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夢の中の誘拐事件  作者: 灰色坊や
第3章∶全ての真実
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【2話】 真実を告げる誘拐犯


「そんなの……ないよ……」


 読み間違えであってほしいと、鵜飼は神崎が書いたであろう文を何度も読み返す。

 だが何度読み返しても同じ。


『鵜飼さん、おめでとうございます。この救出に()()()()()、鵜飼穂苗は蘇ります。誤字ではありません。()()()()()、鵜飼穂苗は蘇るのです。逆に救出すれば、もう二度と鵜飼穂苗が蘇るチャンスは来ません』


 黒板には、白いチョークでそう書かれている。


「もう……二度と……チャンスは来ない……」


 読み返す度に、鵜飼(うかい)の頭に、深く刻まれた事項があった。


『――逆に救出すれば、もう二度と鵜飼穂苗(ほなえ)が蘇るチャンスは来ません』


 もう二度と……。

 気付けば、鵜飼は誘拐犯の真正面に立っていた。


「もう二度と……」


 鵜飼はゆっくりと、右手を誘拐犯に向けた。先ほどの赤い文によると【ヒラケゴマ】を戦闘開始前にゼロ距離射撃すれば、鵜飼は強制的に負けとなる。

 つまり、救出の失敗を意味する。


「撃てば……負け……撃てば……穂苗は……」


 蘇る。


「蘇るんだ……」


 歓喜の果実にかぶりつくよう、鵜飼は笑みを溢していた。


「『右手をかざす動作を攻撃と見なす』……この注意書きを読まなかったのか?」


 その聞き慣れた男子の声は、誘拐犯から聞こえた。鵜飼は思わず右手を引っ込め、後退りをする。


「さて……どこからどう説明しようか?」


 と誘拐犯は喋ると、パチッと指を鳴らした。次の瞬間、誘拐犯の全身が、ザ……ザ……ザ……と砂嵐のようにブレ始めた。原型が分からないほどまでブレた後、徐々にブレは治まった。


 ブレが晴れた先には、鵜飼の知る藤井(ふじい)一輝(かずき)の顔を持った誘拐犯が姿を現した。誘拐犯の顔と藤井の顔がすげ替わっただけで、上下には青のジャージを着ており、体格も中肉中背のまま。


「やあ。おまえと()()()()()()()()()()()()かな? 鵜飼」


 藤井の顔を持った誘拐犯は、鵜飼の知る藤井と同じ声だ。


「き、君は……何なの? 藤井?」


「そうだな……。藤井であって、藤井ではない……と言っておこう。俺は藤井一輝に住み着いた『誘拐犯の核』だ」


「『誘拐犯の核』? 君が?」


「ああ。そのままだと呼びにくいだろうから、カタカナでフジイとでも名乗っておこう」


 フジイと名乗った『誘拐犯の核』はクールに微笑んだ。微笑み方も、鵜飼の知る藤井と重なる。


「鵜飼……。早速、希望を閉ざすようで申し訳ないが……」


 フジイは一旦間を空けた。間の空け方も藤井と重なる。


「鵜飼穂苗は蘇らないよ」


 フジイは真剣な顔つきで言った。


「……君は……何を言ってるの?」


「事実を言ったまでさ。この救出に失敗しても、おまえが知る藤井一輝が無駄死にするだけで、鵜飼穂苗は蘇らない」


「何を言って……」


 鵜飼は首を何度も横に振り、動揺を振り払った。


「そんなの嘘に決まってる……。大体、誘拐犯である君の言うことなんか、信じられるわけないよ……」


「もっともな意見だ、鵜飼。だが、おまえが信じる方法で鵜飼穂苗を蘇らせようとしたら、藤井一輝は死ぬぞ?」


「違う……今回の『藤井一輝』は、僕の知る藤井じゃない……そう決めたんだ……」


 ふむ、とフジイは唸った。


「ならば今すぐ夢から覚めて、強制的に負ければどうだ? 高校生にもなれば明晰夢(めいせきむ)(夢であることを自覚しながら見ている夢)から無理やり目覚めることなど、できないこともないだろう?」


「……それは……」


 鵜飼はギュッと右拳を握った。


「鵜飼、おまえはまだ迷っているのだ。ならば決断するまでの間、俺の話に耳を傾けてはどうだ?」


「……君の言うことなんか……聞かない……」


「ならば、おまえが決断するまでの間、勝手に喋っていよう。おまえはそれを真実だと思うのも、戯れ言だと思うのも勝手だ」


「……勝手にしてよ……」


 鵜飼は近くにある木製の席に着席し、フジイとは反対の方向を向いた。


神崎(かんざき)チカ……。彼女は恐ろしい人間だよ……」


 フジイは静かに口を開いた。


「さて鵜飼……。神崎チカの『真の目的』は知っているか?」


「『誘拐犯の核』を絶滅させること……でしょ?」


「答えてくれてありがとう、鵜飼」


「い、今のはつい……」鵜飼はカッと顔を熱くして、フジイの方を向いた。「君が質問するから……。だって、ホントに声や顔が藤井とそのままっていうか……その……」


 鵜飼の熱がこもった顔を見てか、フジイはクスッと笑った。


「恥じらうことはない。仲良くいこうじゃないか」


 な? とフジイは後押ししてきた。あまりにも藤井に似ているため、鵜飼は首を縦に振らざるを得なかった。


「話を戻そう。神崎チカは俺のような『誘拐犯の核』を絶滅させること()()を目的としている……とおまえには話している」


 ところが、とフジイは繋げる。


「おまえは神崎チカに嘘を教えられているんだ。まず、俺たちのような『誘拐犯の核』を消す方法について、な」


「……どういうこと?」


 フジイは何かを考えるように、拳を口に当てた。


「そうだな」フジイは拳を口から離して、「俺たちのような『誘拐犯の核』を消す方法を、鵜飼はどのように教えられている?」


「『誘拐犯の核』が住み着いている自殺者を夢の中で救出したら消えるんだよね?」


「そう……。少なくとも、おまえは神崎チカにそう教えられている。それなのにどうして今回は『救出に失敗しろ』と指示する? おかしいとは思わないか?」


「それは……今回の自殺者の中に『誘拐犯の核』が居るって知らないからじゃないの?」


「いいや違う」


「じゃあ……どうして……」


 思考を始める鵜飼を邪魔するようにして、フジイが口を動かす。


「簡単な話だ。神崎チカは嘘をついているからだよ。俺たちのような『誘拐犯の核』を消す方法についてな」


「……いや、僕は騙されない……。だって君が『誘拐犯の核』である証拠なんて無いし、何か理由があって神崎は失敗するように指示したんだよ、きっと……」


 そうか……と、フジイは極めて小さな声で言った。まるで本物の藤井が喋っているかのようだ。



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