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二人は常に宙を舞う  作者: 明日 透
転生編
9/11

第8章 空にあこがれて

 あれから、数日が経った。もう、村はすっかり通常モードに戻っていた。

 それにしても、やることがない。あるとしても、マリンさんのお手伝いか、アンさんに会いに行くかくらいなもので、それ以外全くやることがない。異世界だから、きっと楽しいことだらけだろうと思っていたあの頃が懐かしい思えるくらいだ。冷静に考えてみればそうだ。異世界には、ゲームやテレビ、スマホ、いわゆる情報端末が一切ないのだ。娯楽と言っても、村の小さな劇場でやっている映画か、それこそアンさんのいる図書室の本くらいしかない。確かに、競馬などもあるにはあるのだが、未成年なので買えない。王都で流行しているとかいうカードゲームもあるのだが、流通量が少なく、場所も場所だけあって、1枚が家が買える値段レベルまで高騰していて買えない。もしも、私たちに魔法が使えたら、もっと楽しかったのかもしれないが、できるのは、空を飛ぶことだけ。今思えば、空を飛ぶってそこまでいいものなのか?初めて空を飛んだときは、確かに楽しかったし、最高だと思えた。しかし、慣れてしまえばそれまでなのだ。ただただ暇だった。

「どうしようか。」

私は机に顔をつけて言った。

「うーん、どうしようか。」

富美はソファに寝転がりながら言った。さっきからこれが永遠と続いている。まるで、夏休み、というか、場合によってはニートにも見えなくもない。別にニートに見えるからといって、働いたら負けとは思わないし、できれば働いた方がいいじゃないかとは思う。どうにかして、この怠け者&暇状態を終わらせなければいけない。

「そうだ、散歩しない?」

富美は身体を起こして言った。

「うん、そうだね。それくらいだよね。」

私は言った。私と富美は家を出て、村を散歩することにした。これまで、色々あってきちんとまわる機会もなかったため、これを機に一度村中をまわってみることにした。

 やはり、散歩をするときにしかわからない発見というものはあるもので、不思議な建物や変わったお店など、色々なことを発見できた。そして、しばらく歩いていると、とある空き地で作業している人々を見かけた。彼らは大工なのか分からないが、木材を運んだり、何かを一生懸命組み立てたりしている。

「ここから、少し左だ!」

空から声が聞こえた。私と富美はどういうことだろうと思い、空を見上げた。すると、ヘルメットを被った作業着姿の男性が、翼を生やして空を飛んでいた。

「ふぁああああ!?!?」

私と富美は驚いた。その声に気づいたのか、その男性は、私と富美に向かって手を振って、目の前へと降りてきた。

「あ、こんにちは、噂のカップルさん。」

男性は言った。私と富美は恥ずかしくなった。

「この呼び方では、ちょっと……。」

男性は、やってしまったという顔をして言った。

「すまない、俺は、シードってんだ。君たちは?」

「西島明です。」

「井田富美です。」

「おう、よろしくな。」

シードさんは言った。そして、続けてこう言った。

「この前はすまなかったな。」

「すまなかった?何かしましたっけ?」

私は聞いた。

「いや、君たちがここにきて間もないときに、木の板が飛んできたときがあっただろ。」

シードさんは言った。確かに、そのようなこともあった気がする。

「はい。」

富美は言った。

「あれ、俺が運んでたときに飛ばしちゃった奴なんだよな。それで、まさかあんなことになるとは。ごめんな。」

シードさんは頭を下げた。

「大丈夫ですよ、過ぎたことですから。」

富美は言った。

「いえいえ、気にしなくていいですよ。」

私も言った。

「ああ、それはよかった。本当に。それだけが気がかりでよ。」

シードさんは頭をかきながら言った。

「ところで、何をしてるんですか?」

私は聞いた。

「船を作ってんのよ。」

シードさんは自慢げに言った。

「船?ここら辺には、大きな川も海もありませんけど。」

富美は聞いた。

「そう、この船はただの船じゃないのよ。」

シードさんはこういうと、両手を広げて、

「この船は空を飛ぶ船なのだ!」

と言った。

「空飛ぶ船!?」

私と富美は言った。

「そうよ、これが完成すれば、王都までひとっ飛び。これまでの運送に関する問題や立地の問題も解決できる!」

シードさんは言った。私と富美はすごいといわんばかりに拍手をした。

「でもな、一つ問題があって……。」

シードさんは言った。

「何ですか?」

私は聞いた。

「それが、こいつを浮かすのに飛行石の塊がいるんだけどよ、運送中に魔物にやられて、根こそぎ奪われちまってよ。どうすればいいか。」

シードさんは悲しそうに言った。

「代わりというか、そういうものは、ないんですか?」

私は聞いた。

「いや、飛行石自体、そこまで流通している石じゃないんだよ。君たちも飛行石のアクセサリーを身に着けているみたいだけど、飛ばすにはその何倍もの大きさの塊が必要でね。」

シードさんは言った。私と富美は、自分の身に着けたアクセサリーをいじりながら考えていた。すると、シードさんが、何かを思いついたようだった。そして、前のめりになって言った。

「そういえば、君たち、『浮遊術師』の『称号』を持ってたよな!?」

私と富美は不思議に思った。

「な、なぜそれを……?」

「だって、俺が飛ばした木を避けようとしたとき、堂々と空飛んでたじゃないか。」

「確かに……。」

私と富美は少し納得した。

「で、だ。この船を浮かすことってできるか?」

シードさんは言った。

「いやいやいやいや、無理ですよ。」

「それに、万が一浮かせたとしても、私たちを王都に連れて行く気ですか?」

私と富美は顔を横に振った。

「そうだよな……。」

シードさんはしょんぼりしながら言った。

「ごめんな、無理言って。」

シードさんは、悲しそうに現場に戻っていく。私と富美は、その姿を見て少し気分が悪くなった。

「何が……。」

私は言った。シードさんは振り向いた。

「何がシードさんをそこまでやる気にさせるんですか?」

私は言った。シードさんは高速で走って戻ってきた。

「それを言ったら、この船を浮かせてくれるのか!?」

シードさんは目を輝かせている。

「いや、さすがにそこまであれですけど、少し力になれたらなぁと……。」

私は言った。

「そうか……そうだよな。何も知らない人に手伝えっていうのは変な話だよな。」

シードさんは笑い出した。

「それじゃあ、今から俺の昔話をするぜ。つまらないと思ったら、聞き逃して構わない。」

シードさんは、静かに昔の話を語り始めた。


――俺は、この村の隅の家で生まれた。生まれつき、俺の背中には、羽がついていた。どうやら、俺は世界で数人しかいない『堕天使』の『称号』と、ありふれてはいるけど、近くに海や川がないから意味のない『造船士』の『称号』を持っていたようだった。それで、『堕天使』は、前世が天使だったが、何かしら事件を起こして、人間に生まれ変わった人のことをいって、背中には大きな羽がついているとのことだった。まあ、事件といっても、悪いことでやられたとかじゃなくて、神様の気まぐれで人間界に落とされたって話もあるみたいだけどな。ちなみに、前世の記憶なんてものはない。とはいえ、元は天使だし、この『称号』を持っている人は少なかったから、村ではそこそこ俺の名が知られるになったんだ。今の君たちみたいにな。勿論、気味悪がって、離れていく人もいなかったわけではないみたいだが、大半の村の人々は、俺に優しくしてくれた。それで、思ったんだ。恩返しがしたいって。『堕天使』とかいう、変わった『称号』でも、優しく接してくれたみんなに恩返しがしたいって。でも、恩返しをするといっても、何をすればいいかわからなかった。そう、思いながら空を飛んでいたんだが、ふと思ったんだ。

「空の景色って誰も見たことがないよな。」

って。俺は、みんなが見たことのない景色を見せてもっと元気になってほしいと思った。それに、もし、空に人を飛ばすことができれば、物流が限られたこの村も、より潤うんじゃないかって思ったんだ。それが、俺なりの恩返しだって思ったんだ。それで、どうやって浮かすかだったんだけど、俺には幸い、『造船士』の『称号』があった。海や川が近くにないこの村で、『造船士』の『称号』を持っていても意味がないと、見向きもされていなかったが、俺の中の何かがつながって、空飛ぶ船を作るのが俺の天職だって思ったんだ。それから、俺は、この村を発展させるために、この船を作っているんだ。――


「長々と意味の分かんないことを言って悪かったな。やっぱり、いいよ。そもそも、恩返しとか言っているが、村の人がそれを自ら望んでいるわけでもないし、俺のエゴだからな。巻き込んですまなかった。」

シードさんは言った。

「シードさん……。」

私はそう言って黙ってしまった。

「みなさーん!」

「差し入れだよ!」

後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。振り向くと、アンさんとマリンさんが、かごを持ってそこにいた。

「アンさんとマリンさん、こんにちは。」

私と富美は挨拶した。

「あ、明さんと富美さん。」

アンさんは言った。

「お二人さんじゃないかい。どうしてここに?」

マリンさんは言った。

「いや、散歩途中にこの船を見かけて、すごいなって……それで、色々シードさんと話してました。」

私は言った。

「そうかい、やっぱシードの作る船はすごいよね。」

マリンさんは言った。

「それで、お二人はどうしてここに?」

富美は聞いた。

「いや、いつも忙しそうに作業していらっしゃるので、差し入れをと。」

アンさんは言った。

「そろそろ太陽が照り付ける季節になるからね。」

マリンさんはそう言うと、差し入れであろう竹の水筒に入った果物のジュースを私と富美にもくれた。

「あ、ありがとうございます。」

私と富美は感謝した。

「いいのよ、最近暑くなり始めてるからね。」

マリンさんは言った。

「おーい、差し入れは!?」

どこからか、作業をしている人たちの声が聞こえた。

「ちょっと待ってね。」

マリンさんはその声に反応して、現場へと行ってしまった。アンさんは、その時に差し入れの入ったかごをマリンさんに預けた。そして、3人だけになった後、こう聞いた。

「そういえば、先ほど、シードさんと何を話していたんですか?」

「いや、船が完成したら一緒に王都へ行かないかって。」

私は言った。

「え、何で、王都に行くんです?」

アンさんは聞いた。

「シードさんも私たちが『浮遊術師』の『称号』を持ってることを知っていて、この船を浮かばせてくれないかって。」

富美は言った。

「動力源代わりですか……。」

アンさんはそう小さく言ったらしいが、私と富美の耳には届かなかった。

「で、話に乗ったんですか?」

アンさんは聞いた。

「いえ……乗ってないですけど。」

富美は言った。そう言った後、アンさんは言った。

「2人とも、その話に乗らなくてよかったですね。」

「え?」

私と富美は驚いた。

「いや、王都って、聞こえはいいですけど、治安もそこそこ悪いと聞きますし、この村ほど優しい人がいるとも限りません。それに、まあ、色々と危険ですし……。」

アンさんは言った。

「いろいろ?」

私は気になったので聞いた。

「いろいろと言ったら、いろいろです!」

アンさんは口を膨らませた。

「怒ってる……?」

富美は聞いた。

「怒ってません!」

アンさんはそう言うが、怒っていると言われても、文句を言えないような顔をしていた。私と富美は、なぜアンさんが怒っているのかわからなかった。

 その日の夜、私と富美は、今後のことを話し合った。確かに、この村は好きだし、村の皆は人柄もいい。それに、アンさん曰く、王都は治安が悪いらしい。そう考えてみると、あまり、メリットがないようにも思えるが、このままだと、とにかく暇だ。理想通りの冒険とはならないかもしれないが、村にとどまっているよりは確実に仕事があるし、暇ではない。それに、国の中心地に行けるとなると、少し気になるところではある。しかも、シードさんから過去の話まで聞いてしまっている。ここまでやってしまったら、もう、行かないという選択肢もないだろうと思った。多分、長旅にはなってしまうだろうが、一度旅立ったからといって、一生この村に戻れないわけでもない。私と富美は、シードさんの話に乗ることに決めた。

 次の日、私と富美は、シードさんのもとへと向かった。

「シードさん、こんにちは。」

私と富美は言った。

「で、どうだ?行ってくれるのか?」

シードさんは言った。

「ええ、1日話し合って決めました。この船に乗ることにします。」

私は言った。

「うおおおおおおおおお!!!!ありがとう!ありがとう!ありがとう!ありがとう!ありがとう!ありがとう!」

シードさんは大きな声で言うと、私と富美の手を握って、高速で上下に振り始めた。

「痛い、痛いですよ。」

富美は言った。

「すまんすまん。」

シードさんはそう言って、私と富美の手を離した。

「そういえば、浮かすってどう浮かすんですか?」

私は言った。

「それはだな……。」

シードさんがにやりと笑った。私と富美は寒気がした。

「とりあえず、中に来てもらおうか。」

シードさんは言った。私と富美は、シードさんに連れていかれ、まだ未完成の船の内部にやってきた。

「これさ!」

シードさんは両手を広げて言った。

「大きすぎて、既に船の中に入ってしまっているんだが、飛行石の浮力を使用した特注のエンジンさ!」

目の前には、巨大なザ・エンジンと言える巨大な機械の塊がつるし上げられていた。私と富美は、声が出なかった。

「そうだろ、そうだろ、俺、こういうの見るとつい興奮しちまってなあ。」

シードさんは言った。そして、シードさんはエンジンについて永延と話し始めた。このパターン、既視感がある。私と富美は徐々に後ろに下がっていった。

「待って、待ってくれ。とりあえず、力をどこに込めるか教えてほしいんだろ?」

シードさんは呼び止めるように言った。

「はい。」

私と富美は足を止めて言った。

「えーと、この巨大なピストンみたいなものがあるだろ。」

シードさんは指を差して言った。そこをみると、パイプのような管にピストンのようなものが入っているのが見えた。

「ほんとはあのピストンの可動部が飛行石になるはずだったんだが、この前も言ったように材料が奪われちまったから、代わりに魔力石でできてる。そこに力を込めて浮かせてくれ。」

シードさんがそう言ったので、私と富美は、そこに向かって力を込めてみた。すると、ゆっくりとだが、徐々にピストンが動き始めた。

「う、動いた!」

動いている様子を見て、その場にいた皆が、声をそろえて言った。

「動いた!動いたぞ!!」

皆は、エンジンが動いたことを喜んだ。

「ありがとう。やっとエンジンが動いて、嬉しいんだ。これから、長い旅路になるかもしれないけど、よろしくな。」

シードさんは泣きながら言った。

「よ、よろしくお願いします。」

別に悲しんで泣いているわけではなくて、うれし泣きという形ではあるのだろうが、私と富美は、シードさんの涙が落ち着くまで、そこにいてあげた。

 私と富美は、王都へ行くことをアンさんにも話すことにした。治安とか安全性とかを心配してくれていたのは嬉しいのだが、大切な友人のためにも、言わなければいけないと思った。そして、シードさんの夢が叶うことのを手伝えたこの喜びを共有しなければいけないと思った。私と富美は、急いで図書館へ向かった。

「アンさん!」

私と富美は言った。

「明さんと富美さん。どうしました?」

「ついに、飛ぶんですよ!」

私は言った。

「飛ぶ?」

アンさんはわかっていないようだった。

「船です、船!」

富美は言った。

「え!?飛行石が見つかったんですか?」

アンさんは嬉しそうに言った。

「いや、それは無理だったんですけど、私と富美が『浮遊術師』の力を使って浮かせることができて、それで船を飛ばすことができるようになったんですよ!」

私は言った。

「そうなんですか!」

アンさんはそこまでは嬉しそうだったのだが、徐々に元気をなくしていった。

「ど、どうしました?」

富美は聞いた。

「……それって、王都へ行くってことですか?」

アンさんは質問を質問で返してきた。

「ええ。」

私と富美は言った。続けて私は言った。

「いや、まあ、少しの間、離れることにはなりますけど、すぐ戻ってこれますし、アンさんとかマリンさんとか色々な人に迷惑かけちゃうなってわかってますけど、なんというか、船が動けば、流通が豊かになるじゃないですか。だから、シードさんと重なっちゃいますけど……。」

私は一呼吸おいてこう言った。

「この村に恩返しがしたくて。」

「そうですよね。マリンさんから聞きましたけど、もともと旅人ですもんね。いなくなるのは当然です。」

アンさんはゆっくりと涙を流した。

「アンさん?」

富美は言った。

「いえ、何でもありません。」

アンさんは言った。そして、最後に笑顔でこう言った。

「王都への旅、楽しんできてくださいね。」

「楽しんできます。」

私と富美は言った。

「お土産忘れないでくださいね。あ、では、私は仕事があるので。」

アンさんはこう言って、奥の本棚へと向かっていった。私と富美は、アンさんの元気がないことを感じていた。本当に伝えてよかったのだろうか。わざわざ助言をしてくれたのに、それを踏みにじってよかったのだろうか。その日は、なんとなく胸が晴れなかった。

 それからしばらくして、私と富美は図書館に向かった。すると、いつものカウンターにアンさんがいなかった。また、どこかの本棚で読みふけているのだろうと私と富美は思った。しかし、それは、すぐに覆された。

「あら、あなたたちが、井田さんと西島さん?」

女の人の声が聞こえた。振り向いてみると、そこには、いつものアンさんと同じ格好をした女子がいた。勿論、見た目から声から全くアンさんではない。

「え、えーと。」

私と富美は戸惑ってしまった。

「そ、そうよね。初めましてだものね。私はこの図書館の司書のエリー。いつもはアンさんが司書をしているんだけど、何故か、唐突に長期休暇を取っちゃって。私がその間、代わりに司書をすることになったのよ。」

エリーさんは言った。

「長期休暇!?」

私と富美は驚いた。

「いやー、ね、私にも詳しくはわからないのよ。急用ができたとか言ってたけど。」

エリーさんは言った。

「他には何か言ってたりはしませんでしたか?」

富美は聞いた。

「うーん、大切な友達が旅に出るとか何とか言ってたね。でも、なんていうか、どこかさみしそうだったね。」

エリーさんからこれを聞いたとき、私と富美は、はっとした。なんて私と富美は鈍感なのだろうか。アンさんが、あの時、怒ったり、なんとなく悲しそうな態度を示していていたりしたのは、初めてできた大切な友達がどこかに行ってしまうのが嫌だったからなのだ。

「ちなみに聞きますけど、王都って治安悪いんですよね?」

私はエリーさんに聞いた。

「いえいえいえ、確かに、この村よりは悪いけど、この村が異常に良すぎるだけよ。治安は一般的な村とほぼ同じ程度よ。まあでも、下手したら、騎士団があるから、一般的な村よりも少しはいいかもしれない。」

エリーさんは言った。治安が悪いとか言っていたのも嘘で、ただ引き止めたかっただけだったのだ。自分もアンさんの気持ちを理解することができた。なぜなら、自分も友人を失くしているからである。最初、この世界に来たとき、異世界に来たと半ば興奮気味でもあったが、裏では、家族や友人と会えないという悲しさを背負っていた。あの時は、富美や村の人という様々な支えがあったが、今のアンさんにはそれがない。船が完成するとなれば、きっと村はお祭りムードになるし、船の出航を賛成している人も多いだろう。そのような中、アンさんの意見を村の人が聞き入れるだろうか。アンさんの気持ちを救う人は現れるのだろうか。私と富美はやるせない気持ちになった。

 私と富美は、エリーさんからアンさんの家の場所を教えてもらい、アンさんの家を訪問した。しかし、どれだけ声を上げても、中から返事がない。それから、毎日、アンさんの家を訪問したが、返事が返ってくることはなかった。仕方がないと感じた私と富美は、郵便受けに次のことが書かれた小さな紙を入れた。


――出航日当日、会いに来てください。話したいことがあります。

  場所は船の前、アンさんが来るまで、絶対船は出航させないから、

    安心してきてください。待ってます。 明・富美――


絶対に船を出航させないと書いたが実際は無理だろうし、何を話そうかも決めてはいないが、アンさんとまた話すにはこれしか方法はないと思った。しかし、もしこれでもアンさんが来ない、もしくは、悲しむようなら、私と富美にも考えはあるが、やはり迷いの気持ちはまだ多く残っていた。

 そうして、友人か約束かどちらを優先すべきか考えている最中、船は竣工した。

【予告】

 明と富美は、アンに話したいことを伝えた。そして、アンは2人の旅立ちを笑顔で見送ってくれた。しかし、その笑顔はどこか悲しげだった。そこで、明と富美は、前から計画していたとあることを実行しようとする――


  次回 第9章 出航 現在公開中


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お久しぶりです(2回連続)、明日あす とおるです。

二人ふたりつねそらうの第8章を読んでいただき、ありがとうございます。今回は2人とアンの間で大きな溝が生まれ、気分の良くない終わり方をしてしまいました。第6章の後書きで私はアンが推しキャラだと書きましたが、進行上、全キャラを常に幸せにさせることはできません。とはいえ、自分の推しキャラがひどい目に遭うのは精神的に辛いものですが、頑張って書いていきます。

さて、事前の告知通り、今回で転生編は終わり、次回から王都編がスタートします。王都編ということは、文字通り王都へ行くわけですが……、2人はアンと仲直りできたのか。王都で新たな仲間はできるのか。王都で2人が知った衝撃的な出来事とは。王都編も見どころ……読みどころ?がいっぱいです。ぜひ、楽しみに待っていていただければと思います。

それにしても、もう9月になってしまいましたね。夏休み期間中は、数章は出せるかなと思っていたのですが、結局1章だけしか投稿できませんでした。投稿できなかった理由は、おそらく次回かその次くらいの後書きに書くかもしれません。ああ、夏休みが終わってしまった……。皆さんは、夏休みの思い出、何かありますか?……と聞いて、夏休みを懐古しても虚しくなるだけですね。頑張って前へ進まなければ。

なお、皆様からのご意見やご感想、心よりお待ちしております。

次回もお楽しみに。

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