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二人は常に宙を舞う  作者: 明日 透
現代生活編
3/11

第2章 夏の肝試し

 それから、また数週間がたって、1学期の期末テストも終わり、あとは夏休みが来るだけだと、皆が安堵の意に包まれていたころ。昼休みの教室で、「いつも通りのメンバー」とくだらない世間話をしていた。

「トイレットペーパーを上下逆につける奴ってムカつかない?」

嵐山君は言った。

「そんなこと、ちまちま気にするかよ。」

戸部君は言った。

「いやー、私は気になるかな……。」

鈴野さんは嵐山君に同意した。

「だよねー、女子は思うよねー、わかるわー。」

嵐山君は言った。

「いや、君男子でしょ。」

皆は声をそろえて突っ込みを入れた。

「そんな汚いことよりもさ、テストだよ、テ・ス・ト!」

戸部君が言った。いつかは来るのではないかと思っていた。忘れがちだが、テストの地獄は、単に勉強や本番のテストだけでは終わらない。そう、テスト返しというものがあるのだ。先生は人には極力見せないようにと声をかけているが、必ずと言ってもいいほど、テストの点数が極端な人や友人の席に、人が集まって見せてもらうようにせがむことになる。そのため、テストの点数がいい人には、いいアピールチャンスになるかもしれないが、悪い人にとっては、何をどうあがいても、公開処刑になることは間違いないのである。そして、今日、全てのテストの点数と学年順位が記された、「成績個表」が渡された。私たち、「いつも通りのメンバー」は、この話題が上がった際、効率性と公平性を保つため、あえて、テストが返された瞬間にテスト用紙を見せるのではなく、「成績個票」を見せるというスタイルをとっていた。本当は、誰にも見せたくないという気持ちがあるのだが、心の奥底に、もしかしたら、周りの皆は低いかもしれない、自慢できるかもしれないという気持ちが少しだけあったため、極力思い出さない、この話題を出さないように気を付けつつ、誰かこの話題を出してくれないかなとも思っていた。そして、今、戸部君はこの話題を出した。皆は待ってましたと言わんばかりに、「成績個票」を取り出し目の前の机の上に出した。

「ぷぷ、やっぱりこの中で最下位は、裕也ね!補習決定!」

植木さんは言った。

「くそ……。」

戸部君は悔しそうだ。この学校では、主に主要7教科の合計を基準に見せあっている。ここで言う主要7教科とは、現代の国語、言語文化、数学Ⅰ、数学A、科学と人間生活、公共、コミュニケーション英語Ⅰのことある。戸部君は、7教科合計193点、学年順位は240人中215位だった。

「そういってるけど、植木さんだって、成績……。」

嵐山君は言った。

「げっ……。」

植木さんは、7教科合計340点、学年順位は240人中160位だった。

「あ、赤点回避したからいいでしょうが!!」

植木さんは大きな声で反論した。赤点は回避したのに顔は赤い。

「まあ、俺はいまいちだけどな。」

嵐山君は、7教科合計498点、学年順位は240人中75位だった。

「私も……まあ、こんな感じかな。」

鈴野さんは、7教科合計500点、学年順位は240人中74位だった。

「みんなすごすぎだろ……。」

戸部君はあっけにとられていた。

「裕也が勉強しなさすぎるのが、いけないのよ!」

植木さんは言った。そして続けて、

「そういえば、井田ちゃんと西島君は?」

と聞いた。

「私は……自慢するほどでもないけど……。」

富美は、7教科合計698点、学年順位は240人中3位だった。やはり強すぎる。

「私は、まあこんなもんだけど。」

私はそう言いながら、「成績個票」を机の中央に寄せた。私は……、私は、7教科合計699点!!学年順位は240人中2位!自分でもこの数字が出たのは正直驚いている。

「ははー。」

私と富美以外の皆は地面にひれ伏せた。私と富美はあまりの反応に混乱した。

 さて、こんなものは一過性の物に過ぎない。テストの地獄を抜けたなら、この先は待ちに待った夏休みがやってくる。終業式数日前の昼休みにはそれぞれの友人同士で夏休みに何をするのかを話し合うような状況が続いていた。そして、我らが「いつも通りのメンバー」も例外ではない。

「夏休み、どうするんだ?」

戸部君は言った。

「あなたは補習でしょ。」

植木さんは言った。

「いや、補習っつても、毎日あるわけじゃないし。」

「でも、宿題は?」

私は言った。

「宿題なんか1日で終わるわ。」

「いや、あれを1日で終わるは無謀だと思うんだけど……?」

富美も言った。確かに、私のような補習のない人なら、本気でやれば1日で終わる量だろう。しかし、戸部君のように補習がある人の場合は、追加課題が出される。追加課題の内容は、補習があるない関わらず全員に知らされるため、補習がない私にもその追加課題の量は理解できるのだが、富美の言う通り、どう考えても、1日で終わる量ではない。

「うんじゃあ、3日!3日だ!」

戸部君は自棄になったように言った。

「それで大丈夫なのかな……。」

鈴野さんは心配そうに言った。

「まあ、家も近いし、いざとなったら私が助けるわよ。」

植木さんは言った。

「えー、僕よりちょっと成績上だからって調子乗らないでくれますかぁ?」

戸部君は言った。

「は?」

植木さんはキレた。喧嘩になりそうだったので、皆はそれを全力で阻止した。

「で、夏休み、どうする?」

嵐山君は言った。気を取り直して、夏休みにどうするかを話し合うことになった。

「うーん、祭りとか?」

鈴野さんは言った。

「でも、すごい混んでそう。めんどい。」

戸部君は言った。これを聞いて、植木さんは同意した。

「そうなんだよね、ここら辺の祭りって、すし詰め状態で優雅に歩ける場所なんてないから。」

「プールとか?」

戸部君は言った。

「いや、プールは今混んでるよ。私、この前、家族で行ったけど、マジで死にそうだった。」

植木さんは言った。私も案を出さなければと思い、案を出した。

「キャンプ……とか?」

「テント……張るの?」

嵐山君は言った。

「そうか、面倒くさいよな。」

私は言った。そして私は続けて、

「じゃあ、釣りとかも無理か……。」

と言った。

「カラオケは?」

嵐山君は言った。

「夏らしいかなっていうとどうかな……。」

私は言った。

「うーん、じゃあ海とか?」

富美は言った。

「海か……いいかもしれないな……。」

私以外の男子集団が良からぬことを考えているかもしれないので、私は言った。

「でも、海までの交通費は持ってるの?」

これを聞いた瞬間、私以外の男子集団は、残念そうに、かつ図星だったかのような顔をして、

「あ、そうだったー!」

と言った。女子たちは、西島ナイスと言わんばかりに小さくグッドサインを出した。

「こうなったら、バイトして……。」

と往生際の悪い戸部君が言いかけたとき、それを遮るように富美は言った。

「ねえ、じゃあ、き、肝試しはどう?」

「肝試し!?」

皆は言った。皆は、富美がいきなり肝試しという選択肢を編み出したことに驚いていたようだったが、実は、私はもう一つの意味でも驚いていた。それは、本当は、富美は呪いや幽霊が苦手なのである。

 富美とは、小学校の林間学校の肝試しの際、同じ班となり、共に行動した。そして、明らかに先生だとわかる幽霊に、私と共に絶叫し、泣き叫び、全力疾走したのだ。ここからもわかるように、私も富美も呪いや幽霊が苦手であるが、もしかしたら、数年前のはなしだから、今は違うかもしれないと周りは思うだろう。しかし、私も富美もいまだこういうものは苦手なのである。自分がどうこうはわかるにして、富美にはなぜそれが言えるのかというと、先ほど肝試しの話を切り出す際、確実に、誰でもわかるくらいに、冷や汗が大量に出ていて、普通に話しているように聞こえるが、実はイントネーションがおかしかったり、地味にカタコトになってしまっていたりするのだ。ここから、ひどく動揺している。つまり、絶対に行きたくないけど、話をすり替えるために仕方なくしたということは、明らかに伝わったのである。そして、それが伝わったのは、少し時間差はあったものの、ほかの皆も例外ではなかった。

「肝試しはやめた方がいいと思う。」

鈴野さんは言った。

「うん、その方がいい。危険だから。」

嵐山君も言った。

「……でも、行ってみたくない?怖いけど……。」

植木さんは言った。

「確かに、怖いもの見たさってのはあるかもしれないけど……。」

戸部君は言った。

「で、明君はどうするの?」

富美は言った。皆の反応を見る限り、どうやら、皆、呪いや幽霊の類は苦手のようである。しかし、絶対に行きたくないけど、これしかないから仕方なく感がとてつもなく出ている。現在、賛成は、富美、植木さん、戸部君の3名、反対は、嵐山君、鈴野さんの2名である。もしも、私が反対に入れれば、引き分けにはなるが、皆は本心では行きたくないのできっと中止になるだろう。しかし、私が賛成に入れれば、4対2で実施決定となる。正直言って、私は行きたくない。とはいえ、これが実施されなければ、夏休みに集まる理由がなくなり、夏休みはただ家でぼーっとするだけで終わる。本当にそれでいいのだろうか。華の高校1年生の夏休みをぼーっと過ごすだけでいいのだろうか。それは、味気ない気がする。私は自問自答を繰り返し、決めた。

「私もそれでいいよ。」

鈴野さんと嵐山君は口をあんぐり開けた。他賛成派3名も、素直に喜べるような様子ではなかった。私は苦笑した。夏休みは肝試しをすることが決定した。

 それからしばらくして、夏休みはやってきた。

 夏休みも半ばになったある日の午後9時、私と富美は、隣町の神社にいた。

「それにしてもよかったな、近所のおばさんの友人が、宿屋やってるだなんて。」

私は言った。

「うん、ご厚意に預かって感謝だね。」

富美は言った。

 ある日、私の家の近所に住んでいるおばさんが、私に話しかけてきた。どうやら、おばさんの友人が隣町で宿屋をしているのだが、どうも最近、客の出入りが少ないらしい。少しでも経営を維持したい、宿をよく見せたいというその友人が、ぜひとも格安で泊まってはくれないかと迫ってきたらしい。しかし、自分はいい歳のため、隣町へ行く気力がない。どうか、代わりに泊まってきてはくれないか。友人もつれてきていいからと、お願いされたのである。よく言えば、人助け。悪く言えば、サクラ、もしくはモニターである。丁度、肝試しも宿屋近くの神社でする予定であったほか、皆の小遣いでも足りる程度に格安だったのもあって、それぞれの親の許可を得て、その宿に泊まることにしたわけだ。なお、一応、念のため言っておくが、2部屋とって男女別にしている。もしも問題が起きたとき、私たちも宿屋側も損をするのは分かっているからだ。

 そして、今、その宿屋に荷物を置いて、ある程度準備が終わったら、この神社に集合ということになっているのだが……。誰も来ない。これは、単純に怖がっているだけなのか、何か忙しいのか、それとも……。考えただけで、背筋が凍る。

 しばらくして、戸部君、植木さん、嵐山君、鈴野さんが合流した。

「ごめんごめん、道に迷っちゃって……。」

植木さんは言った。戸部君も植木さんと一緒に行動していたようである。嵐山君と鈴野さんはまた遅れた理由が違うようで、嵐山君は、

「近くに道に迷った人がいたから、道を教えてあげてたら、遅くなっちゃった。」

と言った。

「そうか、でも、全員集まってよかったよ。」

私は言った。

「それじゃ、き、肝試し……始め、ようか?」

戸部君は言った。やはり怖い。皆、オーと拳を上げたものの、それはぎこちなく、テンションは下がりまくっていた。

「じゃあ、2人1組で行く?」

鈴野さんは言った。

「いや、怖い。」

私は言った。

「私も……。」

富美も言った。

「いや、さすがに無理がある……。」

植木さんも言った。

「それな。」

戸部君も言った……という風に、全員がそれを拒否したので、結局全員でまとめていくことになった。

 今回のルートは、神社の入り口から、裏の林に入り、神社の周りを一周して、戻ってくるという内容だった。なお、神社の神主さんからは許可を得ている。

「うー、超怖い。」

戸部君は言った。やはり、暗い林の中を歩くのは少し気が引けた。しかし、明るい状態でやるのは肝試しの意味がないので、仕方がない。別に、この広さの敷地なら、灯がなくても迷子になるなんてことはない。しかし、怖い。科学的根拠がないといわれてもそれは変わらない。

 しばらく歩いていると、こつんと何かがぶつかる音が聞こえた。どうやら、誰かが足をひっかけたようだ。

「う、うわああ!」

嵐山君は下を向きながら言った。どうやら、足を引っかけたのは嵐山君のようだが、皆は彼が足に引っ掛けたものを見て、悲鳴を上げた。墓、いや、地蔵……だろうか。半分土に埋まっている。

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!」

早口で嵐山君は謝った。

「もう、嵐山、驚かせるなよな。」

私は言った。何だか、自分の口調がいつもと違う気がする。

「わ、悪かったって。」

嵐山君は言った。そのとき、ぽつんと水が垂れる音がした。

「ひい!」

植木さんは、小さく悲鳴を上げた。

「ひい!」

その悲鳴を聞いて、連鎖的に富美も、小さく悲鳴を上げた。

「水の音……びっくりした。」

富美は言った。

「実は幽霊は何かいない、いない、いない、いない。」

植木さんは、小さく早口でこう唱えている。鈴野さんも、よくわからないお経らしきものを唱えている。これは、さすがに無理がある。私は、やはり肝試しはやめようと言おうとした。その時だった。

「あ、あそこに、人がいる。」

嵐山君は言った。

「え、嘘でしょ。」

私は言った。

「誰だろう……。」

嵐山君はよく目を凝らしてその人影を見ると、急に鈴野さんの肩をたたいた。

「ひい!」

鈴野さんは、小さく悲鳴を上げた。

「鈴野さん、あの人だよ、あの人。」

「あ、あの人か!」

鈴野さんは思い出したかのように言った。嵐山君と鈴野さんは走り出した。正直言って、私たちは、2人の言う「あの人」とやらがどこにいるのかが分かっていなかった。しかし、嵐山君と鈴野さん、2人がいると言っているのだから、きっといるのだろう。もしかしたら、暗さで視力が弱っているだけかもしれない。皆は2人を信じてついていった。そして、その「あの人」の所まで着いた。

「あ、こんばんは。」

「先ほどは大丈夫でしたか?」

嵐山君と鈴野さんは話している。私たちは混乱していた。嵐山君と鈴野さんは、今、何もない林に向かって、話しかけているのである。

「それにしても、なぜここに?」

嵐山君は普通に話をしている。さすがにこれに違和感を覚えたのか、

「ねぇねぇ、2人とも……何を話してるの……?」

と植木さんは言った。

「え?」

嵐山君と鈴野さんはこう言って、顔を見合わせた後、少し間を開けて、嵐山君は、

「目の前にいるでしょ?さっき、道に迷ってたのを助けたっていうあの人だよ、あの人。」

と言った。

「見えるわけないだろ!」

戸部君は言った。

「嘘でしょ……。」

鈴野さんはこう言った後、もう一度、嵐山君と顔を見合わせた。そして、何かを察した顔をした。

「嵐山君、『見える』体質なの?」

鈴野さんは冷や汗をかきながら言うと、嵐山君も冷や汗をかきながら、

「え、鈴野さんも!?」

と言った。そして、続けて嵐山君は、

「いやー、中学校から一緒にいるのに、知らないことも多いもんだね。」

と少し笑いながら言った。

「何、その『見える』って……。」

私は恐る恐る聞いた。すると、嵐山君は、まるで幽霊にでもなったかのような顔をして、

「ああ、俺、昔から霊感が強いんだよね……。だから、こういうところに行くと、見えちゃうんだ……。」

と言った。それを聞いて、富美は言った。

「え、じゃあ、鈴野さんも!?」

「うん。私も霊感、小さいころから強くてさ。」

鈴野さんも嵐山君と似たような顔で言った。

「えーーー!!!」

皆は驚いた。そして、植木さんはありえない早口で言った。

「もももももももも、もしかして今、2人が話していた人っていうのは……。」

「幽霊ってことになりますね。」

嵐山君と鈴野さんは口をそろえて言った。

「ぎゃああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」

皆は走って外へと逃げた。

「別に悪い霊とかじゃないから!!」

そういいながら、嵐山君と鈴野さんは追いかけてくる。私たちには、まるで嵐山君と鈴野さんが、幽霊の化身のように見えてたまらなかった。2人に捕まってしまったら、多分、死ぬ。そんなことさえ思った。私は必死に逃げた。皆も必死に逃げた。林を抜けて、灯が見えてきた。神社の入り口だ。そして、皆は、神社の前で足を止めた。皆は、先ほど宿屋で出された夕飯を吐き出しそうになっていた。

「もう、はあ、追っては、はあ、来ないだろう、はあ。」

私は言った。その言葉を聞いて、皆が安堵したその時、

「もう、みんな早いって……はあ、はあ。」

嵐山君と鈴野さんも入口へとやってきた。

「ぎゃああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」

皆は驚いた。

「大丈夫、大丈夫、きっと、神社は聖域だから、神社の外からは出てこないよ……。」

嵐山君は言った。

「それに……あれ……冗談だから。」

鈴野さんは言った。

「あれって?」

富美は言った。

「あの、『見える』ってやつ。」

嵐山君は言った。

「えーーー!!!」

皆は驚いた。

「冗談だったのかよ!」

「本気でびっくりした。」

「言っていい冗談と言っちゃいけない冗談ってものがあるでしょう。」

「本当に、死ぬかと思ったんだから!」

皆は口々に言った。それから、数分の間、嵐山君と鈴野さんは皆にこっぴどく叱られた。しかし、私には、あれが冗談のようには思えなかった。あの反応、やけにリアルだったし、口裏合わせだけで、あんな芝居ができるだろうか。やはり、2人には、何か見えざる者が、見えていたのかもしれない。そう思ってやまなかった。

 皆は、宿屋へと戻ってきた。皆は部屋に戻ってきて真っ先に布団に倒れた。不幸中の幸いと言えるのは、あれが冗談であったこと、夕飯や就寝の準備は既に済ませていたことだろう。あれの後、夕飯や就寝の準備を済ますとなったら、きっと疲れと恐怖で絶望していたところであろう。私たちは、速攻で風呂に入り歯磨きをして、眠りについた。尚、この話は、男子部屋の話であり、女子は何をしていたのかはわからない。もし知っている人がいたらびっくりするくらいだ。とはいえ、女子がその時何をしてたかについてはすぐにわかることになる。私たちは、眠れなかった。男子は気が強いし、忘れっぽいからこういうのは気にしないというのは、ただの偏見である。男子であろうと怖いものは怖い。

「えーと、起きてる?」

嵐山君は言った。

「うん、起きてる。」

私は言った。

「僕も起きてるよ。」

戸部君は言った。こういう時に私は無駄なことに気づく。

「そういえば、嵐山君って比較的、落ち着いてるのに一人称『俺』だよな。戸部君は、騒ぐ割には『僕』だし。」

私は言った。

「騒ぐってなんだ。騒ぐって。」

戸部君は言った。

「そういう君も『私』でしょ?」

嵐山君は言った。

「そうだな、これも偏見ってやつか。」

私は言った。恐怖しかなかったこの空間に少し笑いが生まれた。ふと思うのだが、友人同士では初めてのお泊りだというのに、恐怖で満ち溢れているとは一体どういうことだろう。不思議だった。何も、私があの時、賛成に入れていなければ、そんなこともなかったのだけれど。しかし、この夏休みは、この肝試しによって、随分と充実したものになった気がする。

 こんこん。部屋の戸をたたく音が聞こえたのは、そんなことを考えていた時だった。皆は背筋が凍った。こんな時間に女将さんが来るわけがない。では、一体誰だろうか。女子たち?いや、きっと女子も寝ているだろう。泥棒?いや、泥棒なら律儀に戸なんて叩かない。なら、もしかしたら、幽……。小さな声で相談した結果、何故か、私が代表で出ることになった。私は、恐る恐る戸を開けた。すると、そこには、女子たち、つまりは、富美、植木さん、鈴野さんがボロボロの姿で、布団を抱えてやってきた。

「いや、怖くて枕投げしてたんだけど、けが人出ちゃって……。」

植木さんは言った。

「いや、だからと言って、布団持ちながら、男子の部屋に入ってくるとは違うでしょう。」

私は言った。

「えーと、それでも怖くて眠れなかったから、男子の部屋に行けば、男子は気が強いし、忘れっぽいからこういうのは気にしないから、うまく眠れるかなと。」

富美は言った。

「いや、偏見!あと、君たちのほうがよほど男子っぽいことしてるからね!?」

私は突っ込みを入れた。

「それに、男子に警戒心はないのか、警戒心は。」

後ろから覗いていた戸部君は言った。

「ああ、その時は、お二人が殺してくれるので大丈夫です。」

鈴野さんは言った。富美と植木さんは鬼の形相でこちらを見た。皆は、違う意味での恐怖を感じた。とはいえ、本人たちが入りたいと言っているのだ。仕方なく中に入れた。先ほど、けが人が出たと言っていたが、けが人は女子全員だった。私がフロントから、救急箱を借りてきて、皆の傷を消毒した。一体、どれだけ白熱していたのだろう。そもそも、柔らかい枕なんかで、擦り傷をつけることはできるのだろうか。そのとき、あの鬼の形相を思い出した。なぜか私は納得した。恐怖は人間をここまで変えるのかと思った。皆は男子部屋に集まって眠った。女子はすんなり寝ていたが、男子陣は、色々な意味で全く眠れなかった。

「皆さんおはようございます。昨夜はお楽しみでしたね。」

女将さんは言った。なぜ、相当歳がいっているおばさんがこのネタを知っているのか不思議だった。しかし、それ以前に皆、特に男子陣は特に気づかれない程度にだが焦った。とはいえ、別に卑猥なことをしたとかそういうわけではない。ただ一緒に寝た……ああ、これではまた違う解釈になってしまう。夜を共にした?いや、違う。何と言えばいいか。とにかく、変なことはしなかったのだから、きっと大丈夫だろう。

「……肝試し。」

直後に女将さんの口からこの言葉が出て男子陣は安心した。

「それにしても、男子、心弱いのね、皆、目に隈がついてる。」

植木さんは言った。すぐにフロント近くの鏡で顔を見てみると、男子陣の目には濃いめの隈ができていた。寝れていないので仕方ない。誰のせいなのだろうか。男子陣は女子陣を見ながらそう思った。こうして、夏の肝試しは終わった。

 夏休みが明けた。戸部君は、何とか追加課題を終わらせることができた。夏休み最終日に私の家に頭下げに来たのは忘れてあげよう。さて、嵐山君と鈴野さんは、やけに仲良くなっていた。どうやら、夏休み中に付き合ったらしい。もしかしたら、あの肝試しのときに吊り橋効果とやらで、仲良くなったのかもしれない。私と富美のときはバレバレだったのに、なぜ2人は気づかれないように付き合えたのだろうか。やはり、恋愛相談の達人である。それにしても、嵐山君と鈴野さんは、1日おきで、喧嘩をしたり、急にイチャついたり、私と富美と違い、情緒不安定だなとも思う今日この頃であった。

【予告】

 生徒会の会長と副会長に立候補することになった明と富美。しかし、そこに立ちはだかるのは、学校随一のエリート陣であった。明と富美は、無事、選挙に当選できるのだろうか。そして、その後に突然知らされた大型隕石飛来のニュース。「いつも通りのメンバー」の運命はいかに――


  次回 第3章 生徒会選挙とこの世の終わり 現在公開中


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こんにちは、明日あす とおるです。

二人ふたりつねそらうの第2章を続けて読んでいただき、ありがとうございます。いろいろあった現代生活編も次回で終わりとなります。そしたら、きちんと転生しますから、もうしばらくお待ちください。

なお、第2章の冒頭は、実は……いや、何でもないです。

さて、この物語のタイトル「二人は常に宙を舞う」ですが、「ちゅうを舞う」のではなく、「そらを舞う」となっておりまして、その理由としては、「ちゅうを舞う」というのも「空を舞う」というのも、何か味気なかったというのもありますが、実は、略したときに「二宙ふたそら」とちょうどいい略し方ができるのではないかというのもあるからなのです。しかし、この物語を書き始めた数年前はそんなこと考えていなくて「明暗を分けるもの」という安直な名前にしていた時期もありました。とはいえ、現在、個人でWordで書いていた小説がこうして世に出す決心がついたことを考えると、自分も少しは成長したのかなと思っております。

そういえば、現時点で私はSNSのアカウントは持っておりません(LINEは個人的なものでありはするけど……)。「小説家になろう」以外で何かを投稿したこともありません。それゆえ、ここでのご感想などは、私が直接見ることのできる貴重なものです。ご意見、ご感想、心よりお待ちしております。

次回もお楽しみに。

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