【21話】取れない胸の引っかかり
翌朝。
日曜にもかかわらず、鵜飼は制服を着て学校に来ていた。ただ、忘れ物を取りに……。
職員室に居た教師に許可をもらってから教室に入り、忘れ物を通学鞄へ回収した。その拍子、藤井の席が目に入った。
連動して藤井のことを思い出し、昨日の一件がより濃く鵜飼の脳に蘇る。
(……僕は……間違ってない……)
静まり返った教室で、鵜飼は何気なく自席に座っていた。
「鵜飼? あんた何やってんの?」
聞き覚えのある鼻声が、鵜飼の不意を打った。反射的に声がした方を見ると、とても冷え切った表情をした女子生徒が、教室の入口に立っていた。
マスクをしていないため、女子が見郷紫乃であると認識するのに時間がかかった。
「……み、見郷?」
鵜飼はビクッとしながら立ち上がった。
「あんた驚きすぎだって」
見郷は冷ややかに言った。
「ていうか見郷――」
軽率に父親のことを聞けるはずもなく、鵜飼は咄嗟にその先の言葉を飲み込んでいた。
「何? 何か言いたいことあるの?」
「ううん……何も……」
「あっそ」
見郷は怠そうに腕を前で組んだ。
(いつもの見郷……だよね……)
見る限り、いつもの調子だ。とても父親を失ったとは思えない。
「ねえ……。見郷は、何で学校に来てるの?」
「忘れ物取りに来たのよ」見郷は颯爽と自分の席へ向かった。「コレ、取りに来たの」
見郷は机から筆記用具を出し、通学鞄にしまった。
「鵜飼は何してたの?」
「……僕も忘れ物……」
フッと、見郷はバカにするように笑った。
「あんたって結構マヌケね。そこは見た目通りってやつ?」
「あ、うん……」
吉宗の件が気になって『君もね』なんて言葉が出なかった。すると、見郷はスタスタと鵜飼に歩み寄り、ギューッと足を踏みつけてきた。
「さっきから静かすぎてキモい! いつもみたいにギャーギャー騒ぎなさいって!」
見郷は足に体重を乗せた。女の子の体重のためか、まあまあ痛い程度の痛みであった。
「わ、分かったから……。とりあえず離れてよ……。ね?」
離れ際、見郷はローキックを放った。それは結構痛かった。
「……ねえ、鵜飼さ、学生証持ってきた?」
見郷は腕を前で組みながら、鵜飼に問うた。
「うん、持ってきてるけど……。それがどうかしたの?」
「ああ、ちょっとね」
見郷は肩まで伸びた黒髪を、鬱陶しそうに後ろへ払った。
「あんたさ、これから暇? あの彼女と約束とかしてない?」
口に何も含んでいないはずなのに、鵜飼はむせてしまった。
「か、神崎は彼女じゃないって! まだ誤解してたの?」
鵜飼が慌てふためくと、見郷はニマッと口元を緩ませた。
「ようやくいつもの勢いが出てきたようね」
見郷は何だか嬉しそう。
「じゃあ、今から鵜飼にちょっと付き合ってほしいんだけど?」