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夢の中の誘拐事件  作者: 灰色坊や
第4章∶先の未来へ
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【2話】 キミが居なくても頑張るから……


 鵜飼(うかい)は寝間着から制服に着替えた。制服は、中学時代のものだ。穂苗も制服を着ていたということは、この夢は鵜飼が中学三年、穂苗(ほなえ)が中学一年の時とリンクしているのだろう。


(何だか懐かしいな……実家……)


 家の隅々を見渡しながら、鵜飼は一階に降りた。

 リビングのテーブルでは、穂苗がテレビを見ながら、食パンを食べていた。穂苗の向かい側に、鵜飼の分の朝食が置かれている。朝食は、トースターで焼かれた食パンが二枚。食パンの表と裏には、マーガリンが満遍なく塗られている。


「えっと、今日の朝食当番って……」


「私よ?」穂苗は食パンをくわえながら、鵜飼を睨む。「なんか文句ある?」


「べ、別に……」


 あっそ、と穂苗はテレビの方を向く。


「いただきます……」


 鵜飼は食パンを一口食べた。マーガリンが染み渡ったジューシーな食感と味は、夢とは思えないほど繊細に再現されており、美味しかった。


「ていうか、今日は私の中学デビューだから、学校が騒がしくなるかもね?」


 言いつつ穂苗は最後の一口を食べきり、テレビを消した。


「春の妖精が舞い降りた……なーんて学校は大騒ぎよ、きっと」


 穂苗は鵜飼に向かってウィンクした。


「……そうだね……」鵜飼はパンを一口食べて、「自意識過剰もほどほどにね」


「なっ! ぬー!」


 穂苗は眉間にシワを寄せ、両拳を握った。


「ふっふっふ……。今までの私なら、拳打ラッシュをお見舞いしてたトコロだけど」


 穂苗は拳を解き、表情を和らげた。


「もうガキじゃないからね。その程度の煽りには乗らないわよ?」


「今の台詞、覚えといてよ?」鵜飼は最後の一口を食べた。「ごちそうさま」


 その後、穂苗と共に歯磨きをし、穂苗と共に忘れ物は無いかをチェックし、穂苗と共に通学路を歩いた。何でも無い、普通のことだが、鵜飼にとっては正に夢のような時間だった。

 本来なら、今もあるべき時間が……。


「ここが私の母校となる中学か」


 校門の前で、穂苗は両手を腰にかけて校舎を見上げた。しばらく校舎を眺めた後、穂苗は納得するように何度も頷いた。


「じゃっ、直道(なおみち)、行ってくるから」


「あ、ちょっと待って」


 走り出そうとした穂苗を、鵜飼は呼び止めた。


「何よ?」


 ぞろぞろと生徒たちが通る校門の中心で、穂苗は両手を腰に掛けた。


「僕……頑張るから……」


 鵜飼は、ゆっくりと、噛みしめるように言った。


「……は? 急にどうしたの?」


「…………ううん……。何でも無いよ……」


「何それ?」


 穂苗は呆れた様子でため息を吐いた。


「今日の直道、何だか変ね。それじゃ、また」


 穂苗は素早く背を向けて、校舎の方へ走っていった。

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