず眉を吊り上げて、口角泡を飛ばす勢いで話すミュールの姿は、ある種シュールでもあろう。幾ら、通じ合った仲であっても、事情を全く知らない眷属三柱は、首を傾げてミュールを見つめた。


「ミュールよ、それじゃ説明が足りんじゃろ。お主はいつもそうじゃ。冬也にきつく当たるのは、同族嫌悪ってやつかの」

「ふざけんじゃないわよ! 誰があんな馬鹿に似てるって?」

「ベオログ。ミュール様とあの馬鹿を、一緒にするんじゃないよ!」


 ベオログの言葉に対し、ミュールとゼフィロスは、激しく抗議する。ベオログは、深いため息をついて言葉を続けた。


「負けず嫌いな所がそっくりじゃ。ゼフィロス、お主もじゃぞ。一々反論しないで、話を進めんか! どうせ、前にペスカが言っておった、地上の者を眷属にする計画とやらが関係しておるのじゃろう?」


 アルドメラクが倒されて直ぐの頃である。ペスカは失った神々を補充する為の方法として、地上の者を神の眷属に至るまで育成する案を、幾つか提唱していた。

 ただ、当時はどの神々も神気を使い果たしており、急激に変化する世界情勢の対応にも追われて、眷属を増やすどころでは無かった。

 それから一年以上の時が過ぎ、地上が幾ばくかの落ち着きを取り戻した今、再び眷属化の案が進んだのだろうと、ベオログは考えていた。確かにそれは、ペスカの意図した一部である。


「ベオログ。それも重要だけど、単なる手段に過ぎないよ。今回の目標は、地上の経済発展さ。大規模な祭りを仕掛ける事で、一気に景気を上昇させるんだよ」

「そんな上手く行くんかの?」

「行くさ。何せペスカが絡むんだ。あいつが、下手を打つはずが無い。今頃は、各地を駆け回って小細工してるよ」

「とんでもない子ね、ペスカちゃんって。それでミュール様。その祭りは、どんな内容なんです?」

「良い質問だね、カーラ。簡単さ。十六名の代表を選んで、武術を競う大会をする。各大陸から五名ずつを選ぶことになってる」

「大会とやらの、参加者が私達の眷属候補になるって事ですか?」

「その通りよカーラ、あんたは良い子だね。神とその眷属は、大会参加者の補助をする事になっている」

「ミュール様。各大陸から五名ってことは、冬也達は絡まないって事ですか?」

「あぁ。冬也とアルキエルは、審判として大会に参加する。戦いが白熱して死者が出たら、本末転倒だしね。危険な時は、冬也達が力づくで止める事になってる」

「それならズマの奴はどうするんだい? あいつは、冬也の派閥じゃないのかい?」

「その辺りは、話が着いてるよゼフィロス」

「まぁどの道、ゴブリンの寿命は人より短いからのぅ。ズマが寿命を全うする前に、手を打たなきゃならんのぅ」

「ベオログの言う通りさ。あいつは、この大陸では英雄だからね。器としては充分だよ」

「さて。そうすると、参加者を選ぶのは、慎重にしなくちゃならないね」

「ゼフィロス、こういうのは直感が大事なんだ。直に会った方が早い。これから、ズマの所に行くよ! 主だった魔獣を集めさせるんだ!」


 ミュールは強引に話を締めくくると、眷属を引き連れてズマの下へと向かった。


 ドラグスメリア大陸の中央部よりやや南側に有る、大きな山脈地帯に囲まれた広く深い谷。元スールの住処であった大きな洞穴の中が、魔獣王国の中心となっていた。

 冬也の眷属となったスールは、ドラグスメリア大陸に有った住処に戻る事はない。その為、スールは自然の要塞になっており大陸の中央に近い自分の住処を、ズマに譲っていた。


 中は単なる空洞が続くだけで、施設らしい物がそれほど見当たらず、ほとんど自然のままである。それは自然と共に暮らす、魔獣という生物ならではなのかもしれない。元より、サイズが大きく異なる魔獣が共存する社会で、共用の施設を作る事は難しいだろう。


 王国の中心であっても豪奢である必要は無く、国として最低限の機能が果たせればそれで良い。質実剛健である魔獣の姿は、人間や亜人と交流する様になっても変わることはなかった。


 女神一行が洞窟に辿り着くと、何体かの魔獣が迎えに来る。魔獣に先導され洞窟の奥へ進むと、数キロにも及ぶ広い空間に突き当たった。

 空間内には、意図的に掘った様な幾つかの横穴が見える。サイズの違う横穴は、執務用に作られた専用の場所なのだろうか、多種の魔獣が忙しなく出入りしているのが見えた。

 空間の中心部には一際高く石が積まれ、その上にズマが座っていた。高く積まれた石は、巨人達と目線を合わせる為であろうか、ズマの周りには巨人達が並んでいる。また直ぐ傍には、四大魔獣が鎮座している。


 女神一行が到着したのがわかると、ズマは高い石の上から飛び降りた。ズマが飛び降りると共に、ズマの後方で四大魔獣と巨人達が横に列を作り、空間内で作業をしていた魔獣達も足を止める。


「お待ちしていました、ミュール様」


 ズマが女神達に頭を下げるのに合わせて、魔獣達は一斉に頭を下げた。揃った挨拶は、厳しい規律の成せる業なのか、一個の軍隊の様にも感じる。改めて女神達は、秩序の整った魔獣王国の姿に驚愕していた。


「あ、ああ。ズマ、来たのが良く分かったね」

「神気が幾つかこちらに向かった事は、感じていましたから」


 ミュールはズマの返答に絶句した。まさか、神気を感じ取れる程に、器が至っていたのかと。

 単なる努力では至る事は出来ない神に近い領域。それが出来るのは、かつてはエンシェントドラゴンしかいなかった。

 しかし至ったのは、エンシェントドラゴンに最も近いとされた四大魔獣ではなく、弱小の生物であるゴブリンで有るとは、ミュールとて予想だにしていなかった。


「ところで、ミュール様。いらっしゃった理由は、例の大会の件でしょうか?」

「知ってたのかい? ってそりゃあそうか」


 世界議会の一員は、ドラグスメリア大陸からも選ばれている。ミュールの視線は、巨人のテュホンと最古の巨人ユミルに向かう。テュホンとユミルは、ミュールに向かい軽く頭を下げた。


「委細は、テュホンとユミルから聞いております。失礼かとは存じますが、こちらで候補者を選ばせて頂きました」


 ズマが片手を上げると、何体かの魔獣が女神達の眼前に進み出た。


 巨人達から、剣士スルトに守護者アトラス、それと全身に目を持つアルゴスが前に出る。次に前へ出たのは、ベヒモス、フェンリル、グリフォン、ヒュドラの四大魔獣であった。

 

「四大魔獣は、次なるエンシェントドラゴンとして用意された者達と、聞き及んでおります。しかしニューラは死に、スールとミューモは神の眷属となりました。残されたエンシェントドラゴンは、ノーヴェのみ。但し、神の眷属としてスールとミューモがこれからも大地を守護するなら、新たなエンシェントドラゴンは必要有りません。四大魔獣の制約は、形骸化しております。そして、テュホンとユミルは自ら辞退をしました」


 そこまで語ると、ズマは大きく手を広げる。


「いずれも、先の戦いで武を示した者達です。不足は有りますまい」


 女神達の目の前に出た魔獣達は、準備万端とばかりに闘気を放ち、広大な空間をビリビリと震わせる。

 かつての戦いで不甲斐なさを感じ、己を鍛え続けて来たのだろう。女神達が知る以前の彼らとは全く異なる姿に、頼もしさすら感じる。女神達の表情には、自然と笑みが浮かんでいた。


「ズマ。あんた、少し生意気だよ。これからは、私の下で鍛えるからね。それにスルト。あんたに剣をやったのは、私だよ。あんたも私の下につきな。三か月間、みっちり鍛えるから覚悟しておくんだね」

 

 ミュールが言い放つと、ズマとスルトは深く頭を下げた。続けて山の神が口を開く。


「儂と相性が良さそうなのは、ベヒモスかのぅ。よろしく頼むぞ」


 ベヒモスが頭を下げると同時に、次は自分とばかりにゼフィロスが口早に言い放つ。


「私も決めたよ! フェンリル、お前だ!」


 フェンリルが恭しく頭を下げる。そして、最後となったカーラは、目の前の魔獣達を何度も見回して考え込んでいた。


「相性が良さそうなのは、ヒュドラ君とアルゴス君だよね。大会を考えると、ヒュドラ君が有利かな? でも、アルゴス君も捨てがたいよ。あ~ん、どうしようミュール様。二体選らんじゃ駄目ですか?」

「構わないけど、大会に出すのは一体だけだよ」

「やった~! じゃあ、二体ともよろしくね!」


 カーラは、二体の魔獣に笑いかける。ただ、カーラが二体を選んだ事で物言いがついた。


「おいカーラ。ずるいじゃないか! それなら、あたしも二体選んで良いよね!」

「あぁ、構わないよ。あんた等の神気が持つなら、幾らでも選びな。何度も言うけど、出場するのは一体だけだよ」

「よっし! グリフォン来な!」


 ミュールの同意を得ると、グリフォンはゼフィロスに頭を下げる。ただ、アトラス一体が残され、山の神は深く溜息をついた。

 

「それでは、残されたアトラスはどうするんじゃ、全く! アトラスよ、良ければ儂の下に来んか?」


 山の神に声をかけられ、アトラスは恐縮した様に頭を下げた。


 結局ズマが選んだ候補者は、全て神々に眷属候補として選ばれる。眷属候補は、これから長い時間を掛けて神から神気を注がれ染められる。無論彼らが正式に神の眷属となるのは、大会が開催されるよりももっと先の事になるが。


 いずれにせよ大会を経て、眷属候補達は知名度を高めるだろう。三か月の後、彼らの戦いは世間を圧倒させる。優勝候補は、モーリス達アルキエルの弟子だけではないのだと。

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