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第三百八話 アルキエルとの決着

 かつては、親友と呼べる友がいた。互いに技を磨いた日々は、とても充実していた。しかし、アルキエルは親友を殺して、自分の中に取り込んだ。親友である槍の神が最後に残したのは、「疲れた、もう終わりにしよう」であった。


 アルキエルはそれ以降、全ての戦いの神へ挑戦し吸収していった。

 

 冬也の言葉を受け、アルキエルの中に蘇ったのは『親友の最後の表情』ではない。共に汗をながした『輝かしい日々』の事であった。


「アルキエル。楽しいな! お前と競うのは本当に楽しい!」

「俺もだ、メルロイ。俺は生み出された意味が分からずいた。あの鬱屈した日々が、晴れていく様だ。お前のおかげだ」

「感謝をするのは、俺の方こそだ。神であるが故に、生まれながらにして最強。何を目的にこの先を過ごせば良いか検討もつかない。だからと言って、人間の戦争に力を貸すのは御免だ」

「メルロイ。人間はいつも勝手だ。戦の時だけ、俺達に祈りを捧げる。俺だってそんな下らねぇ事に力を貸す気はねぇぜ」


 技を競い疲れた後は、決まって互いの愚痴を吐き出した。アルキエルにとっては、その瞬間さえ楽しかった。


 そんな輝かしい日々は、長くは続かない。ある時を境に、槍の神メルロイの顔は曇っていった。

 親友が悩んでいるなら、力になりたい。でも、どうすれば力になれるかわからない。アルキエルは葛藤を続けながらも、槍の神メルロイとの手合わせを続ける。だが日を重ねる毎に、槍の神メルロイから集中力が欠けていく。


「どうしたメルロイ。最近、身が入っていないようだが」

「いや、何でも無い」

「何でも無い事はねぇだろう。話してみろ、すっきりするかもしれねぇぞ」

「戦は止まない。小競り合いも続く。俺達は戦の神だ、どちらかに加勢しなければならない。だが、そんな事はもう沢山だ。俺達は、何の為に生まれたのだ」

「お前の言う事は、いちいち難しいぜ」  

「まぁ、お前には早かったのかな」

「わりぃなメルロイ。役に立てねぇでよ」

「アルキエル。お前は気晴らしになってる。それだけで充分だ」


 アルキエルは、友の悩みを理解出来なかった。悔しい、そして情けなくも感じる。なにより悔しいのは、友の力になれない事だ。


 難しい事は、わからねぇ。何の為に生まれたかなんて、知りはしねぇ。存在意義なんて理解しても、糞の役にもたたねぇよ。今が楽しければ、それで良いじゃねぇか。

 勝負に没頭しねぇから、余計な事を考えるんじゃねぇのか? なら、没頭させる位に、俺がつよくなりゃ、いい話じゃねぇか。


 そんなアルキエルの思いとは裏腹に、日を追う毎に槍の神メルロイの表情から生気が失われていく。それに気が付かないアルキエルではない。

 そしてアルキエルは奮闘した。日々の稽古では、友の顔に笑顔を取り戻す事は出来なかった。


「アルキエル、戦いとはなんだ? 殺し合いとはなんだ?」

「戦いは戦いだ。それは殺し合う事だろ? 違うのか?」

「そうだ。俺達の力は所詮他者を害する力だ。極める事になんの意味が有る?」

「そんな事はわからねぇよ」

「俺達は何の為に生まれた? 人を殺すためか? 殺すための技を伝える事か?」

「難しい事はわからねぇ。でもよぉ、殺すの何のってそんなに大事な事か? お前とやり合うのは楽しいけどなぁ」

「俺もだ。お前と技を競う事は、何よりも楽しい。何故、それが奴らには理解出来ない。何故、奴らは成長しようとしない。俺はもう疲れた。こんな力なら無い方が良い。俺たちが存在するから戦いは増長する。俺達はいない方が良いのかもしれない」


 手合わせの最中に投げかけられた言葉を、アルキエルは何一つ理解が出来なかった。


 友がやつれていく。それだけは、何とかしてやりたかった。友の心を少しでも軽くしてやりたかった。

 しかし、自分に出来るのは剣を交える事だけ。せめて、剣で気持ちを届けよう。そして、アルキエルは剣を振り下ろす。しかし槍の神メルロイは、愛槍を放り投げて両手を広げた。

 

「アルキエル、俺はもう疲れた。お前の手で終わりにしてくれ」


 友の口から放たれた言葉に、アルキエルは耳を疑った。その瞬間に、理解が出来ぬ喪失感が、アルキエルの中に生まれていた。

 勢いよく振り下ろした剣は、止める事が出来ない。いつも簡単に攻撃が捌かれる。だから渾身の力で剣を振り下ろした。その攻撃が、大切な友の体を傷つけていく。


 怖かった。


 友を失いたくなかった。でも、友の言葉は理解が出来ない。だから、全力でぶつかる事しか出来なかった。


 嫌だ。


 目の前で、大切な友の神格が崩れていく。神気が失われ、権限した体は薄れていく。


 そしてアルキエルは、咄嗟に思った。今は理解出来なくても、友の思いが自分の中で生き続ける限り、友の願いは叶うだろう。


 だから、友に語った。


「俺が答えを見つけてやる。どれだけ時間がかかっても、必ず見つけてやる。だから、俺の中で永遠に生きろ、槍の神。メルロイ!」


 ☆ ☆ ☆


 アルキエルの頬を一筋の涙が伝う。それは、決して流さないはずの涙、いつの間にか友の消失と共に封じてしまった心。

 何故、こんな大事な事を忘れていたのだろう。友の大事な言葉を忘れ、何故自分は暴走したのだろう。


「なぁ、アルキエル。俺は死の世界で、一部始終を見た。槍の神の意思は確かに、お前の中で生き続けている。わかるか? お前の剣を止めたのは、メルロイの意志だ! お前は歪んだまま、親友の意思を裏切り続けるのか? このままで良いのか?」

「良くねぇよ。良い訳がねぇ。だが、俺は道を間違えた。あいつの言葉をもっと理解してやれば……」

「後悔する事が、やれる事なのか? アルキエル、お前はこれからどうしたい?」

「メルロイの意思を継ぎたい。だが、もう遅すぎる。神々は俺を許さねぇだろう。遅すぎるんだ……、冬也」


 アルキエルの表情は、曇ったままだった。自分の間違いに気が付き、後悔をする。それで、罪が消えるはずも無い。誤って許される事をしていない。後悔しても、遅すぎる程の罪を重ねて来たのだ。


 アルキエルは、それ以上一言も口を開かなかった。そして暫くの沈黙が続く。


 冬也はアルキエルとの再戦前に、決めていた事があった。

 アルキエルが、戦いの神という枠を超え、新たに目標を定める事ができるなら。それが、世界の為になり得るなら。全ての神を敵に回しても、アルキエルを守ろうと。


 優しく語り掛ける様に、アルキエルの心をほぐす様に、静かに冬也は言葉を紡ぐ。


「アルキエル。お前はまだやり直せる。もしやり直す気が有るなら。親友の願いを叶えたいと言うなら、俺が力をかしてやる。俺がお前を守ってやる」


 冬也の言葉に、アルキエルは顔を上げて冬也の瞳をじっと見つめた。


「アルキエル。お前は俺の眷属になれ」

「何を言ってやがる冬也。そんな事が出来るはずがねぇ。そんな事をしたら、お前が罰を受けんだろうが」

「馬鹿かアルキエル。文句言う奴がいたら、俺が黙らせる。お前は、簡単に消滅しちゃいけねぇ。これから長い年月をかけて罪を償え。その為の措置だ理解しろ!」


 アルキエルは、長く沈黙を続けた。簡単に出せる答えは出せない。

 己の間違いに気が付いた以上は、罪を償わなければならない。だが、友の意思を継ぐ事で、もし世界の役に立てるのなら。長い逡巡が続いた。そしてアルキエルは、ゆっくりと冬也に向かい、大きく頷いた。


 冬也は、アルキエルが頷く姿を見て笑みを深めた。そして、アルキエルの肩に触れると、ゆっくり神気を流し込んでいく。アルキエルを自分の神気で満たす。

 自分よりも遥かに強い神気を持つアルキエルを、神気で満たすのは冬也とて困難な作業である。

 

 更に時間が経過する。そして、冬也とアルキエルの間に神気のパスが生まれた。

 

「これで、お前は俺の眷属だアルキエル。我儘言わねぇで、俺の言う事を聞くんだぜ」

「けっ。それは保証出来ねぇな冬也」

「まぁ好きにやれ。滅多な事をしねぇ限り、俺はお前の行動を縛りはしねぇ」


 アルキエルとの決着はついた。そう確信した冬也は、ペスカに視線を送り、地上に戻ろうと転移の準備に取り掛かる。そんな時に、冬也の後方からアルキエルの声が聞こえる。


「おい冬也。まさか、俺を置いてくなんて事はねぇだろうな」

「いや、だから好きにしろって言ったろ」

「あぁ、だから好きにするさ。てめぇに着いて行くのも俺の勝手だろう、主様よぅ」

「仕方ねぇ野郎だ」 

「それに、手伝いは必要だよな? あぁ?」

「はぁ……。どうなっても知らねぇぞ? まぁお前の事だから、滅多な事で死にゃしねぇだろうけどよ」

「ったりめぇだ、糞ボケ! 俺を見くびるんじゃねぇよ! あんな糞雑魚は、とっとと片づけようや」

 

 冬也がアルキエルと戦っている間、地上でも戦いは続いていた。エルフの暴走に加えモンスターの増殖と、地上での戦いは苛烈を極める。

 しかし、神と地上の生物が力を合わせて立ち向かう。困難な状況に置かれ様とも、決して負けてはいなかった。

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