【6話】明かされる穂苗の真実
「鵜飼の場合、藤井一輝は大切な人である上に『誘拐犯の核』まで住み着いているから、鵜飼がこの救出を見送ったら神崎チカはさぞ喜ぶだろう。何せ絶望を植え付けられるだけでなく、目的である『誘拐犯の核』まで消せるんだからね」
そして、とフジイは繋げる。
「既に『何らかの関係』は持たせていたが、鵜飼が見郷紫乃と偶然『友達』になったのを知った時、神崎チカは小躍りしただろう。何せ友達の親を見捨てた……という絶望をオマケで植え付けることができたからね。あの時、神崎が異常に喜んでいたのは、そのオマケ分が加わっていたためさ」
ここで、異常なまでの喜びを露わにしたあの時の神崎の姿が、鵜飼の脳を過ぎった。
確かに神崎の喜び方は異常ではあったが、鵜飼には『誘拐犯の核』を消せたことが嬉しかったから喜んでいた、としか思えない。
いや、そう思いたい……。
「最初は淡々と『誘拐犯の核』を消す作業が行われていたんだ。『誘拐犯の核』が住み着いた人物の唾液を厚生労働省の権力を使って採取して、救出者と密かに関係を持たせてから神崎チカが自殺思念を植え付ける。
後は救出者に他の者を救出させたり、失敗させて『誘拐犯の核』を消すという、自殺者とその遺族以外は、誰も傷付かないような作業が行われていたよ」
その密かな『誘拐犯の核』を消す方法は、鵜飼にも行われていたという。
鵜飼が最初に見た夢と、神崎に夢の説明を受けた二度目の夢も自殺者に関わる本物の夢であり、その二つの夢の中で『誘拐犯の核』が住み着いた人物が一人ずつ誘拐されていた。
その夢を見る前に、鵜飼は『誘拐犯の核』が住み着いた人物と密かに関係を持たせられていて、二回とも救出が失敗したことによって、知らずに『誘拐犯の核』を二つ消していたのだとフジイは言う。
「神崎チカは『こんな作業のようなゲームはつまらない』とごねたのさ。そして神崎チカは自分の暇をつぶすために、人に絶望を植えつつ『誘拐犯の核』を消すような方法に出るようになった」
そう、とフジイは頷いた。
「鵜飼、おまえのように、大切な人が自殺した人に『自殺者を沢山救ったり、誘拐犯の核を消せば、自殺した家族は蘇る』と嘘を伝えて協力させるだけさせて、最後に『自殺した家族は蘇らない』と伝えて絶望へ導くような方法に出るようになった。
自殺者に関連する能力者は彼女しかいないから、厚生労働省はやむなく、彼女のワガママに付き合うことになり、現在に至った」
「違う……」鵜飼は呟いた。
「次第に神崎チカの目的は、『如何に人を絶望導いて誘拐犯の核を消すか』……に変わっていった。人を絶望に導いた時の快感を忘れられないのだろう。彼女は悪魔だからね」
フジイはため息を挟んだ。
「二階堂優奈も言っていただろう? 『救出者になった後にできた友達が夢の中で誘拐されても、弟の蘇りを優先して、他の人の救出を何度もしました』と。
その、二階堂優奈が見捨てた人物は『誘拐犯の核』が住み着いていただけでなく、二階堂優奈に紹介して友達にまで親交を深めさせることができた人物であった。
それを利用して、二階堂優奈に『友達を見捨てさせることで絶望を植え付ける』ことに成功したのさ。二階堂優奈も体液を使った手法で関係を持たせられた者は居るだろうが、彼女は知らないだろう。本当に『誘拐犯の核』が住み着いた人物についても、ね」
ここで、フジイはとても真剣な眼差しで鵜飼を睨んだ。
「……鵜飼、俺を信じるんだ! 彼女にとって『誘拐犯の核』を絶滅させることは最早、日本の自殺者を無くすためではなく、ゲームなんだよ! 人を絶望に導くことができるゲームなんだ!」
「……違う!」
負けじと叫んだ鵜飼に対し、フジイは何かを納得するように頷いた。
「そうだな……。もう、おまえは完全に彼女の木偶だ……。忠誠する他無い……」
フジイは残念そうに言った。
「こう言っても信じないだろう。鵜飼穂苗に『誘拐犯の核』が住み着いていて、神崎チカによって自殺させられたことも」
ハッと、鵜飼はフジイの顔を見直した。
「……ちょっと待ってよ……。今……なんて言ったの?」
問いだそうとした鵜飼だったが、フジイは無視して、黒塗りの棺桶のもとへ向かう。
「これだけは言っておく。今からおまえがどちらを選ぶにせよ、神崎チカは、おまえと『二階堂優奈と関係を持たせたこと』を、最後の切り札として使うだろう」
すると、フジイは棺桶に合わせてしゃがんだ。
「鵜飼……もう時間が無い……。今からおまえに選択させる」
フジイは右手で手刀を作った。
「さあ鵜飼、選べ。俺を信じて、俺と闘うか……。神崎チカを信じて、鵜飼穂苗の蘇りのために、俺と闘わずにそのまま突っ立っているのかを」
「ちょ、ちょっと待ってよ……そんなこと急に言われても……」
「鵜飼! さっさとしろ! どっちなんだおまえは!」
フジイは空気を裂かん勢いで叫んだ。その叫びは、ビリッと微弱な衝撃波を感じられるほどであった。