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夢の中の誘拐事件  作者: 灰色坊や
第3章∶全ての真実
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【8話】 神崎の本性


 晴れ渡る空の下、鵜飼うかいは葬式会場に来ていた。葬式には大勢の人が来ており、その数は彼が愛されていた度数を示している。


 受付に並ぶ人には、鵜飼のように制服を喪服としている者が多い。その中に鵜飼の知った顔も見られた。

 受付を済ませた人々は、誰とも話すことなく、誰とも会釈することもなく、流れるように会場内へ着席しに行っていた。


 慎んでの静寂……とは説明できないほど、会場は静か。


 それほど藤井ふじい一輝かずきの死は突然で、信じられなく、何よりも重いものだったのだろう。


 鵜飼穂苗(ほなえ)の葬式と同様の雰囲気だった。


 鵜飼は空虚に、流れるように会場内へ着席しに行った。会場内の最奥には豪華な花に挟まれた木製の棺があり、その奥に満面の笑みを咲かせた藤井一輝の遺影が立てられている。


 アイドルのように整った顔立ちは、遺影になっても変わらない。鵜飼は何故か吸い寄せられるように、彼の視線と向き合うような席に座っていた。席が大方埋まった所で焼香が始まり、場の音は僧侶の読経に支配された。

 鵜飼は焼香を済ませると、席に戻ることなく、そのまま会場を後にしていた。


 人通りの無い田んぼ道を、鵜飼は力なく、ゆっくりと歩いていった。


 当てもなく進んだ田んぼ道のど真ん中で、神崎チカが立っていた。セーラー服を着ていて、短髪を所々跳ね上げたボーイッシュな髪型。

 鵜飼が真正面で立ち止まると、神崎は優しく微笑んだ。


「……穂苗は蘇るんだよね?」


 鵜飼は震える声でそう言った。

 すると、神崎はクスッと笑った。


「そんなことを言った覚えはありませんが?」


 聞いた瞬間、鵜飼の全身を流れる血の温度が氷点下に達した。


「ちょ、ちょっと待ってよ……。冗談でしょ?」


 鵜飼は精一杯の笑顔を作って神崎に迫った。神崎は、やれやれといった感じで首を横に振る。


「あなたは本当に憐れですね。人がそう簡単に蘇るわけないじゃないですか」


 神崎は鵜飼を避けるようにして、後ろへ二、三歩後退した。


「……じゃ、じゃあ、もっと自殺者を助ければ蘇るってことだよね? そうだよね?」


「あなたまだそんなことを言ってるんですか? というか、夢の中で全て聞いてたじゃないですか。あのお喋りな『誘拐犯の核』に。全て見ていましたよ?」


 言うと、神崎はクスクスッと笑った。


「あ……あいつの言うことなんか……嘘でしょ? 嘘って言ってよ、ねえ?」


 神崎は、クックックッと腹を抱えた。


「残念ですが鵜飼さん……」神崎は笑い涙を拭いて、「そっちが事実です♪」


 鵜飼の視界はグニャリと歪んだ。

 周りの田んぼや、クスクス笑う神崎の姿が形を失っていく。


「嘘でしょ……。穂苗は……蘇るんでしょ?」


「鵜飼穂苗には『誘拐犯の核』が住み着いていたので、私が自殺させました。因みにもう蘇りませんよ」


「嘘……嘘だって言ってよ……」


「あのお喋りな『誘拐犯の核』が言ったことが全てですよ、鵜飼さん」


「そんな……」


 鵜飼は両膝を着けた。


「嘘だ……」


「だから嘘ではありませんって。あいつが言ったことが全てですから。ちゃんと話を聞いていましたか?」


 神崎は淡々と言った。


「じゃあ……僕は……何のために……見郷みごう吉宗よしむねや藤井を見捨てたって言うの?」


「そのことについては本当に感謝しています。何せ『誘拐犯の核』を二つも消せた上に、あなたを絶望へ導けたのですから。まあまあ楽しめましたよ、あなたの『物語』は」


 神崎はまたも淡々と言うと、その場で脱力する鵜飼に合わせてしゃがんだ。


「全てを知られた以上、あなたにはもう、利用価値はありませんね。力を解除させてもらいますよ」


 神崎は鵜飼の右手人差し指をめがけてフッと息を吹いた。すると、鵜飼の右手人差し指から黒いテープが消滅した。


「これであなたはもうあの夢を見ることはありません。そして私たちともお別れですね」


 立ち上がると、神崎はフッと冷たく笑った。


「あなたは本当に良い木偶でした」


 さようなら、と冷え切った口調で言い、神崎は去っていった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 親友と妹失って救いようがない 蘇らないとして 神崎を殺さないと気がすまないなぁ
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