【14話】 限界
「まあまあ、皆さんのお気持ちは分かりました」
神崎は手をパンパンと叩き、皆を黙らせた。
「今回は見逃してあげましょう。鵜飼さんがどうにかしてくれそうですし」
ありがとうございます! と、二階堂を含むスーツ姿の軍団は、神崎に向かって深く頭を下げた。神崎は、満更でもない笑みを浮かべている。
「……ふふっ。ああ鵜飼さん、お見苦しいところをすみません」
神崎は、鵜飼の方に歩み寄った。
「では鵜飼さん、救出に向かって下さい。もし救出に失敗したとしても、薄黒い光と誘拐犯は消えるので問題ありません」
「……一応訊くけど……。救出できなかった場合、学校に居る人たちはどうなるの?」
あぁ……と、神崎は冷ややかな声を出した。
「全校生徒、及び、全教員は自殺するでしょう。でも私に命じられた任務は『この薄黒い光と誘拐犯をどうにかすること』なので、薄黒い光と誘拐犯さえ消えてしまえば、あとはどうでもいいです」
神崎は冷たい口調で続ける。
「全員が自殺しても、『凶悪犯に殺された』とか、情報操作なり何なりすれば隠蔽できますし。知らない人が大勢死んだところで心はまっっっっっっっっっっっっっっったく痛みませんしね。だから気楽に行って下さい、鵜飼さん」
神崎の身勝手な発言に、スーツ姿の軍団は悔しそうに顔を歪めた。二階堂も感情を押し殺すように、拳を握り締めている。
「……ねえ神崎……最後に確認しておきたいことがあるんだけど、いい?」
「ええ、どうぞどうぞ。何なりと」
神崎はヘラヘラ笑って機嫌良さそうだ。
「この契約……神崎でもホントに解除できないの?」
鵜飼が右手を差し出すと、神崎は微笑みながら頷いた。
「あなたが死なない限りは解除できませんよ」
「そっか、それは良かった……。さっきから限界だったんだ……」
神崎は「ん?」と言った感じで首を少し傾げた。
その瞬間、鵜飼は右手の甲を使って、神崎の右頬をなぎ払うように思いっきり叩いた。
ビシッ! と鋭い音が鳴り響いた。
神崎はよろけて、そのままペタッと尻餅を着いた。
神崎は右頬を押さえながら、唖然とした表情で鵜飼を見上げる。
周りのスーツ姿の軍団も、二階堂も唖然としている。
「な……何をするんですか!」
神崎は右頬を押さえたまま叫んだ。神崎の右目からは涙が一滴流れている。
「何で自分が叩かれたのかは、よく考えれば分かると思うよ。君が人間ならね」
鵜飼は神崎に背を向け、唖然とするスーツ姿の軍団をかき分けて学校へ向かった。