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夢の中の誘拐事件  作者: 灰色坊や
第3章∶全ての真実
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【16話】 遠い未来


 ムマが言った『こっちのルール』……つまり、いつも通りの方法で救出しなければならないようだ。

 鵜飼(うかい)は早速廊下に出て協力者を待つ。

 間もなく、廊下の先から誰かが走ってきた。

 走ってきたのは、制服姿の男子。アイドルのように整った顔立ちで、オシャレな髪型。

 見慣れた人物だったので、離れた所からでも鵜飼にはすぐに分かった。


 協力者が藤井(ふじい)一輝(かずき)だということを。


 協力者の姿は『誘拐犯の核』がリアルタイムで住み着いている者になると、あの時に聞いたが……。夢のバグによるものなのだろうか。

 藤井の姿をした協力者は、無表情で鵜飼の真正面に立った。


「藤井……」


 動く藤井の姿を見て、鵜飼は深い悲しみに包まれた。


「藤井……ごめん……」


 鵜飼は思わず涙してしまった。温度のある涙が頬を流れる。


「元気が無いな、鵜飼」


 突然、藤井の姿をした協力者が喋った。無表情から、やさしい表情に変わっている。その柔らかな表情を見て、鵜飼は不思議なことに感じとっていた。

 目の前に居る藤井が、本物の藤井の魂を持っていることに。


「……もしかして……」


「ああ、自分でも驚いている」藤井は己の両手を交互に見て、「俺、死んだらしいな」


 ハハッと藤井は物憂げに笑った。


「成仏する前に会えて良かったよ、鵜飼。見たところ、元気無さそうじゃないか」


「べ、別に……」鵜飼は涙をグシグシ拭いて隠した。「大丈夫だよ……」


 藤井は鵜飼を見つめて、


「……その様子からして……鵜飼穂苗(ほなえ)は、蘇らなかったのか?」


「……うん……」


「そうか……」


 藤井は、極めて小さな声で言った。


「藤井……ごめん……。僕……見郷(みごう)吉宗(よしむね)だけじゃなくて……藤井まで犠牲にして……」


 震える声で言い、鵜飼は右手を握りしめた。


「ごめん……。結局、穂苗は蘇らなかった……」


 ボロボロと、鵜飼の目から涙が溢れる。


「僕……何とかしたいけど……何もできない……『ごめん』としか言えないんだ……」


 涙を流す鵜飼の肩に、藤井は手を置いた。


「もういい。泣くな、鵜飼」


 鵜飼は涙を拭いながら、首を何度も横に振った。


「懺悔はまた後にしろ。今はそんなことをしている場合じゃない。もうホントに時間が無いんだ……」


 藤井は鵜飼の肩から手を離し、天井の先の、天空を見つめた。


「鵜飼、残された時間は少ない……。今の俺には分かるんだ、不思議と……」


 藤井は、天空から鵜飼の方に視線を移した。


「……鵜飼、おまえは何故ここに来てるんだ? そうやって泣いてグズグズするために来たわけじゃないだろ? 助けるために来たんだろ?」


 鵜飼は涙を拭いながら頷いた。


「だったら今は堪えろ」


 な? と、藤井は優しく鵜飼の心を押した。鵜飼は涙を拭いきって、しっかりとした表情で藤井と向き合う。


「いい表情だ……。さあ鵜飼、助けに行く者の名前を言うんだ」


「うん……。全員、助けに行く……」


 藤井は微笑みながら頷き、右手を差しだしてきた。今回は意味不明なことを叫ぶことはないらしい。


「鵜飼……もう一度言うが、時間が迫っている。くれぐれも長期戦に持ち込むな。一撃で終わらせろ。今のおまえならできるはずだ」


「……うん……」


 鵜飼が握手しようとしたら、藤井は手を引っ込めてそれを阻止。


「そして俺からのアドバイスを一つ。誘拐犯も人と同じで、得意分野もあれば、苦手分野もあるということだ。おまえがそのことを念頭に置いておけば、この先も、更にその先も負けることはあり得ないだろうな」


「……随分と買いかぶるね。急にどうしたの?」


「見たんだ……」


 え? と、鵜飼は声を漏らした。


「遠い、遠い未来のことを、見たんだ」


「遠い……未来?」


 藤井は頷いて、


「鵜飼が沢山の人を助け、沢山の人を笑顔にする……。そんな未来を、さっきまで見ていたんだ……。何故だか、そこには俺や、鵜飼穂苗も居た……。みんな笑顔で、楽しそうな世界だった……」


 すると、藤井は何かを否定するように一往復だけ首を横に振った。


「時間が無い時に、何を言ってるんだろうな俺は」


「ううん。何だか僕も、そういう未来が待ってる気がするんだ」


「そうか……」


 藤井は極めて小さな声で言った。


「鵜飼、最後に一つ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そう信じて生きてくれ、鵜飼。おまえだけは生きろ」


「……うん……大丈夫……」


 鵜飼と藤井は微笑みを交わした。


「では鵜飼、『その世界』でまた会おう」


「……うん!」


 鵜飼と藤井は、強く握手を交わした。

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