第3章 生徒会選挙とこの世の終わり
生徒会選挙……それは、全校生徒の信用をもって開催される熱い戦いである。今回、生徒会に立候補したのは、2年の厚木先輩と、山寺先輩、西田先輩。3人とも、生徒会の経験者であり、クラスからの信頼も厚く成績優秀。しかし、3人とも、会計、または執行委員、監査委員候補であった。では、会長、副会長候補はというと、2年生、1年生からそれぞれ2名ずつ立候補があった。もし、1年生が全員当選したとするならば、1年生が先輩を仕切るというのは普通どうなのだろうか。きっと、学校の歴史が大きく変わることになる。
では、会長、副会長候補を一人ひとり説明していこう。今回立候補したのは、先ほど話した通り4名。1人目は、2年生、学校一の天才!錦木 良太!学年成績は常にトップ、何よりイケメンで、女子からはとにかくモテている。友人多数、男子の誰もが憧れる姿である。さて、2人目も2年生、 学校の文化的見本!本田 義美!文武両道で、学年成績は2位、部活は陸上部で全国大会に出場経験あり。友人も多数、女子の誰もあこがれる理想の姿である。そして、残りの2名が、私と、富美である。錦木先輩と私が会長候補、本田先輩と富美が副会長候補だ。学校史上初となる1年生の会長、副会長の誕生になるかもしれないとあって、先生やクラスメイトはやけに活気に満ち溢れていた。
私も生徒会選挙に受かるため、皆の心をひきつけるような公約や演説を考えてきた。しかし、それ以前に重要な問題がある。応援演説者、これを決めなければならなかった。応援演説者は、できれば仲のいい人が出るのが望ましい。しかし、「いつも通りのメンバー」の4名くらいしか思いつかない。私は心配だった。私の演説を引き立てる素晴らしい応援演説をしてくれるかどうかは正直わからなかったのだ。勿論、それは富美も思っていたことだった。とはいえ、ほかに頼れる友人もいないので、やはり「いつも通りのメンバー」の中から選ぶことにした。私と富美は、超的確な恋愛相談に乗ってくれた嵐山君と、その彼女の鈴野さんに応援演説を頼もうとした。ところが、2人は察するのがうまかったのだ。生徒会演説の話に差し掛かると、いつの間にか目の前から消えていた。よほど、応援演説をしたくないのだろう。私と富美は、国語の点数的にもあまり期待はしていないものの、結局、戸部君と植木さんに応援演説を頼むことになった。
それからしばらくの間、私たち4人は、毎日放課後に教室に残って、演説の打ち合わせをした。正直2人に応援演説の原稿を考えてもらうのは、無理なのではないかとなめていたが、戸部君も植木さんもきちんとした文章を書いている。
「すごいな。」
私は言った。
「僕の国語力、なめないでくれる?」
戸部君はかっこつけたように言った。
「そういうのがなければ、裕也もかっこいいのになぁー。」
植木さんは言った。
「そういう、加奈子ちゃんもすごいよ。」
富美は言った。
「え、そう?えへへ。」
植木さんは嬉しそうに言った。
打ち合わせ初日から数日後、応援演説を遠回しに断った嵐山君や鈴野さんも、罪悪感を感じたのか、選挙ポスターやタスキ制作を手伝ってくれた。さすが、卒業後、美術系専門学校を志望する鈴野さんだけあって、絵が超がつくほどうまい。嵐山君も手が器用で、丁寧にタスキを手縫いで作っている。応援演説をしてくれなくても、こうして手伝ってくれるだけありがたいことだ。私と富美はそう思った。
それから、さらに数日が経って、生徒会選挙本番がやってきた。やはり、錦木先輩も本田先輩も合理的で生徒の心をつかむような素晴らしい演説をしている。これでは、相手の思うつぼということはわかっているが、その素晴らしい演説というのが、私と富美、そして、戸部君と植木さんにとっては、尋常じゃないほどプレッシャーになっていた。
「次に、1年会長候補、西島 明さん。応援演説者、戸部 裕也さん。お願いします。」
司会の声がかかった。始めは応援演説者の演説だ。戸部君は、体育館の壇上に上がり、演台の前に立った。そして、戸部君は話し始めた。
「みなさん、こんにちは。ご紹介にあずかりました。応援演説をさせていただく、戸部 裕也です。 僕は、友人である西島 明さんを生徒会長に推薦します。皆さんは、西島さんをご存じですか?きっと、知らない方が大多数だと思います。彼は、活発的に活動している部活動に所属しているわけでもなければ、何か賞を取ったわけでもありません。しかし、クラスでは、多くの人からの信頼を得ていると思っています。例えば、僕が……。僕は……。」
戸部君はすぐに話すを止めてしまった。明らかに緊張しているのがうかがえる。きっと、台詞を忘れてしまったのだろう。これは、絶体絶命のピンチだった。体育館がざわつき始め、私が戸部君を退場させようとしたそのときだった。
「僕は、入学当初、自分に友人ができるのかが不安だった。」
戸部君は言った。体育館内のざわつきがおさまった。私は驚いた。戸部君の口調が敬体から常体になってしまったのだ。しかし、それだけではない。
「こんなこと台本にないのに……。」
私は思っていたことが口に出ていた。
「へ?どういうことよ!」
近くに待機していた植木さんは小声で言った。
「これで大丈夫なの?」
富美も心配しながら小声で言った。私は多少の心配はあったものの、なぜか、このままでも大丈夫だろうという気持ちもあった。勘だろうか。いや、そういうものではない。きっと、彼はやってくれるという信頼が私の中にはあるのだ。
「僕は、入学当初、自分に友人ができるのかが不安だった。最初は自分で話しかけようと思ったんだけど、なんか、うざいやつとか思われたらなって、思ったんだ。僕、昔からあまり性格いい方じゃなかったし、それはわかってたから。」
体育館内は再びざわつき始めた。
「でも、まあ、高校に入ったし、心機一転、話しかけることにしたんだけど。」
体育館内に少しだが笑いが起こった。
「で、誰に話しかけようか考えて、とりあえず、話しやすい男の方がいいなってなって、後ろの人に話しかけたのよ。」
私はこれを聞いて、入学してすぐの自分を思い出していた。
「そしたら、相手も同じタイミングで話しかけてきて、気まずくなっちゃったわけだ。」
そうだった。あの時、私は入学してすぐで緊張していて、まだ話せる人がほとんどいなくて、漠然とした不安があった。しかし、そのような時に彼が目の前にいて、さらには話しかけてくれて、なぜだか彼とならうまくやっていけそうな気がすると思えた。
「で、僕は、それであきらめようとしたんだけど、彼は話しかけてくれたんだ。で、それが西島君だったってわけだ。まあ、こういうことは誰にだってあるか。でも、まあ、なんとなく、西島君とだったら、うまくやっていけそうな気がしたんだよな。」
戸部君とは、それ以降、よく話すようになった。最初は世間話や天気の話だけだったけれど、やがて趣味、自分の話へと幅を広げていった。
「それで、色々話して、いつの間にか、友人も増えていった。前までは、自分は周りに合わせて、馬鹿ばっかりしてたけど、彼と一緒にいる時間は、自分の本音をさらけ出せる気がしたんだ。なぜなら、彼が全てを受け止めてくれたからなんだ。それも、人の気持ちを理解できる西島君ならではのことなんじゃないかな。それに、友人が増えていったって言ったけど、やはり、それも西島君のおかげなんだよ。西島君は、優しいし、近くにいて心強い。そして、僕が夏休み最終日まで全くやっていなかった追加課題も手伝ってくれた。だから、クラスからも信頼を得られるんでしょうね。」
体育館内に大きめの笑いが起こった。そういえば、忘れていたけどそういったこともあったなと、私は思った。
「それに、彼は、浮気しないで今も一途に愛している人がいますし。」
私と富美は急に顔を赤らめた。なんということを言っているのだろうか。体育館内はまた笑いに包まれた。戸部君は深呼吸した後、こういった。
「とにかく、西島君は、愛すると決めたものは一生懸命守ろうとする、遂行しようとする人です。きっと、彼はこの学校が大好きなんだと思います。でなければ、生徒会長に立候補するとは思えません。内申書の為なのではないかという声も聞こえてきそうですが、彼はあまり汚い考えを持つようには思えないのです。彼は、心からこの学校を愛していると思います。僕は、西島 明を生徒会長に推薦します。」
彼はここまで、私のことを想っていてくれたのか。私は、西島君に感謝しようと思った。
「皆さん、最後までご清聴、ありがとうございました。」
演説を終えると、体育館内は拍手喝采が起こった。中には立ち上がる人もいた。台詞を忘れたような状況下であっても、戸部君は演説をつづけた……自分の言葉で。混じり気のない純粋な言葉で。私も彼に恥じないようにしなければならない。私は、戸部君と入れ替わる形で、演台の上へ立った。
私は、演台で公約や中学校での生徒会経験の話、さらには、予定にはなかったもののアドリブであそこまで素晴らしい演説をしてくれた戸部君の話を交えながら、演説をした。戸部君の演説より、良いものではなかったものの、私は演説をやり切った。そして、富美や植木さんも同様にやり切った。あとは、皆が誰に投票するか。それだけだ。
私は戸部君に感謝の言葉を告げた。
「何だよ、面と向かって言われると恥ずかしいじゃないか。」
戸部君は照れていた。
「こっちも……ありがとな。」
戸部君はそう小声で言ったらしいが、私には聞こえていなかった。
「え、何?」
「なんでもねーよ。」
戸部君は笑いながら言った。
それから数時間は、ピリピリとした空気が続いた。投票結果は即日開票。果たして結果はどうなっているのだろうか。「いつも通りのメンバー」は、結果が発表される時間になると、急いで結果が張り出されている生徒玄関前に走った。結果は……
「受かった……。」
私と富美は口々に言った。
「受か、受かったーーー!」
戸部君と植木さんは嬉しそうに言った。私も「いつも通りのメンバー」同士で抱き合った。受かったのだ。私は生徒会長に、富美は生徒会副会長になったのだ。
「いやー、すごかったよ。」
男性の声が聞こえた。私は振り向くと、そこには、錦木先輩と本田先輩がいた。
「あんなことされちゃ、負けちゃうよね。」
本田先輩は言った。
「ああ、本当にすごいよ。おめでとう。」
錦木先輩は言った。私は言った。
「いえ、受かったのは私の力だけではありません。応援演説をしてくれた戸部君、共に立候補してくれた井田さん、そしてその応援演説者の植木さん、あと、ポスターやタスキ制作を手伝ってくれた嵐山君や鈴野さん、そして、私に投票してくれた全ての人のおかげだと思っているんです。私は、皆への感謝を忘れずに生きていければと思います。」
「いやー、こんなにいい子だったら、負けちゃうわ。あははは。」
錦木先輩は言った。それから、しばらく先輩方と話をした。
「それじゃあ、これからの生徒会頑張ってね!」
本田先輩は言った。
後に有識者から聞いた話によると、私や富美に票を入れたほとんどが1年と3年であった。勿論、1年生は自分の学年から歴史を変える人物が出る可能性があるのだから入れるだろう。2年生は自分の学年の人を受からせたいはずだから入れるはずもない。しかし、なぜ3年生は、私たちに票を入れたのか。理由は簡単であった。ノリだった。もっと正確に言うなら、なんとなく、1年生が仕切るという前代未聞の面白い展開になりそうだったから入れたのだ。彼らにとって、公約や演説、応援演説でさえも全くの意味をなさなかったのだ。私はそのノリのおかげで受かったのだから嬉しいとも思ったが、それよりも、私が頑張って考えてきたことが一切届いていなかったことがただただ悔しかった。こうして、生徒会選挙は幕を閉じた。
それからしばらくは、委任式などの行事が重なって、忙しい日々が続いた。とはいえ、「いつも通りのメンバー」と疎遠になってしまったとかそういうわけではなく、毎日のように話していた。むしろ、前よりも少しだけ、話の内容が充実したように思う。
私は今、充実している。家族とは毎日たくさん話しているし、近所の人からも好かれている。友達だってたくさんいるし、彼女だっている。自分で言うのもなんではあるが、成績もいいし、運動神経もまあいい方だとは思う。私は今、最高に幸せだ。とある人が、10代は人生の絶頂期と言っていたが、それもある意味本当なのかもしれない。しかし、そんな楽しい毎日は、ある日、ことごとく失われた……。
それは、生徒会選挙が終わって数か月後、季節はすっかり冬になってしまったある日の授業中のことであった。
「ここの角度をA度とし、その向かい側の辺の長さをaとしたとき、aをsinAで割ることによって、円の直径の長さを得られる。これは、B、C等にも言えて、これを正弦定理と言い……」
いきなりとある生徒のスマホが鳴った。
「おい、今大事なところなんだから、電源は切っておけよ。」
先生は言った。
「はい。すみませんでした。」
その生徒は不服そうな顔をした。すると、今度は別の生徒のスマホが鳴り始め、そしてまた……というように皆のスマホが一斉になり始め、教室はスマホの大合唱状態になっていた。その時、勢いよく教室の戸を開ける音がした。
「木林先生!」
そう声をあげたのは、教頭先生であった。どうやら、学校中の教室を周っているらしく、息を切らしている。
「テレビ!テレビを今すぐつけてください!」
教頭先生は言った。
「テレビ?何でです?」
先生は言った。
「とにかくつけてください。」
教頭先生は言った。先生は、テレビの電源をつけながら言った。
「それで、チャンネルは?」
「チャンネルは何だっていいです!なんなら7チャンとかでも構いません!」
教頭先生のその言葉にクラスの皆は驚愕した。どうやら、周りの状況からみて、何かしらの緊急会見が行われるというのは間違いない。しかし、記者会見をあまり生放送しない某7チャンまでもが放送するとなったら、それは過去にない緊急事態なのかもしれない。
「嘘だろ!7チャンでも放送するだと!?」
とある生徒は言った。
「そこまでやばいことが起こるのか……。」
戸部君は言った。
「チャンネルで重要度を判断するのはよろしくないと思うんだが。」
先生は言った。テレビに映像が映し出された。やはり、記者会見のようだ。
「えーと、映ったようなのでここで失礼します!」
教頭先生はそういうと、急いで教室を出ていった。過去にない緊急事態。それは一体何なのだろうか。
しばらくすると、テレビに総理大臣の姿が映し出された。総理大臣は言った。
「皆さま、本日はお集まりいただきまして、ありがとうございます。始めに、私は国民の皆さまに謝らなければなりません。我々政府は、国民の皆さまの命を救うことができないことを深く心からお詫び申し上げます。」
「一体どういうことですか!?」
カメラのフラッシュとともに、記者が質問を投げかけている。総理大臣はつづけた。
「我が国に、大型の隕石が飛来する可能性があることが確認されました。」
隕石……この言葉を聞いて、皆は言葉を失った。
「昨日、隕石が地球に接近しているということをお伝えしました。」
確かに、昨日、そのようなニュースはあった。しかし、そのニュースでは地球に落下する危険性はほぼないとされていたはずだ。
「その際、隕石が衝突する確率はほぼ0%と発表しましたが、その後の研究機関の予測によると、99.8%の確率で日本に衝突するという事が判明しました。」
隕石衝突。一体どれだけの猶予があるのだろう。そして、どこに衝突し、その被害はどれほどになるのだろう。私は思った。総理大臣は私の心を読んでいたかのように言った。
「隕石が衝突するのは、3日後。場所は……。」
そして、その後総理大臣が言った言葉に教室の皆はさらに驚愕した。そう、衝突が予測される場所は、この街。私たちが住んでいるこの街だったのである。
「予想される被害の範囲は、半径5km~10km。予想される被害額は、1兆円以上と思われ……。」
私は動揺が隠せなかった。この街が消滅する?皆と過ごしたこの街が、消滅する?下手をしたら自分の命さえ消滅してしまうかもしれない。私の額からは大量の汗が流れていた。そして、動揺してたのは、クラスの皆も同じようだった。あそこまで余裕を見せていた先生でさえも、足の震えが止まっていなかった。
「誠に申し訳ございません!もし……もし、少しでも早く発表できていれば……国民の皆様には、心から、心から謝罪をいたします!」
総理大臣は号泣した。カメラのフラッシュと記者の質問や野次馬は、よりひどくなっていた。しかし、私は、緊張と動揺で自分の心臓の音と時計の針の音しか聞こえなかった。
それからすぐに、学校は臨時休校になった。そして、街の人々は、街の外、つまりは安全圏へと避難しようと、一斉に移動を始めた。そのおかげで、幹線道路やはずれの小道でさえも渋滞してしまい、さらには、鉄道は多くの路線で運転見合わせとなった。その影響で、私たち家族は、街の外へ出ることができなくなってしまった。
私たち家族は、避難所と化した学校で、びくびくしながら過ごしていた。隕石が衝突してしまったら、ここら一帯は消えてしまうのは確実だし、別に、隕石の衝突から免れるシェルターがあるわけではない。しかし、皆がこの避難所に集まっている理由はただ一つであった。皆を街の外の安全圏まで運送してくれる、自衛隊のヘリコプターが到着する場所だったのである。そう、逃げ遅れた街の人々は、このヘリコプターに頼るしかなかったのだ。
そして、私たち生徒会役員一同は、そのヘリコプターへと避難者を誘導する、誘導係を務めることになった。とはいえ、他の生徒会役員は、早いうちに街を出て安全圏へと向かっており、この場にいる生徒会役員は、私と富美だけであった。普通こうしたものは地域の大人が行うものである。しかし、大半の人は既にこの街を出て、残っている人も他の事務作業で忙しく、誘導係まで手を回せる大人がいなかった。そのため、学生の中でも比較的権力のある生徒会役員に仕事が回ってきていたのだ。私と富美は、避難所の中心的な役割をはたしている体育館にやってくると、扉の前へと立ち、ヘリコプターがやってきたら、希望する避難者を順番にヘリコプターのある校庭へと誘導していった。それから、隕石衝突予想日当日までに何をしていたかは、よく覚えていない。
隕石衝突予想日当日。私と富美は、いまだに誘導を進めていた。
「大変だね。」
富美は言った。
「これで、救われる命があるなら、多少大変でも安いものだよ。」
私は言った。しかし、私と富美は、丸2日、誘導係を務めており、身体には疲労が蓄積されていた。そして、一区切り立ったところで、一度休もうとしたその時だった。
「僕も手伝ってあげるよ。」
後ろから男子の声が聞こえた。私は振り返った。その声は、戸部君の声だった。私は驚いた。
「戸部君、どうしてここに……避難したんじゃなかったのか!?」
私は言った。
「嵐山君と鈴野さんは早いうちに既に街の外へ出たみたいなんだけど、私たちはまだ出れていなくて。」
戸部君の後ろから植木さんも出てきてそう言った。
「加奈子ちゃんまで……。」
富美は驚きながらも言った。
「それで、2人とも大変そうだったから、誘導係手伝ってあげようかと思ってさ。」
戸部君は言った。私をそれを聞いて静かに言った。
「お前ら正気か……?」
戸部君と植木さんは、目を見張った。私は大声で言った。
「私らと一緒にいると、きっとヘリに乗れるのは最後だぞ!私らは生徒会という理由があるけど、君たちは正当な理由なんかないんだぞ!」
「理由はある!お前らが友達だからだ!」
戸部君は叫んだ。
「友達だからだって……。でも、もしかしたら、お前ら死ぬことになるかもしれないんだぞ!」
私は必死に訴えた。
「でも!そういうお前らだって一緒じゃないか!」
戸部君は言った。私と富美は何も言えなくなってしまいそうになった。しかし、私はそれを振り切って言った。
「駄目だ!とにかく駄目なんだ!」
「タイムリーパーかよ……。」
戸部君は笑いながら言った。戸部君は私がふざけて言ってるようにしか見えないようであった。私の目からは涙が流れ落ちた。
「……ふざけてるわけじゃないんだよ。」
「西島君、裕也はすごい感謝しているんだよ。裕也の演説見たでしょ。」
植木さんは言った。戸部君はそれに続けて言った。
「そうだ、僕は西島君にとても感謝してる。本当は、演説にだって入りきらないほど、多くのことで助けてもらった。それに、井田さんに関しても、発案してくれた肝試し、最初は怖かったけど、案外楽しかったのよ。」
富美は驚いた。
「それも、何もかもがお前のおかげなんだ。だから、恩返しがしたい。」
戸部君は言った。少しの沈黙が流れた後、私は言った。こういわざるを得なかった。
「責任は……とらないぞ。」
「いいの?」
富美は心配そうに言った。
「本人たちがやりたいと言っているんだ。やらせてあげたらいいよ。まあ、ヘリコプターは私たちより先に乗らせるけどな。」
私は言った。富美は安心した様子でうなずいた。
それからは、予想以上に早く進んだ。そして、避難所にいる残り人数も数えられるほどになった。といっても、残りは、私と富美と戸部君と植木さんとそれぞれの家族、そして、先生だけだ。
「あとは、これだけですか。」
自衛隊の隊員は言った。
「はい。」
私は言った。皆はヘリコプターの止まっている校庭へと向かった。そして、次々とヘリコプターに乗り込んで行く。その流れで私と富美、戸部君、植木さんも乗り込もうとした。その時だった。
「もう乗れません!重量オーバーです!」
ヘリコプターの操縦士は言った。
「なんだって!!!」
ここにいた全員が驚いた。
「あの、必ず迎えに来ますから、次の便まで待ってもらえますか?」
自衛隊の隊員は言った。
「ええ。」
私と富美、そして、戸部君と植木さんはその場を察して、答えた。
「駄目よ!駄目!どうせなら私が下りる!」
母が必死に降ろしてくれと頼んでいる。
「駄目です!一度乗せたら降ろせません!」
自衛隊の隊員は母を制止させている。
「大丈夫だよ、母さん。自衛隊の人もまた来るって言ってるし。」
私は言った。
「駄目よ!乗りなさい!」
母はそう言って聞かない。私も悲しかった。もしかしたら、母と一生のお別れなってしまうかもしれないと思うと、涙があふれてきた。
「ごめん……ごめん!私はここには乗れない!」
私はそう言って、目を背けた。
「明、死ぬかもしれないんだぞ!乗れ!」
父も言った。
「駄目だ……。」
私は言った。
「明、何が君をそこまでさせる。」
父は聞いた。
「友達……かな。」
私は目の周りが涙で赤くなりながらも微笑んで言った。それを聞いて、父は、
「そうか。」
とただ一言で言い、母の制止も聞かず、奥へと入っていった。
「駄目よ!友達?それよりも家族よ!」
母はまだそう言っているが、父が大声で、
「もうやめなさい!」
といい、無理やり制止させた。
「必ず、必ず迎えに来ます!日本国の誇りにかけて!」
自衛隊の隊員はこういうと、ヘリコプターの扉を閉めた。あまりよくは見えなかったが、その隊員は少しだけ涙しているように見えた。そして、厳しそうな顔をしているようにも見えた。嫌な予感がした。そして、その予感は的中し、家族との会話は先ほどの会話が最後となった。
戸部君と植木さんは、屋上へと向かい、次のヘリコプターが来るかを確認しに行った。私と富美は、学校の天文部の望遠鏡を拝借し、隕石が見えるかを確認することにした。私は、教室の窓際に望遠鏡を設置し、隕石を探した。方向は合っているはずである。すると、それらしきものを見つけた。大きな岩が炎の尾を出しながら、落下している。私は富美に言った。
「もう、次のヘリコプターが来るまでには、間に合わないかもしれない。」
富美もなんとなくそれを察していたようだった。
「とりあえず、戸部君と加奈子ちゃんを探して、このこと話さなきゃね。」
富美は言った。私もそれに同意して、まずは、屋上へきた。しかし、そこには誰もいなかった。ただ青い空が広がっているだけである。続いて、先ほどまでヘリコプターが止まっていた校庭へとやってきた。しかし、誰もいない。体育館にも来た。しかし、誰もいない。それから、私と富美は、戸部君と植木さんを学校中探して回ったが、結局見つかることはなかった。
「どこにいったのだか……。」
私は言った。
「きっと、ヘリコプターが来て、乗せていったんだよ。」
富美は言った。とてつもなくポジティブな考えだった。
「そしたら、なぜ私たちは気づかなかったんだ?」
「わからない。いつの間にか、という可能性もありそうだね。」
私は息を呑んだ。そして、私は言ってはいけないと分かっていながらも言った。
「これ、もしかして、置いていかれたのでは……?」
「そんな……。」
私と富美は絶望に包まれた。
それからしばらくして、私と富美は教室の窓の外を見ながら、手を繋いで立っていた。
「ああ、怖いな……。」
富美は言った。声が震えている。
「私だって、怖い……だって……だって……。」
私も言った。過去に無いほどの恐怖だった。あの肝試しの何倍もの恐怖だった。私と富美は、最後の希望にかけてヘリコプターを待ち続けた。しかし、窓の外を見る限り、もう完全に不可能だということはわかっていた。隕石は肉眼でも目視できる程に近づいていた。
「明君、私たち死んじゃうのかな……。」
富美は言った。これに私はこう答えた。
「そうだな、残念ながら、私たちは死ぬしかないようだ。」
「え……。」
富美は唖然としていた。そして、元気をなくし始めた。私は焦りつつも、元気づけようとして言った。
「でも、案ずるな。きっと、何かしらで大丈夫なはずだ。」
「ど、どういうこと……。」
富美は余計に唖然とした。自分でも何を言っているのかわからなかった。
「そ、そうだよね。さすがに混乱するよね。私も死んじゃうかなんて聞いてごめん。」
富美は言った。
「……いいんだよ。」
私は言った。私は少し不思議に思っていた。確かに、死んで消えてしまうことは恐ろしいことである。自分のこれまで積み上げてきた地位や経験、友人との関係でさえも、失ってしまうかもしれないからである。しかし、何故か心の奥底では安心していたのだ。人に求められることは自分の存在意義を見出すことのできる素晴らしいものであると思う。とはいえ、それに固執しすぎると、いつの間にか身体は朽ち果ててしまう。こうしたものから解放されるという点では、少し安心していたのかもしれない。しかし、それは人間として社会を生きる上ではあるまじき考えであった。私は、過去に読んでいる本を思い出した。そして、私はこう言った。
「あのさ、今こんなことというなんてふざけているかもしれないし、中二病感満載かもしれないけど、言っていいかな。」
「いいよ。」
富美は了承した。
「もし、異世界転生なんていうものがあるとするならば、また、会えるといいな。」
なんてことを言っているのだ。
「うん。私も実は思ってた。実は、私も言いたいと思っていたことがあるの。」
富美も同じことを思っているとは予想外だった。それにしても、言いたいこととは何だろうか。
「何?」
私は聞いた。
「改めて言うことになるけど……私、明君のこと……す……」
「す?」
「す……」
その瞬間、眩い光と音と風圧が辺りを包んだ。どうやら、タイムリミットのようである。富美が最後に言おうとしたこと、戸部君と植木さんの行方がどうなってしまったのか、いろいろ気になって仕方がないが、それ以外は、私の人生に悔いなし。たとえ、隕石で死んでしまうという悪い終わり方をしてしまった人生でも良い人生と思えばそれは良い人生なのだ。これもまた、使い方を間違えているかもしれないが、「住めば都」という言葉もあるくらいだ。死に方なんて気にしなくてもいいくらい充実した良い人生だった。私は、そう思うことにした。こうして、私たちと街は跡形もなく消え去ってしまった。
【予告】
草原で目を覚まし、死んでしまったことを自覚した明。しかし、神様から異世界に転生したことを伝えられる。明は転生してしまった事実に驚きを覚えつつ、とりあえずこの状況を飲み込むことにした。どこにいるかもわからない富美を探しながら、とある店の中で知る明の能力は――
次回 第4章 転生 現在公開中
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こんにちは、明日 透です。
二人は常に宙を舞うの第3章を読んでいただき、ありがとうございます。今回で、現代生活編は終わり、待ちに待った転生編がやってきます。ここから、大きく内容もシフトチェンジしていきますので、どうぞよろしくお願いします。とはいえ、今回の現代生活編、「はじめに」にも書いたように、きちんと意味がありますから、どうか忘れないようにだけしておいていただけると嬉しいです。
一応、私自身、細心の注意は払っているのですが、稀に「……」が「・・・」になっているときがあるかもしれません。なぜなら、元々この作品、三点リーダー(「…」のこと)を使用するときは偶数個入力しなければならないという文法のルールをあまり理解していないときに書いたものだからなのです。これまでも話しているのように、これは、数年前から書き溜めているものを修正してここに投稿しています。そのため、稀に修正し忘れや、文法ミスを起こしている場所があるのです。こうしたものを見つけた時は、それを指摘していただくか、「あ、これは、昔の『明日 透』の痕跡なんだな」というように温かい目で見ていただけると幸いです。
そういえば、私のペンネームの「明日 透」ですが、最初は同じ発音で別の漢字にしようとしていました。しかし、同じ名前の方がいらっしゃったので、現在の形になっています。もしかしたら、修正ミスか変換ミスで残ってる場合もありますので、その時も、先ほど同じように温かい目で見てほしいと思います。
次回もお楽しみに。




