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夢の中の誘拐事件  作者: 灰色坊や
第3章∶全ての真実
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【5話】本当の『誘拐犯』は彼女だ


「君は……」


 鵜飼うかいは静かに口を開いた。


神崎かんざきの目的が『誘拐犯の核』を絶滅させることって言ったけど、誰に『誘拐犯の核』が住み着いているのか、そう的確に分かるものなの?」


 確かに、とフジイは言った。


「俺たち『誘拐犯の核』は、本体も分身も、本来ならば住み着いた人間の姿を持ってしまうが、虹色の覆面を被って顔を隠し、ジャージを着て服装の特徴も隠し、体型も中肉中背の男に統一してごまかしているため、そうバレないようになっている」


 しかし、とフジイは繋げる。


「あの天才……神崎チカは、恐ろしいことに気付いたんだ」


「恐ろしい……こと?」


 フジイは頷いて、


「救出に向かう途中、廊下を走ってくる人物が居るだろう?」


「……うん……。協力者のことだよね……」


 協力者は藤井ふじいの姿であったり、見郷みごう吉宗よしむねの姿であったりと、様々であった。


「その人物こそ、リアルタイムで『誘拐犯の核』が住み着いている人物だということに、神崎チカは気付いたんだ」


 フジイは緊迫した表情で言った。


「その法則を見出してから、神崎チカのワンサイドゲームが始まった。俺たち『誘拐犯の核』が住み着いた人物と救出者に関係を持たせれば、俺たちはなすすべも無い……」


 何故なら、と、フジイはとても緊迫した表情で繋げる。


「神崎チカは、契約して救出者にした者が関係を持つ人ならば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()悪魔だからね……。更に『夢の管轄』によって、契約した者の夢の中で任意の自殺者を救出できるように仕向けることもできる。あとはもう、関係を持った救出者に、他の者の救出に向かわせればいいだけのこと……」


 フジイは二、三歩、教室を歩いた。


「神崎チカは『誘拐犯の核』が住み着いている人物Aとは別の、人物Bに『誘拐犯の核』が住み着いていると嘘を伝え、また更に『Bを救えば核を消せる』と救出者に伝えることで、上手く『見捨てさせている』のさ。

 自殺した家族がいる救出者にとっては、『自殺者を見捨てることで蘇りが近づく』と言われるよりも、『助けることで蘇りが近づく』と言われた方が信じるし、モチベーションが上がるだろうからね。ホント、天才的だよ……」


 フジイは、やれやれといった感じで首を横に振った。


「住み着いた人間がたまたま自殺思念を抱いている場合もあるが、俺たち『誘拐犯の核』は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。しかし神崎チカは『誘拐犯の核』が住み着いた人物に自殺思念を植え付けるという悪魔的なパターンを成せるんだ。無論、このことは誰も知らない」


 フジイは神崎が書いたであろう黒板の文に目を通した。


「鵜飼が藤井一輝(かずき)の姿をした協力者に会う以前に、神崎チカは藤井一輝の姿をした協力者に会って、藤井一輝に『誘拐犯の核』が住み着いていることに気付いていたんだ。勿論、見郷吉宗もね。

 だから、最初から藤井一輝と関係を持っていて、妹が自殺した鵜飼を救出者にしたのさ。藤井一輝と関係を持たせる手間を省けるし、『自殺者を沢山助けたら、妹は蘇る』と言ったら、おまえは喜んで協力せざるを得ないからね。

 そして鵜飼と見郷吉宗の間に関係を持たせ、タイミングを見計らって見郷吉宗と藤井一輝の二人に自殺思念を植え付けて、鵜飼に他の人を救わせたり、今回のように見送るようにしたのさ。

 鵜飼に、見郷吉宗に住み着いた『誘拐犯の核』を消すように仕向けたのは、彼女と契約した他の救出者が忙しかったからなのかもしれないね。他の『誘拐犯の核』を消すために」


 話に割り込む余地も、余裕も無く、鵜飼はずっと黙って聞き入れていた。


「俺たちからすれば、悪魔的な天才さ、彼女は。人を欺く演技も天才的だ」


 すると、フジイは何とも言えぬ表情で鵜飼の顔を見た。


「神崎チカは恐ろしい人物だよ。彼女と契約した、厚生労働省に居る救出者が、どのような境遇を持っているか知っているか?」


 鵜飼は小さく首を横に振った。


「全員、家族が自殺しているのさ。そして『協力すれば自殺した家族を蘇らせてやる』と、できもしないことを言って、木偶のように利用して楽しんでるのさ。『誘拐犯の核』を消すためだけなら、そんな回りくどいことをする必要は無いんだけどね……。

 神崎チカは、人を絶望に導いたり、人に自殺思念を植え付けたり、人を木偶のように操ったりすることに快感を覚えるような悪魔なんだよ。その点、俺たちよりタチの悪い『誘拐犯』だ」


 違う……と、鵜飼は心の中で呟いた。


「『誘拐犯の核』を消すために利用するだけ利用した後、その人の最も大切な人に自殺思念を植え付けて見捨てるように仕向け、最後に『家族は蘇らない』と言って捨てることで、絶望へ導く……。そんなパターンを、神崎チカは楽しんでいるのさ。彼女は悪魔だからそういうものが大好物なんだ」


「違う……」


 と、鵜飼は確かに呟いたが、声が小さすぎたのか、フジイには聞こえていないようだ。



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