【3話】 はじめまして
「さて……」
鵜飼は下駄箱ではなく、校舎裏に歩いていった。人気の無い校舎裏には、セーラー服を着た少女が居た。ぱっと見、中学生ぐらい。小柄で、あどけなさが抜けていない愛らしい顔立ち。短髪をワックスか何かで所々跳ね上げて、ボーイッシュにセットしている。
「鵜飼……さん……。いつ私に気付きました?」
神崎チカは、とても驚いた様子だった。
「学校に着いたとき、かな?」
「……そうですか」
神崎は驚愕の表情を静かに和らげてから、納得するように頷いた。
「もしかして僕に対するお詫びのつもり? だったら逆効果だよ」
「お詫び……とは?」
「この夢のことだよ」
神崎は難しい顔をした後、アッと声を上げた。
「もしかして鵜飼さん、ここが夢の中だと思ってます?」
鵜飼にはその言葉の意味が解らなかった。
「……どういうこと?」
「失礼しました。そういえば、まだお伝えしていませんでしたね」
すると、神崎は鵜飼に一礼した。
「直接申し上げるのは、これが初めてになります。私は厚生労働省の自殺予防総合対策センターに勤める神崎チカという者です」
神崎は咳払いを挟んだ。
「鵜飼直道さん、あなたは選ばれたのです。自殺者を救う、厚生労働省の戦士に」
「……ごめん……どういうこと?」
「まあそうなるでしょう。実はあなたは、中学を卒業して、高校に上がったりはしていないんですよ。ええと、こう言っても……やはりまだ分かりませんよね?」
「あ、うん……ごめん……」
ふむ、と神崎は唸った。
「では最初からお話しします。鵜飼さんは数年前から『厚生労働省が手を組むべき人物』の一人にリストアップされていました。そして中学三年生になる前日……鵜飼さんは、夢の中で自殺者を救う戦士に抜擢されたのです」
「中学三年生になる前日?」
「ええ。その日に、私は鵜飼さんにある仕掛けをしたんです」
「……仕掛け?」
神崎は頷いて、
「『家族や友人が自殺する』という夢を見るように、私が仕掛けたのです」
神崎は一旦、間を空けた。
「つまり、鵜飼穂苗が自殺して、藤井一輝も自殺し、あなたが見郷紫乃を救いに行った経緯まで、全て夢だったのですよ。ここまでは、ご理解いただけましたか?」
頭の整理がつかず、鵜飼は混乱した。