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改訂版 妹と歩く、異世界探訪記  作者: 東郷 珠(サークル珠道)
第十一章 変わりゆく日常
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第三百三十二話 ロイスマリア武闘会 ~開催へ向けて 後編~

 全員が席に着くと、ペスカは概要の説明を行う。ただ、ペスカの想定外だったのは、女神ミュールから特に反対の言葉が出なかった事だろう。逆に身を乗り出す様にし目を輝かせ、ペスカの説明に耳を傾けていた。

 

「それで武闘会とやらは、場所は何処でやるつもり?」

「ミュール様。タールカールでやるのが、一番被害が出ないと思いますよ」

「でも、ペスカちゃん。大会なのよね? それなら観客はどうするの? タールカールじゃ離れすぎだわ」

「フィアーナ様。どの道、多くの観客を収容出来る施設は作れないですよ。だから、通信機を応用した映像を投影する技術を使います」

「衛星放送みたいな?」

「衛星ではないですけど、似たようなもんです。物作り研究所で、実用段階に入ってるはずですよ」

「ねぇ、ペスカちゃん。会場の見込みは? それに出場者は、どうやって決めるの?」

「ラアルフィーネ様。その辺は、私とお兄ちゃんに任せて下さい。一応、三位までは褒章を考えてます」

「褒章ってのは、金かい?」

「そうですよ、ミュール様。私が溜めた資金の中から出します」

「概ね話は理解したよ。施設の建設と賞金の件は、臨時の予算を組んでみる。ペスカ、あんたは会場の設計図を急いで作りな」

「ミュール様、良いの?」

「構わないよ。その代わり」


 突如、女神ミュールの視線が鋭いものに変わる。鋭い視線と共に、会議室内の空気は一変し緊張感が増す。


「冬也、あんたとアルキエルを含め、あんたの眷属は出場を許さない」


 ミュールの言葉に、冬也とアルキエルは絶句し少しの間、会議室に静寂が訪れる。そして次の瞬間、アルキエルから膨大な殺気が漏れ会議室を包み込む。慌てた冬也は、アルキエルを抑える様に肩を鷲掴みにし立ち上がった。


「なんでだよ、ミュール!」


 冬也は大声を張り上げる。しかしミュールは、座ったまま静かに口を開いた。


「自覚を持てって言ってんのさ」

「意味がわかんねぇよ、ミュール」

「どうせ、あんた等は暇つぶし程度に考えてるんだろ? あんた等が出場したら、優勝は決まってんだ。こっちは、面白くも何ともない。悔しいが現存してる神を全て集めても、あんた一人にすら勝てないんだ」

「そんな事ねぇだろ!」

「冬也。あんたの相手になるのは、辛うじてペスカかアルキエル位なもんさ。どの道、あんたは賞金なんて興味ないだろ? 他の奴に譲ってやりな。今回あんたは裏方だよ、暇なんて感じない位に働いて貰うよ」


 ミュールの意図を理解し、冬也は言葉を失う。そしてアルキエルは、冬也に肩を強く掴まれたまま口を開く。 

 

「それは戦いもしねぇで、負けを認めるって事か、ミュールよぉ」

「何とでも良いなアルキエル。あんたは、自分の弟子と同程度の腕しかない奴等に勝って嬉しいのかい? 強い奴と戦いたいなら、相手は自分と同じ冬也の眷属にするんだね」


 ミュールの正論に、アルキエルは返す言葉を持ち合わせてはいなかった。冬也とアルキエルの両名を黙らせると、ミュールはペスカに視線を向ける。 


「それでペスカ。あんたの目論見も吐いちまいな」

「はぁ、ミュール様。突っ込みが厳しいよ」

「いいから、全部話すんだよ!」


 ミュールの射抜く様な視線を受け、ペスカは溜息をついた。


「全くもう。あのね、出場者が十六名のトーナメント。それで、出場者は必ず神様とペアを組むこと!」

「その意図は、眷属候補の育成とでも言いたいのかい? 余計なお世話なんだよ!」

「だからって、神の不足は深刻ですよね」


 ミュールは腕を組み空を仰ぐ。他の女神達の視線がミュールに集まる。冬也が再び椅子に腰かけ、アルキエルは落ち着きを取り戻していた。

 ミュールは少しの間、考える様にすると、再びペスカに顔を向ける。じっとペスカを見据えるミュールの視線は、続きを話す事を促す様にも感じた。

 

「こういうのは普通、出場者を募集するもんだけど、今回はしないつもり。出場者は神様が選ぶの」

「それは、私が複数選んでも良いって事かい?」

「ミュール様。構いませんけど、独り占めは良くないですよ。山さん達にも譲って下さいね」

「言ってみただけさ。他に条件は有るのかい?」

「ラフィスフィア、ドラグスメリア、アンドロケインの各大陸で五名ずつ出場者を選ぶ事」

「そうすると、アルキエルの弟子達はどうするんだい? 眷属候補にするなら、奴らが一番じゃないかい?」


 ミュールは少しアルキエルを見やると、ペスカに問いかける。それは、彼等が全てペスカや冬也を信奉する一派だと見做されていたからであろう。

 しかし冬也は勿論の事、ペスカも勢力争いには全く興味が無い。寧ろ、自分達の周りにだけ力有る者達が集まり、危険視される事の方が問題だとさえ思っている。だからこその、提案なのだ。


「好きに選んで下さって構いませんよ。但し、同じ大陸内から出場者を選んでくださいね。ドラグスメリアの神は、ドラグスメリアからです。アルキエルもそれで構わないよね?」

「構わねぇよ。奴らには可能性が有る。俺の眷属になるよりは、他のまともな神の眷属になった方がましだ」


 呟く様に漏らした後、直ぐにアルキエルは挑発的な目線で女神達を見据えた。


「ただよぉ。中途半端な神じゃ、奴らは首を縦には振らねぇぜ。どいつも根性の座った奴らだ、断られない様に頑張れや」


 自分は血塗られている。だから大切な弟子達を自分の眷属にしてはならない。しかし、簡単に他者へ預けるつもりは毛頭ない。それだけモーリス達が、アルキエルにとって特別な存在となっている。


 特別であるから、大切に思うから、彼らには真っ当な道を歩いて欲しい。その為にならば、彼らを他者に預ける事もやぶさかではない。


 ただし眷属にと欲するならば、神側もそれなりの根性を示せ。


 そんな複雑な心境を慮る様に、冬也はアルキエルの肩を優しく叩く。そして、ペスカは優し気に目を細めた。

 先程の緊迫した空気とは異なり、会議室に静けさを取り戻す。そして、これまで静観していた女神フィアーナが、ゆっくりと口を開いた。


「さあ、話はまとまりそうね。ところで、ペスカちゃん。出場者の計算が合わないわ。後一名は、どうするの?」

「フフン、フィアーナ様。それは特別枠ですよ。スペシャルゲストを連れてきます」

「スペシャルゲスト? それって誰なの? 言っておくけど、そこら辺の子じゃ、モーリス君達には太刀打ちできないわよ」

「フフン、大丈夫ですよ。それと連れてくる人は、当日の秘密です」

「ペスカちゃん。どんな子を連れてくるんだか知らないけど、迷惑をかけない様にね」

「わかってますよ」


 そう言って、ペスカは満面の笑みを浮かべて胸を張る。フィアーナは、そんなペスカを心配そうに眺めながら、ある推測が頭に過った。

 

 ペスカがタールカール再生の為に、資金を貯めている事は知っている。例え自分達が企画に反対したとしても、世界にはこの子に賛同する者は多い。造作も無く、目的を達成するだろう。

 それだけの影響力をペスカは持っている。力が一極に集中するのは良くない。だからミュールは、大会をペスカに仕切らせない様に立ち回った。


 ただ、当のペスカは気にも留めていないどころか、こちらに有利な条件を提示してくる。最終的には、ペスカは何も損をせずに目的を達成しようとしている。割に合わない思いをしたのは、冬也君とアルキエルだろう。

 今更ながら、冬也君が反発する事さえも、この子にとっては計算の内だったのかと思わされる。


 ペスカに悪意が無いから、質が悪い。


 物作り研究所をペスカから切り離しても、新たな技術が生まれてくる。様々なアイディアがペスカから生まれて認めさせられる。

 様々な制約がある中で、自由である事は決して簡単ではない。それでもこの子は何にもとらわれず、自由気ままに欲しい物を探し、やりたい事をやる。結果的にそれが、良い方向へと導かれる。

 恐らくこの子を縛り付ける事なんて、出来ないんだろう。これが世界を変える原動力なのだろうか。


「ほんと、参ったわ」


 フィアーナは零す様に呟いた。それを見ていたラアルフィーネは、苦笑いを浮かべた。 


「取り合えず、細かい取り決めは後日にしましょう。さて、忙しくなるわよ」


 フィアーナの掛け声で、会議は解散となる。


 そして何度かの会合を重ね二週間の後、世界中に告知が行われる。簡便な内容の告知では有ったが、出場者の錚々たる顔ぶれ等、初の武術の世界一を決める戦いは世界中の者達を驚嘆させた。


 観客は応募者の中から抽選で決定する事から、世界中から観覧の応募が殺到する。ただ、一部の者しか観覧出来ない訳では無い。世界中の各拠点で、無料で映像を見れる事も有り、多くの者達を歓喜させた。


 盛り上がりを見せる中で、各地では様々なイベント関連グッズが作られていき、飛ぶように売れていく。一気に祭り騒ぎになっていき、優勝者を予想した賭けすら発生する。

 三か月後の開催に向け、大会ムードに染まっていくロイスマリアは、急激に景気が上昇する事になる。

 

 その裏で、施設建築の資材を現地調達する為に、冬也とアルキエルはタールカールの土地に神気を流し活性化させる。同時に、ドワーフとサイクロプスの技術者集団が、東京ドーム十個分もの大規模な施設を造り上げていく。物作り研究所では、映像通信機器を急ピッチで作り上げる。

 そして、実際に選ばれた出場者達は、大会に向けて修行に精を出していた。


 ☆ ☆ ☆


「ってな訳で、大会の二週間前くらいに呼ぶからね。準備しといてね」

「はぁ? ふざけんな! 久しぶりに連絡してきたと思えば、何言ってやがんだ! 俺は忙しいんだよ、そんな暇はねぇ!」

「何が忙しいの? どうせ悪霊がどうのってやつでしょ?」

「ちげぇ~よ馬鹿! 変な能力を持った奴らが残ってんだよ! いや、寧ろ増えてやがんだ! 話しが違うだろ、フィアーナの奴!」

「そんなの、空ちゃんと翔一君が居れば、楽勝じゃない」

「そう簡単にも行かねぇんだよ! 東京都にどの位の人間が居るか知ってんだろ? 一般市民の安全が優先されるんだよ!」

「だったら、余計にこっちに来て、パパリンもパワーアップしたら?」

「くそっ、それもそうだな」

「久しぶりにお兄ちゃんと稽古が出来るよ。嬉しいでしょ?」

「嬉しかねぇよ! それとあんまり俺を舐めんじゃねぇ! あの半人前の馬鹿がどう頑張ろうと、俺に敵うわきゃねぇんだ!」

「フフ、ホントそっくり。じゃあ、そう言う訳で。またね」

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