【10話】 行かなきゃ
結局、鵜飼は学校に行くこともなく、昼過ぎまで寝ていた。
ボーッとする頭を抱えながら、鵜飼は何気なくテレビを点けた。映し出された画面に傷はあるが、何ら支障なく観ることができた。
テレビでは丁度、緊急ニュースが流れていた。女性キャスターが緊迫した表情でニュースを告げている。
『えー、朝から今も尚、謎の黒いフィールドと、謎の集団が現場の高校を取り囲んでいる状態です! それでは空からの模様をお送りします! ご覧下さい!』
パッと上空のヘリコプターからの映像に切り替わった。見覚えのある学校の校舎が、上空から映し出されている。鵜飼が通う高校だった。
「……何だ?」
鵜飼の高校は、ドーム状の薄黒い光に覆われている。光の内側には、大勢の人が徘徊している。小さくてよく見えない……そう思った矢先、映像が光の内側で徘徊する人にズームインされた。ズームインされて明らかになった人々の正体を見て、鵜飼はギョッとした。
「何で……」
光の内部で徘徊する人々は、全員が中肉中背の男で、上下にジャージを着ている。薄黒い光によって、ジャージの色は正確に判別できない。
ジャージ姿の男たちは、奇妙な覆面を被っている。その覆面には、目や鼻や口の部分に穴が無く、まるでフェンシングの選手がするマスクのような形をしている。
覆面には無数の横線が引いてあり、それらは数センチほどの隙間が空いている。その隙間ごとに色が塗られているようだが、薄黒い光によって、全ての色が正確には判別できない。
「誘拐犯……」
鵜飼は生唾を飲んだ。誘拐犯の姿が映し出された次に、ドーム状の薄黒い光の前で立ち往生するスーツ姿の軍団にカメラは向けられた。その中に、一瞬だけ神崎チカの姿を確認できた。そしてカメラはズームアウトし、再び上空から写し出された学校の映像へと切り替わる。
最前線にスーツ姿の軍団、そこから少し離れた外側でパトカーが待機、そこから更に外側にマスコミが大勢居る状態だ。
『ご覧下さい! 現場の高校は謎のフィールドに囲まれており、その中で謎の集団がぞろぞろと! 校舎に残された全校生徒たちの安否は不明! 特殊部隊が対策を練りだしている模様です! 彼らは一体何者で――』
ヘリコプターに乗った男性キャスターが、必死でレポートを続けている。
「何なんだ……何であいつらが……」
画面越しに誘拐犯を見て、鵜飼は思い出していた。
始まりから、終わりまでの、全てのことを。
「何なんだ……」
見れば見るほど嫌な記憶だけが蘇る。だからこれ以上、彼らを見たくない、関わりたくない。しかしそれ以上に、もう何も失いたくない。
『学校で、ずっと待ってるから……』
見郷を……自分の大切な繋がりを……もう失いたくない。
「見郷……学校に居るんだよね……」
自分がどうこうできるわけではないが、鵜飼は寝間着姿のまま、学校に向かった。