【11話】 激情を抑えろ
鵜飼が学校に着いた時には上空のヘリコプターは去っていた。プロペラの音がうるさいと注意されたのだろうか。
現場となった学校までの道には、まずはマスコミの層があり、その奥にパトカーといった警察の層があった。マスコミは難なく切り抜けられたのだが、
「おいキミ、現場は関係者以外は立ち入り禁止だ」
早速、警察官が立ちふさがってきた。立ちふさがる警察官の奥にはパトカーがあり、そのまた奥にはドーム状の黒い光に包まれた学校がある。ここからは校門が見え、その前でスーツ姿の軍団が立ち往生している。
「おい、聞いているのか? 早く帰りたまえ」
警察官は怪訝な表情で言った。隙を見て走れば警察官の横を抜けられそうだが、すぐそこのパトカー付近に居るスーツ姿の刑事たちに即効で捕まるだろう。
だがそうだと分かっていても、鵜飼は行かねばならない。
見郷を助けるために。
鵜飼は猛ダッシュして、警察官の横をすり抜けた。ここまではまあ順調だったが、やはりパトカー付近にいたゴツイ刑事に捕まった。
「何だおまえは! ここは現場だぞ!」
ゴツイ刑事は鵜飼を羽交い締めした。
「離してよ! 僕は学校に行くんだ!」
鵜飼は叫び、羽交い締めされながらもがいた。その騒ぎを聞きつけたのだろう、二人の刑事が鵜飼の前方へ駆けつけてきた。
「離してよ! 僕は、夢のバグを対処に来たんだ!」
鵜飼が叫ぶと、羽交い締めする力が弱まった。それでも相手の力は強く、もがいても振りほどくことはできなかった。
「おい今……『夢のバグ』とか……」
「あ、ああ……。そういえば特殊部隊たちが『夢のバグ』とか言っていたような……。彼のような子どもも居たようだし……関係者なのか?」
と、先ほど駆けつけてきた刑事二人が、こそこそと話した。
「離せ! 離してよ!」
鵜飼の吠えに、若い刑事二人は後退りをする。羽交い締めも、また更に少し緩んだ。
その時、
「やれやれ、外が騒がしくて何事かと思って来てみたら、あなたですか」
学校の方から神崎チカが歩いてきた。今日もセーラー服にボーイッシュな髪型は健在。神崎に続いて、厳つい顔をしたスーツ姿の男が二人、こちらに歩いてくる。
神崎と男二人を避けるように刑事は後退りをし、ゴツイ刑事は羽交い締めを解いた。解放された鵜飼が息を整えていると、神崎は手を上げて厳つい男二人にこの場から退くように指示した。厳つい男二人は「はっ!」と忠実な返事をし、学校の方へ退いた。
「そこの刑事さんたちも、自分の持ち場へ戻って下さい。あとは私が何とかしますから」
神崎は淡々とした口調で命令した。刑事たちはサッとこの場から退く。
「……さて鵜飼さん、何故あなたがここに居るのですか?」
「決まってるでしょ?」鵜飼は息を整えながら、「どうにかしに来たんだよ」
「あなたが? この状況を?」
フッと、神崎は見下すように笑った。正体を知った今、気にくわない奴だが、ここではまだ神崎に逆らうようなことはできない。理由は後々、分かるだろう。
「……まあそう言わないでよ。僕だって何か役に立つかもしれないよ?」
鵜飼は精一杯の笑顔を作ることで、神崎に敵意が無いことを示した。神崎は腕を組み、難しい顔をした。
「……そうですね。今はノミの知恵も借りたい時なので……。とりあえずダメ元で現場に行ってみます? 無理だと分かったらちゃっちゃと帰って下さい。目障りなので」
今にも飛び掛かりたいが、ここは我慢だ。
鵜飼は怒りを堪えて、神崎と共に学校へ向かった。