【23話】藤井の本心
外の自販機の前で、藤井が腕を組みながら立っていた。
「……来たか、鵜飼」
静かに言うと、藤井は近くのベンチに座った。
「まあ座れ、鵜飼」
藤井から少し離れたところに鵜飼は座った。
「見郷紫乃の慰めになろうと誘ったんじゃないだろうな?」
「……そんなんじゃない!」鵜飼は思わず、藤井の方に迫った。「見郷とは学校で偶然会って、向こうから誘ってきたんだ!」
「それは良かった。もし慰めになろうと誘っていたのだとしたら、おまえとは縁を切っていただろう。おまえが元凶なわけだしな、鵜飼」
元凶、という一言に、鵜飼の勢いはギクリと沈下した。
「違う……元凶なんかじゃない……。誰か一人は選ばなきゃいけなかったんだ……」
だから、仕方なかった。そう続けた鵜飼だったが……気付けば、手や背中には嫌な汗が滲んでいた。
元凶であると、心の底では思っているからこそ、であった。
「……もう用は無いでしょ……。そろそろ上映時間だから……」
鵜飼がベンチから立ち上がろうとした時、
「俺には分からない」
藤井は静かに言った。どことなく、悲しさで包まれた顔で。
「正直、俺には分からないんだ……。何が正しい選択なのか……」
藤井は、右手で前髪をくしゃっと掴んだ。
「俺は……鵜飼穂苗のことが好きだ……。今すぐにでも会いたい……」
「……藤井……」
「……おまえの言うとおり、鵜飼穂苗に会えば、見郷吉宗が死んだことなんて忘れるだろう。見郷吉宗の家族に対する罪悪感もな……」
すると藤井は後ろにもたれ、天を仰いだ。
「おまえを責める資格なんてなかった……。すまなかった……」
感情を押し殺すように、藤井はギュッと目を瞑った。
「藤井、もういいよ……。それに、僕の方こそゴメン。あの時は怒鳴ったりして……」
藤井は静かに目を開け、何とも言えぬ表情で鵜飼の方を向いた。
「僕も、何が正しいのか分からないんだ……」
でも、と鵜飼は繋げる。
「僕は選んだんだ。誰かが悲しむことになっても、穂苗に会う道を……。間違った選択かもしれないけど、自分だけは正しい選択をしたと信じることにしたんだ……」
「……そうか……」
藤井は極めて小さな声で言った。
「藤井はそんなに思い詰めなくてもいいよ……。僕が選んだ結果なんだから……罪悪感も感じる必要は無いと思う……。そういうのは僕が受け持つべきだと思うから……」
「そういうわけにはいかない。俺たちは友達……だろ?」
藤井は立ち上がり、右手で握手を促した。
「……急にどうしたの?」
「おまえ知らないのか? 握手をすれば、誰だって仲直りできるんだぞ? 例え天使と悪魔でも」
「何それ?」
鵜飼は立ち上がり、藤井の右手と握手を交わす。
「僕と仲直り、してくれるの?」
「してやる、と言っておこう」
鵜飼と藤井は、微笑みも交わした。