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夢の中の誘拐事件  作者: 灰色坊や
第3章∶全ての真実
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【18話】 血戦


「……みんなは……僕が助ける……」


 鵜飼(うかい)も高速で神崎(かんざき)との距離を詰めた。そして鵜飼は右ストレートを神崎に放った。と同時、神崎は首を横に傾けて、鵜飼の拳をかわした。その拍子に神崎は左手で鵜飼に喉輪をかけて動きを封じた。


「この程度ですか?」


「ぐっ……!」


 夢の中なのに喉輪されて『苦しい』。神崎の手を振りほどこうにも、力が強すぎて解けない。

 苦しみの中、手を解こうとする鵜飼に対し、神崎は右手を弓を引くように大きく後ろに引いてから、十分に反動が乗った右手で鵜飼の胸部に掌底を放った。

 ドン! と鈍い音がし、鵜飼は豪快に後ろへ吹っ飛ぶ。


(くっ……)


 空中で宙返りして、鵜飼は小石で埋め尽くされた地面に降り立った。掌底を喰らった胸部がズキッと痛み、鵜飼は顔を歪める。

 今までの夢とは違った。今回の夢は……いや、神崎の力か。全てのダメージを現実のそれにしてくる。苦しみと痛みを、夢とは思えないほどリアルに再現させてくる。


「負けない――」


 残る苦しみと胸部の痛みを堪えて、鵜飼は神崎に向かった。神崎は空手の達人のように隙のない構えで、鵜飼を迎え撃つ。

 向かう途中、鵜飼は地面の小石を右手一杯に拾い、それを全て神崎に投げつけた。だが神崎は小石がビシビシと全身に被弾しても、達人の構えを解かない。

 牽制はできなかった。ならばと鵜飼はそのまま神崎から二、三メートルほど前方で立ち止まり、両足でしっかりと軸を作ってから、神崎に右手のひらを向けた。


「【ヒラケゴ――」


 マ、と言い切る寸前のことだった。神崎は右手で鵜飼を指差した。すると鵜飼の右肩から指先にかけてまで満遍なく有刺(ゆうし)鉄線(てっせん)が巻き付いた。


「ぐああああああああああ!」


 右手を引っ込めてしまうほどの激痛だった。涙も出るほど痛みは強かった。有刺鉄線は骨も簡単に貫通している。右腕は鮮血でズタズタだ。

『痛い』なんてものを超えている。指先から順に、右腕全体を電動ミシンで隙間無く縫われているみたいだ。


「男なのに泣き叫んで、みっともないですねえ」


 神崎が嘲笑する。


「うあああああああああああああ!」


 叫びで痛みをごまかして、鵜飼は右手を下げた状態で神崎のふところに入った。そして神崎に左ストレート、右ハイキック、左ハイキックの順に放つ。神崎はそれを木の葉のようにかわす。しかしその後、神崎はほんの一瞬だけグラついた。


 ハッキリ見えた。しまった……という神崎の表情が。その隙に、鵜飼は神崎の顔に左ストレートを放った。しかし透明のバリアが貼られてそれを防ぐ。

 ピシッ……ピシッ……とバリアにヒビが入る。パリン……。完全にバリアが割れたと同時、神崎はひらりと跳んで距離を取った。その表情には焦りがあった。そこから鵜飼は読み取っていた。


 神崎は、もう、棺桶の破壊に徹する、と。


(やらせるか!)


 鵜飼は激痛が走る右手を素早く上げた。有刺鉄線が巻き付いた右手を神崎に向けて【ヒラケゴマ】を放とうとした時、神崎は鵜飼を左手で指差した。すると今度は左腕全体に有刺鉄線が突き刺さった。


「………っっっっっっっっ!」


 声にならないほどの痛みが走った。すると神崎ここぞと言わんばかりに、凄まじい速さで川面を走って棺桶に向かった。このままでは、棺桶が破壊されてしまう。


『学校で、ずっと待ってるから……』


 そう言い残した見郷の姿が、鵜飼の脳裏にチラついた。


「ああああああああああああああああああああああああ!」


 叫びと共に、鵜飼は渾身の力で血だらけの右手を上げた。そして棺桶に向かう神崎のルートを先読みした場所に右手を向ける。棺桶のことを考えると、あの時のような大きな火柱は放てない――。


「【ヒラケゴマ】!」


 ドンピシャリのタイミングで、鵜飼の右手から火柱が放たれた。縦横三メートルほどの大きさの火柱が、神崎に直撃。神崎は、棺桶の側の川面に倒れ込んだ。神崎の右肩から先がごっそりと消滅している。どうやら【ヒラケゴマ】は直撃はせず、かすった程度だったようだ。


「はあ……はあ……はあ……」鵜飼は肩で大きく息をする。


 激痛が走る両腕を下げ、鵜飼は川面を歩いて神崎のもとへ向かった。神崎は、川面で弱々しくも立ち上がろうとしている。


「はっ……。なんてザマ……」


 神崎は言った。神崎は立ち上がろうとするが、余程弱っているのか、ガクッとその場で仰向けになって倒れた。


「今後のために……あなたに一つ……教えてあげます……」


 神崎の口調は弱々しい。


「あなたの【ヒラケゴマ】は、もう全部の誘拐犯に対策されてます……。無論、私にも」


 神崎は、胸を大きく動かした呼吸を挟む。


「だから【ヒラケゴマ】を、あの時……完全にかわすことが出来たはずだった……。でも……私は一瞬だけ硬直して【ヒラケゴマ】を完全にかわしきれなかった……。何で一瞬だけ止まったか……分かります?」


 分からないでしょうね、と神崎は仰向けのまま続けた。


「ビビッたんですよ……。あのまま棺桶に向かえば勝てるはずだったのに……。結局、あなたの『想い』に一瞬だけビビッたんですよ……」


 フッと、神崎は含みのある笑いを溢した。


「……さっさと打ったほうがいいですよ? 時間、もうありませんよ?」


 鵜飼は激痛が走る右手を、神崎にゆっくりと向けた。


「……【ヒラケゴマ】」


 鵜飼の右手から、ゴウッと炎が放出された。

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