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二人は常に宙を舞う  作者: 明日 透
転生編
6/11

第5章 隣人は優しかった

 私たちは、ホーンさんがくれた家へと着いた。古ぼけた家などと話していたが、2階建てで緑の三角屋根の目立つ、しっかりとした木造建築の建物だ。ぱっと見た感じ新築の家と言われても、違和感ないように思える。

 中に入ってみると、とても広い。家具もすべてそろっている。もしかして、神様の言う衣食住の保障するというのは、この出来事を踏まえた上でのことだったのかもしれない。

 この家の前には、少し細い石畳の道路があるが、現時点では、そこまで人通りもないので、静かに過ごせそうである。家の後ろには、大きな芝生の庭が広がっており、直前まで誰かが整備してくれていたのか、雑草だらけでみすぼらしい姿になっている様子は全くない。暖かい日差しが入り、庭の中央では、蝶がひらひらと飛んでいる。

 2階に行ってみると、部屋も2部屋あって、ベッドも各部屋に1つ備わっていた。

「私の部屋はここ。」

富美はこう言って、見通しのいい庭側の部屋を選んだ。こうすると、私は道路側の部屋となる。というか、いつの間にか、私も一緒に住むみたいな雰囲気になっているようだが、良いのだろうか。

「何か、私も一緒に住むみたいになってるけど。」

私は言った。

「だって、この家は私と明君の力があってこそ手に入ったんじゃない。それとも、住みたくないってならいいけど。」

富美は言った。私は少し恥ずかしくなりながらも言った。

「いや、別に行くところないからいいけど……これって……同棲って言うんじゃ……。」

富美はこれを聞いて赤くなった。その後、富美は周りを見渡して言った。

「それにしても、すごいわね。家具もすべて新調されてるし、売り家か何かだったのかしら。」

どうやら、先ほどの私の発言はなかったことにするつもりであろう。しかし、そこはあえて突っ込まなかった。なお、私も富美の質問についての答えは知る由もないため、

「さあね。」

と答えた。すると、富美は近くにあったベッドの上に座った。富美のいるところが深く沈んだ。

「このベッドも、すごいふかふかだ。」

そして、富美は唐突に立ち上がったかと思えば、ベッドの上に乗り、飛び跳ね始めた。私はこれを見てなんとなく苦笑いした。肝試しの枕投げのときといい、今といい、富美は寝床で跳んだりはねたりすることが好きなのだろうか。というか、こんな感じの画像、どっかで見た気がする。そのようなことを思っていると富美が人間業とは思えないほどの大ジャンプをした。そして、富美が天井に頭をぶつけそうになったので、私も慌ててそれを止めようとしてジャンプした。私は別にベッドの上で跳んだわけではなかったはずなのに、予想以上に高くジャンプした。そして、私は天井に頭をぶつけた。富美も案の定、天井に頭をぶつかった。

「いてて、大丈夫?」

私は言うと、

「ええ、大丈夫。はしゃぎすぎちゃったかな。」

と富美は言った。それにしても、何か違和感がある。身体がふわふわと軽く浮いているような感覚がする。そして、よく見ると、私と富美は空中を浮かんでいた。富美はまだ気づいていないようだった。私は言葉を失いかけたが言った。

「富美……下……。」

「下がどうかしたの?」

そして、富美は下を見た。すると続けて言った。

「おー、私、空飛んでるよ。」

「うん、私も何か知らないけど飛んでる。」

私も言った。そして富美は何かを理解したかのように言った。

「これが、『浮遊術師』の力なのね。」

「うん、意外にあっさりだったな。」

結局、発動してすぐはそこまで喜ぶことはなかったが、一度冷静に考えてみた後、事の重大さを理解した。

「う、う、嘘でしょ!私!ずっと夢だった空を飛ぶことができてるってことだ!」

私は興奮気味に言った。

「うんうん、まるで魔法を使ったみたいに!うわ、本当にすごい!最高!」

富美も興奮気味に言った。私と富美は飛行機にも乗ったことがない。だから、空を飛ぶことがどのようなものか知らなかった。私と富美の喜びはある意味頂天だった。恋人と異世界転生して、さらには憧れだった空を飛ぶことだってできる。そして、何より記憶を引き継いだまま生きている、神様が人生を保障してくれているという喜び、それを感じることができて、とても幸せだった。私と富美はこうした状況を用意してくださった神様に感謝しようと本気で思った。

 続いて、家の中を早速手に入れた能力を使って飛び回りながら、家の間取りの把握の意味も込めて、探検していた。それからしばらく経ったとき、どこから腹が減る音がなった。

「ごめん、私。」

キッチンの扉から富美が顔を出した。

「ああ、そりゃ、キッチンなんか見ていれば、おなかも空くわ。昼食もまだだし。」

私は言った。富美は苦笑いした。

「じゃあ、どっかで食材買って、少し遅めの昼食といきますか。」

そう私は言うと、急に扉をたたく音が聞こえた。どこから聞こえたのかと思うと、玄関扉の前に人が立っているのが見えた。私は玄関扉を開けた。すると、おばさん一人と見覚えのある男性一人が立っていた。すると、その見覚えのある男性は驚いた様子を見せた。

「ホーンさんが誰かに売り家譲ったと聞いてきてみれば、お前、あのときの旅人の兄さんじゃないか……。」

旅人……この言葉を聞いて思い出した。そう、彼は村に入るときに話した門番の一人だ。

「『鑑定屋』には……行ったんだよな。じゃなきゃ、あのおじさんが、家なんか譲ったりしないよ。」

すると、その男性は部屋の奥を見て、また言った。

「よく見てみれば、その少し前に来た旅人の嬢ちゃんじゃないか。もしかして、2人とも知り合いだったのか?」

「あ、あのときのおじさんじゃないですか。その節はありがとうございました。」

「おじさんって……おにいさんな。」

その男性は富美の言葉にこう突っ込んだ。富美も門番の人のことを知っているようであった。そもそも、門番にあわないと村には入れないので当然ではあると思うが。

「まあ、たまたま『鑑定屋』で再会しまして……。」

私は言った。

「そうかそうか、で、随分と仲良さそうだな、もしかして、付き……。」

とその男性は何かを言いかけたとき、おばさんがその門番の男性の顔をつねってこう言った。

「そう、色々聞いたりするんじゃないよ。ねぇ、ごめんね、うちのバカ息子が。」

どうやら、おばさんは門番の男性の母親のようだった。

「どうも、私はマリン。そして、このバカ息子がマイク。私たち、ここの隣に住んでるの。何かわからないことがあったら言ってね。」

バカ息子と呼ばれてマイクさんは不機嫌そうだ。

「どうも、ここに越してきた明です。どうぞよろしく。」

「富美です。よろしくお願いします。」

私と富美は自己紹介をした。すると、マリンさんは食材の入ったバスケットを渡してきた。

「そんでこれ、どうぞ、引っ越し祝い。この地域では、越してきた住人に食材の入ったバスケットを渡すのが通例なのよ。」

「いやいや、受け取れませんよ。」

「申し訳ないですよ。お返しもできないのに。」

私と富美は断ろうとした。すると、マリンさんは言った。

「いいのいいの、お返しとか。ここら辺の人はそういうの気にしないから。逆にもらわないほうが失礼に当たるよ。」

「そうだそうだ。」

マイクさんはマリンさんの後ろで野次馬を飛ばすが如く言った。

「うるさい、マイク。」

マリンさんとマイクさんは喧嘩を始めそうだったので、私と富美は二人を落ち着かせた後で、

「ありがとうございます。それでは、いただきます。」

と言って、マリンさんからバスケットを受け取った。

「ありがとうね。これからもどうぞよろしく。」

マリンさんは言った。

「よろしくお願いします。」

私と富美はそう言うと、マリンさんとマイクさんは去っていった。この家は、道の一番端にあるので、隣の家はマリンさんとマイクさんだけである。

「買おうと思ったら、貰っちゃったね。」

富美は言った。

「うん。ありがたいことだね。これも、神様の衣食住の保障に入るのかな?じゃあ、調理して食べよう。」

私は言った。

 もう、すっかり夕方になっていた。マリンさんが訪ねてくるまでは、ある程度我慢ができていたし、そもそも気にもならなかったが、もう腹の空きも限界を超えていた。当たり前である。私と富美は、一度死んでいるどころか、転生してから一度も食べ物を口に入れていなかったのである。

 ということで、夕食を作ることにした。私と富美も、普段から自炊することがあったからか、ある程度の料理は作ることができた。尚、個人的に味は保証しない。2人でいろいろ作って、作り置きもしておいた。

 普通、こうした異世界転生ものは、文明がまだ未発達であることが多いものの、私たちが転生してきた世界は、町中に電灯がついており、文明レベルは比較的高い方であった。とはいえ、周辺の状況を見る限りでは、冷蔵庫や洗濯機などの生活家電は、一般家庭には全く手が届かないほどの超高級品らしく、やはり、文明レベルは、この世界の最先端であっても、前にいた日本に比べて半世紀くらいは遅れているような状況であった。そして、今回、ホーンさんからいただいたこの家には、その超高級品であるはずの冷蔵庫や洗濯機が備え付けられていた。おかげで、作り置きもできて、食材も腐らせることはないものの、なぜ、ホーンさんはここまでの家を譲ってくれたのだろう。もはや、恐怖さえ感じた。

 私と富美は、久々の食事、ないしは異世界転生後初めての食事をしっかり味わい、ある程度片づけをした。そして、私と富美は疲れてしまったのか、すぐに眠ってしまった。こうして、異世界生活1日目を終えたのである。


 次の日、朝食を食べながら、富美と話をしていると、とある話題が挙がった。

「そういえば、神様は衣食住を保障するとか言ってたけど、衣食住の『衣』は、どうしたんだろう。」

富美は言った。

「確かに、私ら、ずっと制服しか着てないよね……。」

私は言った。その時だった。私はしっかり手元見ていなかった。手元の器に手をかけ、器に入ってるスープを大胆にも制服の上にこぼしてしまった。不覚にも彼女の前で大失態である。

「あららら。」

私は言った。

「大丈夫?」

富美は言った。私は急いで言った。

「大丈夫だけど、雑巾取ってくれるかい?」

「うん。」

私は富美から雑巾を受け取った。

「うわーっ、蛙化現象になっちゃうか……。」

私は思っていたことを口に出していた。私は急いで口を押えた。しかし、遅かった。

「そんなわけないじゃん。そもそも、この世に完璧人間なんてそうそういない、むしろ、明君って人間だったんだって改めて感じられる瞬間でもあるんだから、こんなので嫌いになるなんてありえないからね。」

鋭い目つきで富美は言った。

「そ、そうですよね……。」

私は言った。そして、私はあることに気づいた。

「ねえ、ちょっと見てくれない?」

私は言った。富美は私のところへ来て、こぼれたスープを見た瞬間、驚いた。

「これって。」

「そう、スープをはじいているんだ。」

こぼれたはずのスープは、私の制服の上、何なら床の板やカーペットでさえも、まるで、レインコートに垂れた水のようにはじいている。そして、富美は何かを察したかのように言った。

「もしかして、“制服”をずっと着られるようにしたってこと……?」

私もこれを聞いて気付いた。

「確かに、1日中動き回った割には汗臭くならなかったけど……。」

少しの沈黙が走った。

「衣食住の『衣』ってこういうことなの!?」

私と富美は口をそろえて言った。

「嘘だろ。」

私は言った。

「信じられない、最悪。」

富美は悲しんだ。その様子を見て、私はぼそりと言った。

「神様はファッションに興味なかったんだな。」

それを聞いて、神様は怒ったのか、いきなり玄関扉を叩く音が聞こえた。私と富美は驚いた。私は急いで床と制服を拭いて、玄関へと走って向かった。そして、富美はそのような私を先回りして、玄関扉を開けた。そして、私と富美はタイミングよく同時に玄関から顔を出した。

「おっと、今度は2人同時でお出ましかね?」

目の前には、マリンさんがいた。

「マリンさん、おはようございます。」

富美は言った。

「おはよう……ってやっぱり、服着替えてないね。」

マリンさんがこう言うと、私と富美は苦笑いした。

「多分、この変わった服しかないんじゃないかと思って、まあ、旅人って聞いてたし。私とマイクのお下がりだけど、サイズが合うならあげるよ。」

マリンさんは言った。

「いや、申し訳ないですよ。」

私は言った。この言葉、何度言っただろうか。

「いいのいいの、どうせ家にあってもごみ箱行きになるだけだから。」

「それじゃあ、遠慮なく頂きます。」

富美はこう言って、服を受け取った。

「そうそう、実はこの服、汚れをはじく魔法が付与されている特別な服でね。洗濯しなく……って説明いらないね。」

マリンさんは私を見て言った。よく見ると、まだ制服にスープがついていたようで、スープがはじかれて、下に垂れ落ちていた。私は苦笑いせずをえなかった。

「あ、あとね。帽子は被ったら飛ばされない特殊な魔法が付与されてるし、さらに、この服は、防護力強化も付与されていてね。破れにくいんだよ。だから、買ってから数十年経っても……ってそうそう、そういえば……。」

マリンさんは何かを思い出したようだった。そして、私と富美に聞いた。

「この家、来た時すごいきれいだなって思ったでしょ。」

「はい。」

私と富美は言った。確かに、すごくきれいだし、何もかも新品、新築のようだ。しかし、マリンさんから衝撃の事実を告げられる。

「でもね、ここ40年間売り家だったのよ。」

「嘘!」

私と富美は驚いた。すると、待ってましたと言わんばかりにマリンさんが解説を始めた。

「って思うでしょ。実はホーンがね。ここが建てられた当初、世界中から有能な『魔導士』を集めて、家中にいろんな魔法を付与させたのよ。だから、いつまで経っても新品同然、新築同様にきれいなんだよ。」

「へぇー。」

私と富美は感心した。

「それで、掃除をしなくてもいい家として売り出して、『これで儲かるぞ!』っていい気になってたんだけどね。立地が立地で全然売れなくて。」

「はぁ。」

私と富美はうなずいた。

「でも、まあ、原価はかかってるわけでしょ。だから、あの金にがめついホーンが、割引とかじゃなく、タダでここ譲っちゃうってのにびっくりしちゃってさ。よほど、気に入られたんだろうね。」

私と富美はこれを聞いて、少し恥ずかしくなった。すると、マリンさんは私と富美にこう耳打ちした。

「でもね、ホーンには気に入られた方がいいと思う。いいもの貰えるから。本当は言う気なかったんだけどね、この服もマイクの就職祝いにホーンからもらったものなのさ。」

私と富美はこれを聞いて驚いたが、マリンさんは、私と富美がなぜ驚いたのかを分かったいたようでこう言った。

「まあ、もう彼はあげたことを忘れてるでしょうし、サイズも小さくて着れないからね。だから、ごみ箱行きって言ったのさ。」

それから、マリンさんと少し話をしたあと、私と富美はお礼を言って、玄関扉を閉めた。

【予告】

 マリンたちから貰った服を着て、村中を探検しようとした明と富美であったが、とあるハプニングによって村に伝説の『浮遊術師』の『称号』を持った人間が現れたと知った住人たちが、家の前まで押しかけていた。そこで、一時退避場所として村の図書館へ向かうことにしたが、そこで新しい少し変わった人と出会うことになる――


  次回 第6章 新しい友人 現在公開中


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こんにちは、明日あす とおるです。

二人ふたりつねそらうの第5章を読んでいただき、ありがとうございます。今回、明や富美が住む家の概要が明らかになり、マリンとマイクという新キャラも登場しました。そして、ついに二人は宙を舞いました!(早すぎるタイトル回収)しかし、今回、2人はマリンたちから貰った服を着ずに話が終わってしまいました。次回、2人はどのようなファッションで村を歩くのか、そこにも注目して読んでみてください。

今回、定期テストの影響や国家試験の不合格通知の衝撃もあり、少し更新にスパンが開いてしまいました。おそらく、これから先も更新頻度が遅くなるときが来ると思います。しかし、こうしてまた読んでくださる読者のことを考えると感謝してもしきれません。本当にありがとうございます。

次回もお楽しみに。

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