【3話】 誘拐犯の核についての真実
「そうだな……神崎チカにすり込まれた偽りの知識を持っていたら、流石に信じないか。ならば俺は、こうさせてもらう」
するとフジイはパチッと指を鳴らした。と同時、頭の中からスッと何かが抜けていくような感覚を、鵜飼は覚えていた。
「おまえの記憶から『誘拐犯の核』に関連する知識を消させてもらった」
「……『誘拐犯の核』?」
今の鵜飼にとっては、初めて聞くキーワードであった。
「悪いな。真実を知ってもらうために、『誘拐犯の核』についての記憶を抹消させてもらったのさ。この夢が覚めるまでの間、ね。今のおまえは神崎チカにすり込まれた知識の方を信じるだろうし、白紙の状態からの方が、頭に入りやすいだろうからな……。本当は、おまえに全ての真実を受け入れてもらうために、もっと抹消したかったんだが、俺にはこれが限界だ」
「えっと、さっきから何を言っているの?」
「いや、何でも無い」
はぐらかすと、フジイはフッと微笑んだ。
「さて鵜飼。もう一度訊こう。神崎チカの『真の目的』は知っているかな?」
「そ……そんなの……知らないけど……」
「ならば教えてやろう。神崎チカは、俺のような『誘拐犯の核』を消すことだけを考えているのさ」
「『誘拐犯の核』?」
フジイは頷いて、
「『誘拐犯の核』とは、誘拐犯の源のことだ」
「誘拐犯の……源? 君が?」
「ああ。おまえたちが遭遇している誘拐犯は、俺や他の核となる誘拐犯の分身の1つでしかないんだ」
え? と、鵜飼は声を漏らした。
「……その言い方だと、君の他にもたくさん核が居るってこと?」
フジイは深く頷くことで、強く肯定した。
「俺たち『誘拐犯の核』は、人間でいうところの心臓。つまり、破壊されたら分身の誘拐犯は消滅するんだ」
「……人間の……心臓……」鵜飼は呟いた。
「俺たちは自殺思念(自殺する気持ち)を持った人間が現れる度に、自動的に分身して、その人間の夢に潜り込んで誘拐し、結果として自殺させているというわけだ。自分でも何故、その分身が行われているのか、何故、自分のような存在が居るのかさえも分からないがね」
フジイはやれやれといった感じで首を横に振った。
「話を戻そう……。神崎チカの目的の1つは、俺たちのような『誘拐犯の核』となる存在を絶滅させて、日本の自殺者をゼロにすることなんだ」
「日本の自殺者を……ゼロに? そんなことができるの?」
フジイは真剣な顔つきで頷いた。その後、場はしばらくの間、沈黙に包まれた。
「さて鵜飼」
フジイは不意に沈黙を破った。
「俺たちのような『誘拐犯の核』を消す方法が解るかな?」
「それは……」鵜飼はちょっと考えて、「君のような核を探して……夢の中で倒す?」
「ハズレだ」
フジイは即答した。
「正解は『核となった誘拐犯が住み着いた人物を自殺させる』だ。唯一の弱点であり、これ以外の方法では消えないという強みでもある」
「住み着いた人物って……君たち『誘拐犯の核』は、誰かの中に居るってこと?」
「その通り。俺のような『誘拐犯の核』は、住み着いた人間が自殺すると消滅してしまう。夢の中で倒されても、他の人へランダムに移り変わるだけさ。君たちが『夢のバグ』と名付けた夢の中で倒された場合は、住み着いた人間から移り変わらないがね」
するとフジイは人差し指を立てた。
「ここで1つ、鵜飼に質問。最近、神崎チカが『必死になって自殺させようとした人物』に心当たりは無いかな?」
「そんなの無いよ……。神崎はそんなことしないから……」
フジイは人差し指を引っ込めて、その手を広げた。
「言い方が間違っていたな。では『自殺しなかったことを大喜びした人物』には心当たりがあるだろう?」
「自殺しなかったことを……大喜び……」
ハッと、鵜飼は思い出した。
「……神田……ヨネ……」
鵜飼は恐る恐る口を開いた。
「正解だ。鵜飼、その顔を見る限り、薄々気付きだしているんじゃないか?」
そう、鵜飼は薄々、気付き始めている。
「神田ヨネが自殺しなかったことを大喜びした。裏を返せば、神田ヨネの他に、夢の中で誘拐された二名の人物が自殺して大喜びした、ともとれないかな?」
「まさか……」
フジイは、強く頷いた。
「神田ヨネの他に誘拐された他2名の中に『誘拐犯の核』が住み着いた人物が居たというわけさ」
「そんなの……」
「信じられないのは分かるが、事実なんだ」
区切りを付けるように言うと、フジイは一旦間を空けた。