表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢の中の誘拐事件  作者: 灰色坊や
第3章∶全ての真実
62/73

【13話】 手のひら返し


鵜飼(うかい)さん……あなた一体何を企んでいるのですか?」


「僕は……」鵜飼はゆっくりと口を開き、ゆっくりと神崎の方を向いた。「僕はまだ、穂苗(ほなえ)が蘇ると信じてるんだよ」


「そんな見え透いた嘘を言ってどうするつもりです?」


「嘘じゃないよ。僕は心の何処かで、穂苗が蘇ると信じてるんだ」


 神崎(かんざき)はしばらくの間、険しい表情で鵜飼を睨み付けた。後に、神崎は何かを諦めるようにため息を吐いた。


「まあいいでしょう。では鵜飼さん、もう一度契約、やってみましょうか?」


「……いいの?」


「ええ。対処できなかった場合のことは、今は言いませんがね」


 大体予想はついている。

 その場合待っているのは、おそらく『死』。


「では鵜飼さん、右手を出して下さい」


 右手を差し出すと、神崎は深く念じつつ、鵜飼の右手にフッと息を吐いた。すると鵜飼の右手人差し指と、右手中指に、ゴツゴツとした黒いテープが隙間無く巻かれた状態で出現した。

 それとほぼ同時、スーツ姿の軍団の指に巻かれた黒いテープが、鵜飼の目に見えるようになった。


「さあ、これであなたは救出者です。早速この薄黒い光をどうにかしてくれますか?」


「うん……」


 鵜飼は薄黒い光の前まで行き、神崎も後を追ってきた。


(……中に入れてよ……お願い……)


 強く念じ、鵜飼は薄黒い光にソッと右手を触れた。

 すると、触れた右手はヌプッと沼に埋まるように薄黒い光の中に埋まり、そのまま内側へと通過した。その光景を見て驚いたようで、神崎は表情を開いていた。右手を更に突き出すと、ズズズと肩まで通過した。このまま行けば、中に入ることができる。

 光の中に入ることができる。それが確定した。

 ほのかな安堵と共に、鵜飼はひとまず右手を抜いた。


「素晴らしい!」


 鵜飼が右手を抜いた瞬間、神崎は叫ぶように言った。


「素晴らしい! もしやあなたならば……と思っていたのですよ、私は!」


 神崎はこれ以上に無いほど声を弾ませている。

 神崎は鵜飼の真正面に立ちに来ると、深く一礼した。


「先ほどまでのご無礼、お許し下さい」神崎はまたも深く一礼した。「さて鵜飼さん、これで終わりではありませんよ? この後、独りで中の誘拐犯と闘わなければいけません。心の準備は大丈夫でしょうか?」


「……うん。ここまで来れば、もう決まったようなものだよ」


 神崎は両手を合わせ、満面の笑みを咲かせた。


「ええ、ええ、その意気です!」


 満面の笑みで言うと、神崎は周りを見渡しながら手を叩いて注意を惹きつけた。スーツ姿の軍団が、一斉にこちらを向く。


「皆さん、もう作業を中止して集合して下さい!」


 スーツ姿の軍団は手を止め、こちらに集合し始めた。

 弱々しく歩いてくる者や、気絶した者を抱えて歩いてくる者や、頭から血を流して、仲間の肩を借りながら歩いてくる者等。ほとんどの者がボロボロの状態で神崎の周りに集合した。二階堂(にかいどう)も、集合している。


「そこまでして何もできないとは……。まったく、使えない人たちですね」


 神崎はスーツ姿の軍団をギロリと睨んだ。畏怖するように、軍団は目を伏せる。


「もう結構です。無能なあなたたちの家族は蘇らせませんから。丁度、近い内に有能な人材が沢山()()()()ので、その人たちと全取っ替えします」


 すると、スーツ姿の軍団は一斉に神崎の方へ身体を寄せた。


「困ります! 神崎さん、どうかそれだけは!」


 と、スーツ姿の女性が、神に拝むように両手を組んだ。


「お願いします! この先の夢ではヘマしないので!」


 と、スーツ姿の男性は深く頭を下げた。その後も、二階堂を含むスーツ姿の人たちは、神に拝むように、神崎へ言い寄った。


(くっ……!)


 鵜飼は悔しさで、拳を握りしめた。

 今すぐ言いたい。蘇るなんて、嘘だと。

 しかし、そんなことを言っても、彼らは信じない。

 信じたとしても、その希望を砕くことになる。

 そう、どのみち鵜飼は言えないのだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ