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二人は常に宙を舞う  作者: 明日 透
転生編
5/11

第4章 転生

 私は……、死んだのだろうか。いや、生きているのか。体が動かせる。ついに助かったのか。私は目を静かに開けた……。いや、私は死んでしまったようだ。私は今、草原の真ん中で仰向けに倒れていた。私は立ち上がった。これが、死後の世界、あの世というものなのだろうか。しかし、俗に言う三途の川とやらも霊子線とやらも見つからない。しかも、何故か遠くの方には村らしきものさえ見える。ここはどこなのだろうか。そして、私は本当に死んだのだろうか。そう思っていると、どこからか声が聞こえてきた。

「君はまだ死んでいない。」

私はその声に驚いて戸惑うと、草原だった場所が、急に宇宙のような世界へと変わった。星がいくつも輝いている。その直後、またしても声が聞こえた。

「君はまだ死んでいない。」

「どういうことですか。」

私は誰かもわからないその声に聞いた。

「確かに、死んだといえば死んだんだけど、いうならば、魂は死んでいない。」

「というと。」

「君は異世界転生したのだ。」

これを聞いては私は少し沈黙した。そして、私は聞いた。

「どういうことですか。」

「いや、死んだ後にこんなにきれいに残っている魂なんてそうそうない。多分、隕石という神聖なもので死んだからだろうが……。だから、魂丸ごと使って、転生させたのだ。といっても、今回は転移にも近いところはあるかもしれないがね。」

私は少し考えた。

「転移に近い転生……。」

やはり想像がつかない。

「そう、転移に近い転生。あちらではもう生物学的には死んでしまっている。しかし、魂はそのままに、身体や服装は忠実に前世の形を再現して、異世界でも対応できる身体にしたうえで、異世界に転生させるのだ。でも、毎回異世界でも対応できる身体に調整する過程で、変な体質になっちゃって、いまだに成功例ないけど。今回も成功してないし。」

「成功しなかっただって!?」

私は驚いた。

「いやいや、成功してないといっても、変な体質にならないまま転生させることが成功してないってこと。いきなり、魔物や植物になるなんて突飛なことにはならない。現に、今のあなただって、身体はそのままでしょう。」

私は自分自身の身体に異常がないかを確かめた。どうやら、大丈夫なようだ。

「確かに、そうですね。特に変わりはありません。」

私はこの後、この声の主は一体誰なのかを聞いてみることにした。

「で、あなたは何者ですか。」

「あ、言ってなかったっけ。私は神。この世界を創造し管理する者。」

私はこれを聞いて、半ば土下座をしながら言った。

「神様ですか。本当にありがとうございます。」

これを聞くと、神様は嬉しそうな声で言った。

「そうですか。私も転生させがいがありますね。ところで、死ぬ前に隣にいた……富美とかいう少女とは仲が良いようですか、付き合っているか何かですか。」

私は赤くなってしまった。そして、黙り込んだ。

「あー、やっぱりそういうこと。ふふふふふ。」

「何笑ってるんですか!」

私は大きな声で言った。

「まあまあ、分かってるのに……。」

神様は言った。それでも、私は赤くなったまま黙っていた。

「うーむ、そうか……。」

神様は少し考えていたようだった。

「じゃあ、君は、生徒会役員として、避難所の誘導係に選ばれて、結局、救助してもらえずに死んだってことでいい?」

神様は先ほどの話題をなかったことにするかのように私に聞いた。

「ええ、こんなことしても、今の私には無駄だった行為でしたけどね。家族の言うように、ヘリコプターに乗ればよかったかもしれません。」

これを聞いて神様は言った。

「でも、君は頑張って仕事をして、最後は残ろうとした。」

「はい。」

これを聞くと、神様は安心したように言った。

「あー、よかった。」

私はとっさに聞いた。

「何ですか、よかったって。」

その後、神様から衝撃の事実が伝えられた。

「君を勇者にでもさせようかと思ってたけど、思いとどまっててよかったってことよ。」

急な告白だった。

「何でですか。」

私は聞いた。

「いやー、仕事を忠実にして、仲間を考えることができる人をもう一度頑張らせて、仕事に忠実に!みたいなのって、ばつが悪いじゃない?だから、魔王の影響がほぼ0の辺境に飛ばしちゃったんだよね。再度変更とか手続き面倒だから本当に良かった。」

私は疑問に思った。

「手続き……そんなものあるんですか?」

私は聞いた。すると、正直に答えてくれた。

「ええ、まず、死神庁に連絡して、そのあと天界外務省の外務大臣に『現実世界における神の介入許可証』を発行してもらって、それを介入認証局と、閻魔庁と、神労働局に送って、『仕事依頼書』をもらうでしょ、また、さらにそれを転生庁に渡すでしょ、その後、転生庁から、『転生・転移場所とその先での職業変更願』の紙を渡されるから、概要事項を書いて、また転生庁に返すでしょ。これで、やっと終わるわけなんだけど、死んだときに転生や転移させるのと違って、あくまで変更という立ち位置になるから、神法第75条『日本の若年転生者及び転移者における手続き簡略化に関する法律』が適応されないのよ。だから、時間がかかって……。」

「へぇ……。」

私には、内容が複雑、かつ神様が早口すぎて何が何だかわからなかった。そして、私はそんなことよりも重要なことに気づいた。

「あ、そういえば、辺境って、0からサバイバル生活とかさせる気ですか。」

それを聞いた瞬間、神様は速攻で否定した。

「いやいやいや、言ったじゃん。もう一度頑張らせるのはばつが悪いって。衣食住は大丈夫なところに転生させてますよ。それは、どんなに豪遊しようが、『健康で文化的な最低限度の生活』以上の生活を100%保障します。」

「以上の」の部分が気になるが、私は了承した。

「分かりました。」

「まあ、楽しく過ごしてくれたまえ。うんじゃ……。」

「え、ちょっと待ってください!」

私は引き留めるように言った。

「え、他に何か聞きたいことでもある?」

「はい、富美は……富美はどうなったんですか?あと、戸部君や植木さんも。」

「富美はわかるにして……戸部?植木?……あー、あの子達か。はいはい、3人とも大丈夫だよ。戸部君と植木さんはよく覚えてないからあれにしても、富美、もとい井田さんは確実にこの世界に転生させてるから、すぐに会えるさ。ふふふふふ。」

「だから何ですか、ふふふって……。」

私は突っ込んだ。

「うんじゃまた。」

「え!また!?」

唐突な神様とのお別れに焦りを感じた私は、つい、驚きの声をあげてしまった。すると、宇宙の世界が唐突に現れた光に徐々に吸い込まれていき、眩しさで目が眩んだかと思えば、いつの間にか、先ほどの草原に戻っていた。

 私は、まだこの事実を理解できていなかった。こうしたことが起こるのは、アニメや漫画、本の世界だけであって、実際に自分の身にこうして降りかかるとは予想していなかったからだ。確かに、過去に本やアニメを見ながら、異世界に転生することなんて羨ましいなとは思っていた。しかし、やはり、空想は空想、現実は現実で割り切っていたのだ。いや、もしかして、私は何かの物語の()()()なのか!?そのようなことは、私にはわからない。さらに言ってしまえば、私は生徒会選挙に受かった。受かるために色々なことをした。さらには、最後に誘導係だってした。しかし、その努力は無と化した。恐れていたことが起きた。神様は、努力したからいい環境を用意できたみたいなことを言っていたが、やはり、よくわからないし、腑に落ちないところもあるような気がする。また、富美はどうなったのだろうか。すぐに会えるということはこの近くにでもいるのだろうか。もし近くにいなかったとしたら……。どこまで続いているかもわからないこの世界で、見つけることなんて可能なのだろうか……。どれだけの時間、この草原で悩んでいただろうか。しばらくして、私は、何を考えても無駄だと思うようになった。とにかく、この状況を飲み込むほかないのだ。


 私は、まず衣食住を探そうと思った。それがなければ、これから先、たとえ富美を捜すにしても、無理だと感じたからだ。神様は衣食住を保障するようなことを言っていたが、どうもそれらしきものが見当たらない。とにかく私は、ここから見える村に何かあると思い、行ってみることにした。

 村の入口には、門番のような男性が2人立ちふさがっていた。どうやら、話さなければ通してはくれなさそうである。しかし、2人とも強面で、少し話すには抵抗がある。少し悩んだが、私は意を決して話しかけた。

「あのー、この村に入りたいんですが。」

「おー、兄さん。見ない顔だね。旅人か何かかな。」

いきなり質問されたので焦ってしまったが、意外と優しそうな人でほっとした。それより、日本語が通じるという点でも驚いた。

「そう……だと思います。」

私は言った。すると、門番の人は言った。

「思います?……まあ、いいや、じゃあ、『腕章(わんしょう)』を見せてくれるかな。」

「『腕章』?」

私は聞いた。

「うーん、『腕章』だよ。右腕に出るやつ。」

よくわからなかった。私はさらに焦り、混乱してしまった。この時の私の顔面はきっと崩壊していたに違いない。すると、もう一人の門番が言った。

「なるほど、もしかして、孤児院とかから出てきたのかもしれない。この年齢からして、脱走したわけではなさそうだし、多分、教育がなっていないところだったんだろう。かわいそうに。」

「かわいそうとか言われても……。」

私はかわいそうと言われて、少し腹が立った。

「あー、ごめんごめん。『腕章』っていうのは、右腕に力を入れると現れる印みたいなものさ。やってみな。」

私は右腕に力を入れてみた。すると、右腕から何かよくわからない謎のマークが浮き出てきた。

「うわぁ、気持ち悪い。」

私は言った。

「あははは、僕も子供のころに初めて『腕章』を出したときは、気持ち悪いと思ったものさ。」

「この『腕章』なら、大丈夫そうだ。通っていいよ。」

私は門番にここを通ることを許された。そして、村へ入ろうとしたとき、門番の一人が言った。

「あ、言い忘れてた。この様子だと、自分の『称号(しょうごう)』とかも分からないだろう。」

「はい、何ですか。その『称号』って。」

私は聞いた。

「『称号』ってのは、その人の能力を表すものだ。『称号』が分からないなら、この村の『鑑定屋』に見てもらうといい。タダで見てもらえるし、何か発見があるかもしれない。」

「分かりました。ありがとうございます。」

私は、門番に挨拶をした後、その『鑑定屋』とやらに行って、『称号』とやらを見てもらうことにした。

 この世界の言語は、すべて日本語で、日本と同じように、ちょっとだけ洒落た程度に英語も使われている。ファンタジー感というものはないが、全く読めない言語で1から学びなおすよりは、マシである。地図は門のすぐそばで配られていたため、意外に簡単にたどり着くことができた。少し西洋チックな建物で、屋根に大きな明朝体で書かれた『鑑定屋』という看板が掲げられている。扉を開けると、中にいるのは5人程度であった。

 さて、正当な受付を済ませた後、役所や銀行、さらに言ってしまえば某有名ラーメン店などにある、1席1席仕切りがあるカウンター席のような場所に案内された。席に座ると、机を挟んで目の前には、眼鏡をかけたおじいさんが座った。おじいさんは言った。

「こんにちは、さて、今回はどんなものを鑑定してほしいのかね。」

「えーと、私の『称号』とやらを知りたいのです。」

私は言った。

「そうか、じゃあ、『腕章』を見せてもらってもいいかい。」

おじいさんは言ったので、私は『腕章』を見せた。すると、おじいさんは虫眼鏡を机の下の引き出しから取り出して、私の『腕章』をじっと見つめた。

「うーん、なるほど……これは……流行ってるのか?……なるほどなあ。」

おじいさんは独り言をぶつぶつ言っている。

「よし、分かった。」

おじいさんは言った。

「この歳で自分の『称号』を知らないとなったら、きっと『称号』が何かも知らないだろうから、まず『称号』に関する説明をしなければいけないね。」

「はい。」

私は言った。おじいさんは説明を始めた。

「『称号』とは、その人の能力を表すものだ。能力というか素質といってもいい。才能ともいえる。」

「はい。」

「そして、この『称号』は種類によって大体2つに分類できる。」

「2つというと?」

「1つは、『力士』や『博士(はかせ)』、『調理師』といった、ごくごく普通の力を持つ『一般人(いっぱんじん)』。」

こうした普通の才能も見るだけでわかるのかと少し感心した。

「もう1つは、『魔導士』や『超能力者』、『精霊術師』など、特殊な力を持つ『特殊人(とくしゅじん)』だ。」

『魔導士』、『超能力者』、どれもファンタジーな能力だ。やはり、私は本当に異世界転生してしまったのだと実感した。

「そして、私はそのどちらになるのでしょう。」

私は聞いた。

「そう、そして、あなたは……。」

少しの緊張が走る。これで、私の才能は決まってしまうようなものなのだから。

「どちらのも当てはまらない。」

「え。」

私に衝撃が走った。そういえば、神様が変な体質になるとか言っていたが、その影響だろうか。

「ど、どちらにも当てはまらないとは、どういうことですか。」

私は聞いた。

「あなたは、どちらにも当てはまらない、『特殊一般人(とくしゅいっぱんじん)』にあたるのだよ。」

おじいさんは言った。『特殊一般人』とは何だか色々スペシャルな感じがする。

「いわゆる、その他だ。」

その他……これを聞いて私の熱は冷めた。

「あと、不思議なことにあなたには2つ『称号』がある。さらに、2つとも『特殊一般人』なのだ。」

「で、その『称号』というのは?」

私は聞いた。おじいさんは言った。

「1つ目は、『転生者』。」

『転生者』、なんとなく分かるような気がする。

「前世の記憶を持つ人のことだ。あなた、前世の記憶を持っているでしょう。」

「う、うーん、まあ。」

私は、何故か恥ずかしくてうまく答えられなかった。

「そして、この『転生者』だが、この世に10人もいないといわれている。」

「これってすごいじゃないですか。」

私は言った。すると、おじいさんは笑顔になって、

「そうだ。誇っていいぞ。」

と言った。続いて、次の『称号』の話になった。

「そして、2つ目が、『浮遊術師(ふゆうじゅつし)』だ。」

名前ではあまり想像のつかない、よくわからない『称号』が出てきた。

「何ですかそれ。」

私は聞いた。

「まあ、言うならば、重力使いの一種のようなものだ。空を飛んだり、物を浮かばせたりできる。」

「ほうほう。」

なんとなく、内容からして面白そうなのはわかる。だが、同時に疑問も浮かんだ。

「これって、『舞空術』とは何が違うんですか?」

「『舞空術』との違いだが、『舞空術』は、本人の『気』を基にして浮いている。つまり、浮かせられるのも、自分自身だけなんだが、『浮遊術』ってのは、魔法とも気とも違う、何か特殊な方法で浮いていてだな。周りにも影響を受けるから、根本的なところから違うのだよ。」

「なるほど。」

私は完全に理解した。今、思い出したのだが、学校の自己紹介でもしも何でも願いが叶うならどうするか、発表するときがあって、その時に「空を飛びたい」と言っていたような気がする。

「なお、この『称号』を持っている人は、現在確認されているだけでも世界で4人、あなたのような未確認を含めても5、6人くらいではないかと言われている。」

これを聞いて、私は驚いた。しかし、これを聞いて気になったところがあった。

「私の『称号』はわかりましたけど、こんなにすごいものなら、もう少し驚いたらどうですか?」

私は言った。すると、おじいさんは、顔をかきながら、少し悩んだ様子で言った。

「いやー、ね、実はこの1つ前の客もあなたと全く同じ『称号』を持っていたものだからね。もう驚こうにも驚けなくて……。」

なんとなく、同じ『称号』という言葉に違和感を感じた。私はもう無理だろうと思ってはいたが聞いてみることにした。

「その人、どんな感じの人ですか。」

すると、おじいさんは言った。

「やけに変な格好だったな。あ、そう丁度、あなたが来ている服みたいな。」

私が来ているのは、高校の制服だ。変……確かに、周りを見れば一人だけ見た目が浮いているような気がする。そして、私と同じような高校の制服を来ているということは……もしかしたら、いるのかもしれない。

「その人は、今どこに?」

私は聞いた。

「あー、結構珍しい『称号』だったから、手続きのために別室で待っていてもらっていてね……。あっ、もう手続きが終わったのかな?後ろの扉のすぐ横にいるよ。後ろにいる変わった服の嬢ちゃん。」

おじいさんは後ろに指をさしながら言った。私は振り向いた。その瞬間、私は言葉を失った。神様……すぐに会えるとはこのことだったのですねと思った。扉の横には制服を着た女子が立っていた。そう、彼女は……富美だったのだ。富美はまだ私に気づいていなかったようだ。

「おい、そこの嬢ちゃん!」

おじいさんが呼んだ。富美は、その声に気づいてこちらを見ると、驚いた素振りを見せた。そして、私は席を立ちあがり、私と富美はゆっくりと近づいていった。

「まさか、明君がこんなところにいたなんて……。ごめん、他の部屋に行ってて、気づかなかった。」

富美は言った。

「いや、大丈夫だよ。いやー、それにしても驚いたな。こんなすぐに富美と会えるとは……。」

私は言った。本当は泣き叫んで喜びたい、抱きしめたい衝動があったはあったが、場所も場所であったため、衝動を押し殺した。しかし、私はその衝動を完全に押し殺せておらず、富美も私と同じ状況であったためか、2人の目から少しずつ涙が流れた。この状況を見ていた客は、ざわざわと騒ぎ始めた。

「おっと、2人とも知り合いだったのかい。」

というおじいさんの言葉は、一切耳に入らなかった。

 涙が落ち着いた私と富美は、手続きのため、しばらく待たなければならないということで、『鑑定屋』の2階に案内された。そして、2対1でおじいさんと話すことになった。

「いやー、まさか2人が同じ所に住んでいた幼馴染だったとは。」

おじいさんは感心しながらそう言うと、私と富美は笑った。私と富美はその場を察して、異世界出身であることは隠すことにした。とはいえ、『転生者』の『称号』を持っている時点でバレているような気がするが。

「じゃあ、色々記録や手続きをしてくるよ。少し待っててね。」

おじいさんはこう言い、部屋を出ていった。私は少し気になったことがあったので、私と富美の2人きりになったこともあり、聞いてみることにした。

「そういえば、隕石落ちる瞬間、何て言おうとしたの?」

急に富美の顔が赤くなり煙が出てきた。

「……そんなことよりさ、これからどうするの?」

話をそらしてきた。本当は突っ込みたいが、私も富美の彼氏。今はやめといたほうがいいということは、私にだってわかる。私は質問に答えた。

「うーん、とりあえず衣食住は確保しようかなと思って。」

「ええ、でも神様、衣食住は大丈夫って言ってたような。」

どうやら、富美も神様に会っていて同じことを言われたようだった。私は言った。

「ああ、私も聞いたよ。」

「聞いたの!?ちょっとあの神様の登場は私、結構驚いた。」

富美は驚いたように言った。

「ああ、私も驚いた、急に宇宙に飛ばされたかなって。」

「うん。」

富美は頭を縦に振った。それから、しばらく話に花を咲かせていると、おじいさんが戻ってきた。

「お、久々の再会に色々話しているみたいだね。」

おじいさんは言った。

「はい。」

2人で言った。

「あなたたち、旅人って話だけど、これからはここに定住するつもりかい?」

唐突におじいさんはそんなことを言った。

「いや、分からないですけど、家と金があれば、まあ。」

私は言った。おじいさんは驚いた。

「え、金も住むところもないのかい!?」

「はい。」

富美は言った。

「じゃあ、村にある、古ぼけた家だけど、そこやるよ。そして、多少なら金も用意する。」

おじいさんは意味の分からないことを言った。

「いやいや、申し訳ないですよ。」

私は遠慮しつつ言った。おじいさんは、まあまあという素振りを見せながら言った。

「いやー、こっちも珍しい『称号』見せてもらったから、そのお礼。もう、『浮遊術師』の『腕章』なんか一生で何度見れるかわからないし。」

「いや、さすがに……。」

私と富美は遠慮した。すると、おじいさんは腕を組んで言った。

「じゃあ、そこまで言うなら、こちらも条件を出そう。」

「何でしょう。」

私と富美はその話に乗るつもりもなかったが聞いた。おじいさんは言った。

「あなたたちは、『浮遊術師』のはずだ。何でもいいから、物を浮かせて見せておくれよ。」

しかし、ここである問題が生じた。私と富美は、その『浮遊術』とやらがどうすれば発動するのかということを知らなかった。私と富美はその話に乗らないことの言い訳という意味も込めて言った。

「いやー、浮かせるといっても……。」

「私たちにはどうすれば浮かぶとか分かりませんよ。」

すると、おじいさんは思い出したかのように言った。

「イメージするだけでいいってよく聞くけどね。」

やはり、無理だった。言い訳を言って逃げるという作戦は失敗した。それにしても、物を浮かすのをイメージするだけで行えるなら、なんとなく簡単にできてしまいそうだ。議論の末、チュートリアル的な意味も込めて、近くにある花瓶を2つ浮かばせることにした。私たちは花瓶が浮かぶ姿を強くイメージした。すると、意外にあっけなくそれは起こった。花瓶は2つとも、宙を舞った。おじいさんは驚き、喜びながら拍手をした。私たちも驚いた。そして、なんとなくうれしくも感じた。

「すげー。」

「やった。」

私と富美は喜んだ。というのも、この前語ったように、私は本やアニメ、もっと言ってしまえばゲームも大好きであった。それは、富美も同様で、実際に非現実的なものを色濃く見せられると、テンションが上がった。その後、おじいさんは言った。

「いいもの、見せてくれたよ。それじゃあ、お約束の。」

そういって、袋と鍵を渡された。袋の中には金貨がたくさん入っている。私と富美は戸惑い、やはり遠慮しようと思った。単純に申し訳ないという気持ちもあるが、それ以前にもう一つの問題があったのだ。

「何、それでも、受け取らないかい?何で?」

おじいさんは聞いた。私は遠慮しがちに言った。

「い、いやー、名前も知らない人から金と土地もらうとか……そんなの怪しすぎるというか……ねぇー。」

私は富美の方に顔を向けると、富美は首を縦に振った。これを聞くと、おじいさんは笑いだしてこう言った。

「あはははは、そうだな!知らん奴から、金と土地渡されて疑わないやつはいないわな。わしは、ホーン。よろしくな。それで、あなたたち二人は?」

「私は西島明と言います。」

私は言った。

「私は井田富美って言います。」

富美は言った。それぞれの自己紹介が終わった後、ホーンさんは言った。

「じゃあ、西島君と井田さん、もらってくれるよね……?」

「え……。」

私と富美は少しずつ下がっていった。すると、ホーンさんは私の腕をつかみ、

「いいんだ。遠慮なんて、私は一生に一度あるかないかの経験をさせてもらって感謝しているんだ。な、いいだろ?」

と言った。ここまでされては仕方がない。

「ありがとうございます。」

私と富美は声をそろえて言い、袋と鍵を受け取った。こうして、私と富美は『鑑定屋』を後にしたのだった。それから、すぐにホーンさんの協力もあって、住民票を発行してもらい、正式にこの村の住人となったのだった。

【予告】

 ホーンの協力もあって、正式に村の住人となり、家まで貰ってしまった明と富美。新しい我が家の中を見てまわっていると、隣に住む人たちが訪ねてきた。そのうちの一人は、どこか見覚えのある人だった。そして、衣食住のうち、いまだに衣と食が解決していない。明と富美の異世界生活はどうなってしまうのだろうか――


  次回 第5章 隣人は優しかった 現在公開中


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こんにちは、明日あす とおるです。

二人ふたりつねそらうの第4章を読んでいただき、ありがとうございます。今回、ついに2人は異世界転生を果たしました。しかし、まだまだ疑問は残ります。明と富美以外の「いつも通りのメンバー」の行方は?隣人はどんな人?『浮遊術師』の能力を使ってどのように暮らしていくのか?こうしたことは、徐々にわかっていくと思いますので、ご期待ください。

さて、この前、この話は第8章までストックがあると話しました。しかし、これは、実際に投稿できるレベルのものが第8章まであるということなのです。実際は、現時点で第30章あたりまでは構想が広がっているのですが……これが、世に出るのは何年後になることやら。

そういえば、作品内に出てくる『称号』の中に『博士(はかせ)』っていうものがありますよね?最初はこれ、『学士がくし』にする予定でした。しかし、学士という言葉自体、もともと大学を卒業した人に実際に現代で付けられる称号(いわゆる学位)のことなので、それと混同されたら嫌だと思い、変えました。まあ、この世界と現代とでは法律や制度も違うでしょうから問題なかったのかもしれないですけどね。無論、これも、もしかしたらどっかで残ってる可能性があるので、その時は心の目で修正してください……。

次回もお楽しみに。

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