【5話】 希望の一矢
『妹の、鵜飼穂苗を蘇らせたくありませんか?』
その言葉の意味を、鵜飼はすぐに掴むことができなかった。
「……君……何言ってるの?」
「そのままの意味です。妹の鵜飼穂苗を蘇らせたくはないか? と訊いているのです」
神崎は丁寧な口調で言い直した。
「……もしかして君……ケンカ売ってる?」
ムッとした鵜飼だったが、神崎があまりにも真剣な顔つきで首を横に振ったので、怒気はすぐに解かれていた。
「いいえ、私は問うただけです。あなたの意志を」
「意志って……。そんなの……蘇らせたいに決まってるじゃん……」
でも、と鵜飼は繋げる。
「そういうの無理……って言いたいんでしょ? どうせ自殺した人の家族に対して慰めの言葉とか、くだらないこと言いたいだけなんでしょ?」
「いいえ、鵜飼穂苗は必ず蘇ります。あなたが私の指示に従えば、必ず」
神崎は即答した。その表情は自信に満ち溢れていた。
「君は……何を根拠にそういうことを言ってるの?」
神崎は何かを納得するよう、何度も頷いた。
「あなたの言いたいことは良く分かります。ですがその前に、私の話に耳を傾けてくれませんか? そうすれば自ずと分かってくるはずです」
「……聞くだけなら……聞くけど……」
すると神崎は腰を少し浮かせて、椅子に座り直した。
「ではまずお訊きします。金曜日の夜……すなわち昨日の夜に、ちょっと変な夢を見ませんでした?」
「変な夢? 見たと言われれば見たけど」
確かに変な夢ではあったが、夢というのは大抵変なものではないだろうか。
「実は三日前、私はあなたに《《ある能力》》を授けました。それが変な夢の正体です」
「……ある能力?」
「はい。あなたの夢に、三人の誘拐された人物が出てきたでしょう?」
「……うん、そういえば……」
鵜飼の知らぬ三人の人物が誘拐されたと、黒板に書かれていた。
「あなたがこの前見た夢の中で誘拐されたのは渡辺義人、川地美奈、武藤紀夫の三名で合ってますよね?」
「あ、そうそう。確かそんな感じの名前……」
「それと、廊下で『凄まじい二ノ宮金次郎だ!』と叫ばれましたよね?」
「あー、それ覚えてる。何か意味不明な――」
ハッと、鵜飼は先の言葉を飲み込んだ。
「ちょっと待ってよ! そもそも人が誘拐されたことや、誘拐された人の名前も、何で君が知ってるの? 全部僕が見た夢の中での出来事なのに!」
あり得ないことに、鵜飼は思わず声を上げた。
「私があなたの《《夢を管轄している》》から、ですよ」
神崎は淡々と、当たり前のように言った。
鵜飼は戸惑い、黙る他無かった。
「まあ、一般的に言えば『超能力で知り得た』といったところですかね? 私は超能力という表現は嫌いですが」
「超……能力……」
神崎が夢のことを知っているという非現実的な事実は、鵜飼を奮い立てた。
もしかしたら、本当に、その非現実的な神崎の能力で穂苗が蘇るかもしれない、と。
その奮い立つ気持ちを、鵜飼は拳をギュッと握り締めることで抑えていた。