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第百八十六話 新たな神

 天と地の境には、何が有るのだろう。

 その境界を越えたら、何が見えるだろう。

 人は天を仰ぎ、見果てぬ彼方の夢を見る。

 だが人は知らない、そこは世界を造りし者の住まう国。

 人知を超える神の世界。


 ☆ ☆ ☆


 邪神ロメリアが消滅してから十日が過ぎ、神気を少し取り戻した女神フィアーナが、地上に再び舞い降りた。

 約束を果たし、女神フィアーナが日本に繋がるゲートを開く。それは同時に空と翔一にとって、ペスカや冬也と長い別れの始まりでもあった。


 それぞれの想いを胸に、空と翔一はゲートの前に立つ。

 涙は流さないつもりだった。だが、自然と瞳から溢れてくる。どれだけ涙が溢れても、笑顔は決して崩さない。


 空と翔一は笑って手を振る。

 

 空は天を仰ぎ誓う。必ずここに戻って来ると。


 翔一はその瞳に刻み込む。親友とその妹の姿を。


 冬也は祈る。二人の幸せな未来を。


 そしてペスカは言葉を紡いだ。


「いつか、また会おうね」


 辛い戦いの日々だったが、過ぎてしまえば短い様に感じる。日本にいれば、漫然と過ごしただろう日常は、完全に覆された。当たり前の価値観は、大きく揺るがされた。

 その経験を糧とし、空と翔一はゲートに足を踏み入れる。

 

 ゆっくりと二人の姿が、ゲートに吸い込まれていく。続いてクラウスが、ペスカと冬也に深々と頭を下げる。その瞳は決意に燃え盛っていた。

 

「必ず、大いなる知識を得て、戻ってまいります」


 クラウスの言葉に、ペスカは力強く頷き、冬也は優しく微笑んだ。そして、クラウスの姿もゲートの中へ消える。予定通り空達を日本に送ると、女神フィアーナはゲートを閉じた。


 感慨深く、ペスカと冬也は別れを嚙みしめる。ゲートを閉じた女神フィアーナは、ペスカと冬也に向かい声をかける。


「それじゃあ、私達も行きましょうか」

「はぁ? 何言ってんだ、お袋」

「そうですよ、フィアーナ様。どこに行くんですか」

「や~ねぇ。言わなかったっけ、神の世界よ」


 別れの悲しみをぶち壊す様な、女神フィアーナの発言が飛び出す。予想外の言葉に、ペスカと冬也は呆ける様に口を開けた。そして、瞬きをした後には、見知らぬ風景が二人を包んでいた。

 驚きの余り僅かの間、ペスカは声を失った。そして冬也は声を荒げる。


「おいこらぁ! ここはどこだよ! 今度は、何を企んでやがる!」

「企むだなんて、酷いわね。ペスカちゃん、そう思わない?」

「思いませんよ、フィアーナ様。本当にここどこです?」


 女神フィアーナは、その場でクルリと一回転してから、ポーズを決めて言い放つ。


「ようこそ。神の国へ」


 まるで効果音が流れている様に、女神フィアーナはビシっとポーズを決めている。ペスカと冬也は、まるで興味を示さないどころか、共に頭を押さえた。

 二人は辺りを見回すと、女神フィアーナに言い放つ。


「出口ってどこ?」

「出口はどこだよ!」


 息の合った二人の声に、女神フィアーナは動揺している様だった。地上の生物が、決して足を踏み入れる事が無い神の世界。感動が有ってもいいはずなのだ。寧ろ、涙を流して感動してくれても、いいはずなのだ。


「あのね、二人共。ここは神の国よ、人間には来れない場所なのよ。なのに直ぐに帰るって、どういう事?」

「いや、俺は人間だし。興味もねぇし」

「うん。わたしもお兄ちゃんに一票」

「なんでよ、光栄な事なのよ。過去に人間が呼ばれた事は無いのよ」

「それは、生きてって事じゃねぇのか?」

「お兄ちゃんの言う通りだと思うよ。死後に神様になるなら有り得るけど、生きている内にってのはね」


 ペスカと冬也が白い目で、女神フィアーナを見る。

 二人からすれば理由も聞かされず、訳のわからない所に連れて来られたのだ、正当な反応だろう。

 普通はこの様な事を拉致と呼ぶのだが、神にとっては些細な問題なのだろうか。平然と喜べと言う女神フィアーナに、ペスカと冬也は辟易させられていた。


 暫くの時間、問答は続いた。やがて呆れた様な声が、遠くから聞こえて来る。

 声のする方角を向くと、一柱の女神が近づいてくるのが見える。女神フィアーナは、助けを求める様に、近づく女神に駆け寄った。


「セリュシオネ、あなたからも言って頂戴。大事な用が有るのに、この子達は帰りたいって言うのよ」

「ちょっと待てお袋! 大事な用って何だよ! 何にも聞いてねぇぞ!」

「そうですよ、フィアーナ様。普通は用件を言ってから、連れて来ると思いますよ」


 女神セリュシオネは、深い溜息をついてから、ペスカと冬也を一瞥した。


「可哀想に。君達は拉致被害者って事だね。でも、用が終わらないと帰れない。諦めて、神の協議に参加する事だ。それとフィアーナ。もう皆が集まっています。早くこの子達を連れて来て下さい」


 女神セリュシオネは、淡々と言い放つ。そして再び溜息をつくと、足早に立ち去った。女神フィアーナは、その後を追いかける様に歩き出した。勿論、ペスカと冬也の手を引いて。

  

 神の世界。そこは、不思議な空間であった。


 足元には何も無い様に見えて、しっかりと踏みしめる事が出来る。部屋が現れては消え、歩く度に景色が変わる。物理的な構造を、全く理解が出来ない。とてもこの世の物質で、造られたと思えない。次元的な観点でも説明が覚束ない。

 

 漠然と歩けば、迷いそうな空間である。女神フィアーナに手を引かれなければ、目的の場所にすら辿りつかないだろう。

 やがて、忽然と部屋が現れ、一同はその中に入る。部屋の中は、体育館よりも大きいと思われる広さがあった。中央部に対し半円形型、そして階段状に据えられた席に、多くの神が座っていた。


 入室したペスカと冬也に、否応なしに神々の視線が集まる。途端に場内は、騒然とし始める。

 咄嗟に冬也は、ペスカを背に隠す。そして、周囲に睨みを利かせた。しかし、当のペスカは半円形上の席を見て、国会でしどろもどろに答弁する大臣の姿を、呑気に思い出していた。

 

「さあ、始めましょうか」


 女神フィアーナの一声で、場内は静まり返る。流石は大地母神なのであろう。その堂々たる声は、普段見せない偉大な神の姿を彷彿とさせる。

 そして静まり返った場内に、女神フィアーナの声が響き渡る

 

「混沌勢により、ラフィスフィア大陸に多大な犠牲が出ました。ですが、今こうして混沌勢は消滅し、新たな英雄が現れた事は、皆さんが周知の事だと思います。我々はこれを歓迎し、新たな英雄を神の一員として迎えたいと思います。疑義のある者は前へ」


 再び静寂が議場を包む。暫く続いた静寂を壊す様に、一柱の男神が立ち上がった。


「フィアーナ。貴女のご子息はともかく、そこの娘は資格が有るのか?」

「ペスカは内に秘めた神気で、ロメリアの神域を浄化した実績があります。それが資格では不満ですか?」


 それが引き金となり、議場は喧々諤々となっていく。

 半神如きを神の一員には認めない。たかが人間が、我等の同胞には成り得ない。いや、混沌勢を滅ぼしたのだ、認められて当然だ。

 身贔屓は許されない。何を言う、贔屓では無いだろう、実際に力を証明してみせたではないか。そうだ、あそこまで力をつけたロメリアに渡り合う事は、原初の神でも出来ぬ事だ。

  

 騒然とする議場で、何柱かの神々は成り行きを見守っていた。


 神々の世界でも、大きな影響力を持つ原初の神々。世界を造りし者の言葉は、決して軽く無い。

 そんな原初の神々が、言い争いに耐えかねたのか、少しずつ口を開いていく。


「俺は賛成だぜ。なぁ雨の」

「応よ、風の。こんな面白い奴らは、他におらんだろ。所で死と生の、お主はどう思っておるのだ。不満そうな顔をしおって」

「別に、不満は有りませんよ。ただ、フィアーナの息子とは馬が合わないだけです。ただ、感情で判断する程、稚拙ではありません。私も賛成します」


 原初の神々が、次々と賛同していく。そして自然と促される様に、賛同する神が増えていく。その極めつけは、二柱の女神の言葉であった。


「私は勿論賛成よ。冬也君は、未来の旦那様だもの。それにペスカちゃんは、義理の妹になるの。楽しみねぇ」

「相変わらず色ボケね、ラアルフィーネ」

「いやね、ミュール。私は愛も司るんですもの当然よ。そう言うドラグスメリア側は、どうするのかしら?」

「私も賛成よ。ただ、条件を呑んでくれたらだけどね」

「あら、条件って何かしら?」

「ロメリアの遺産が、ドラグスメリアで育ってるのよ。不味い事に成りかけてるの。その子達の力を貸して欲しい。浄化に手を貸したんだし、嫌とは言わないわよね、フィアーナ」

「わかったわ、ミュール。約束しましょう」

「フィアーナ。ミュールの言ったロメリアの遺産は、くれぐれも気を付けた方が良いかもしれません」

「セリュシオネ? どういう事?」

「杞憂であれば良いのですが。余りにも小さかったんですよ。ロメリアの神格が」

「まさか……」

「その可能性も視野に入れておいて下さい」

「わかったわ。一先ずは、決まりで良いわね」


 女神フィアーナは、議場を見渡して再び声を上げる。


「賛成多数で議案は決定とします。この時を持って、英雄ペスカ、神の子冬也は、神の一員となります」


 議場が拍手に包まれる。終始、呆然としていたペスカは、拍手の音で我に返った。


「えっ! ちょっと、とんでもない事を言わなかった?」


 場違いな空気を感じていたペスカは、全く別の事を考えていた。その為、何も頭に入って無かった。

 協議会が終わり、次々と姿を消していく神々。目を皿の様にし、辺りを見やるペスカ。何柱かの神は、ペスカ達に声をかけて消えていく。

  

 再びペスカと冬也は、得体の知れない事態に巻き込まれ様としている。ペスカと冬也に安寧が訪れるのは、暫く先になるだろう。

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