表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢の中の誘拐事件  作者: 灰色坊や
第1章∶動き出す希望と、目覚める本能
8/73

【8話】敵情視察


 短髪をワックスで所々跳ね上げたその少女は、鵜飼(うかい)と目が合うと優しく微笑んだ。その少女が神崎(かんざき)チカであることを認識するのに、鵜飼は二、三秒ほどの時間をかけていた。


「うわ! キミ、何で僕の学校に?」


 鵜飼は思わず後退りし、自販機に背中を強くぶつけてしまった。


った……」


 背中を痛がる鵜飼に対し、神崎は柔らかな表情で会釈する。


「えっと『キミ』じゃなくて」鵜飼は痛む背中を擦りながら、「神崎……チカ……さん」


 彼女をどう呼べばいいのか分からず、鵜飼は継ぎ接ぎに名前を呼んでいた。


「鵜飼さん。私のことは『神崎』でいいですよ?」


「そう? じゃあ、神崎……。えっと、おはよう……」


「ええ、おはようございます」


 神崎は満面の笑みを咲かせた。


「あ、えっと、それで……神崎……何で僕の学校に?」


「ああ、それはですね――」


 神崎の言葉を遮るタイミングで、藤井(ふじい)がパチパチパチと、間の空いた拍手をした。


「なるほど。そういうことか、鵜飼」


 言うと、藤井は自販機に背中からもたれて腕を組んだ。


「鵜飼、彼女ができたならそう言えばいいじゃないか。何故こんなかたちでしか紹介できないんだ?」


 口に何も含んでいないはずなのに、鵜飼はむせてしまった。


「違うってば! さっき話したでしょ? この人が厚生労働省の人っ!」


「……彼女が? 例の?」


 疑心を抱くような瞳を当てる藤井。対して神崎は、至極柔らかな笑みを浮かべたのであった。


「とりあえず自己紹介をしてくれるか? 可愛らしいお嬢さん?」


 藤井は自販機から背中を離すと、神崎に向かって微笑んだ。その時、藤井のバックに赤いバラが咲き乱れたビジョンを鵜飼は見ていた。


「申し遅れました。私はこういう者です」


 神崎は藤井に名刺を差し出した。藤井は名刺を受け取ると、拳を口に当てて「ふむ」と深く唸った。


「……なるほど……。ありがとう、神崎チカさん」


 藤井は名刺をポケットにしまいつつ言った。神崎は軽く一礼してそれに応える。


「ところで神崎……今日は何でここに来たの?」


「そうですね。敵状視察、といったところでしょうか?」


 ワケの解らぬことを言うと、神崎は藤井の方をチラリと見た。


「ミステリアスだね、彼女」


 藤井は涼やかな視線で神崎を指した。


「すみません、今のは忘れて下さい。では鵜飼さん、金曜日の夜……あの夢の中で会いましょう」


 神崎は一礼すると、流れるように去っていった。それを見計らったかのようなタイミングで、キーンコーン……と、朝のHRの予鈴が響き渡った。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ