【17話】 真の誘拐犯
鵜飼が行き着いた場所は、何処かの川辺であった。小石で埋め尽くされており、裸足で歩けば血行が良くなりそうだ。空はどんよりと曇っていて、涼やかで過ごしやすい温度が保たれている。右側には堤防、左側には静かに川が流れている。
穏やかに流れる川を沿ってしばらく歩いていると、前方に人影が見えてきた。徐々に明らかになったその人影は、誘拐犯……ではなかった。
「ご機嫌よう」
不気味に微笑みつつ、神崎チカは言った。鵜飼の顔に、自然と力が入る。
「……神崎……邪魔しにきたの?」
「半分合ってますね」
神崎は右頬を擦りながら言った。
「いやあ、痛かったですよ。まさか、初めて殴られる相手があなた如きとは」
くっくっくっと笑い、神崎は川の方に視線を向けた。つられて鵜飼も川に視線をやる。
川のど真ん中には黒塗りの棺桶が浮いている。棺桶は空中に縦に置かれるような感じで、フワフワと不安定に浮いている。
「あの棺桶を破壊されればあなたの負けです」
「キミは卑怯だ……。誘拐犯と手を組んでまで……」
やれやれと神崎は肩をすくめる。
「誤解しないで下さい。今回は私が誘拐犯を担うのですよ。それぐらい、夢を司る私には造作も無いこと。……いえ、少し見栄を張りました」
神崎は揺るがぬ不気味な笑みで続ける。
「流石の私も誘拐犯と入れ替わるには代償が要りました。『本来の力を全て出し切れない』というね。でも心配しないで下さい。あなたを圧倒することなど、あなたを這いつくばせて目の前で棺桶を破壊することなど――」
ここで、神崎の方から豪風が吹いてきた。小石すら吹き飛ばしてくるほど強い風。鵜飼は両腕を顔の前でクロスさせて、小石をガードする。ビシビシと、全身に小石が当たる。
(くっ……!)
夢の中なのに『痛み』を感じた。風はすぐに収まった。クロスさせた腕を下げた先では、神崎がクスクス笑っている。
「それこそ造作も無いことでしたね」
唐突なことだった。神崎は消えるような速さで鵜飼との距離を詰めた。そして耳打ちする。
「どうしたんですか? かかってこいよ?」
鵜飼は左腕を振って、神崎を振り払った。神崎は空中でひらりと一回転し、着地。