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夢の中の誘拐事件  作者: 灰色坊や
第2章∶蘇りの代償
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【21話】取れない胸の引っかかり


 翌朝。

 日曜にもかかわらず、鵜飼うかいは制服を着て学校に来ていた。ただ、忘れ物を取りに……。


 職員室に居た教師に許可をもらってから教室に入り、忘れ物を通学鞄へ回収した。その拍子、藤井の席が目に入った。

 連動して藤井ふじいのことを思い出し、昨日の一件がより濃く鵜飼の脳に蘇る。


(……僕は……間違ってない……)


 静まり返った教室で、鵜飼は何気なく自席に座っていた。


「鵜飼? あんた何やってんの?」


 聞き覚えのある鼻声が、鵜飼の不意を打った。反射的に声がした方を見ると、とても冷え切った表情をした女子生徒が、教室の入口に立っていた。

 マスクをしていないため、女子が見郷みごう紫乃しのであると認識するのに時間がかかった。


「……み、見郷?」


 鵜飼はビクッとしながら立ち上がった。


「あんた驚きすぎだって」


 見郷は冷ややかに言った。


「ていうか見郷――」


 軽率に父親のことを聞けるはずもなく、鵜飼は咄嗟にその先の言葉を飲み込んでいた。


「何? 何か言いたいことあるの?」


「ううん……何も……」


「あっそ」


 見郷は怠そうに腕を前で組んだ。


(いつもの見郷……だよね……)


 見る限り、いつもの調子だ。とても父親を失ったとは思えない。


「ねえ……。見郷は、何で学校に来てるの?」


「忘れ物取りに来たのよ」見郷は颯爽と自分の席へ向かった。「コレ、取りに来たの」


 見郷は机から筆記用具を出し、通学鞄にしまった。


「鵜飼は何してたの?」


「……僕も忘れ物……」


 フッと、見郷はバカにするように笑った。


「あんたって結構マヌケね。そこは見た目通りってやつ?」


「あ、うん……」


 吉宗よしむねの件が気になって『君もね』なんて言葉が出なかった。すると、見郷はスタスタと鵜飼に歩み寄り、ギューッと足を踏みつけてきた。


「さっきから静かすぎてキモい! いつもみたいにギャーギャー騒ぎなさいって!」


 見郷は足に体重を乗せた。女の子の体重のためか、まあまあ痛い程度の痛みであった。


「わ、分かったから……。とりあえず離れてよ……。ね?」


 離れ際、見郷はローキックを放った。それは結構痛かった。


「……ねえ、鵜飼さ、学生証持ってきた?」


 見郷は腕を前で組みながら、鵜飼に問うた。


「うん、持ってきてるけど……。それがどうかしたの?」


「ああ、ちょっとね」


 見郷は肩まで伸びた黒髪を、鬱陶しそうに後ろへ払った。


「あんたさ、これから暇? ()()()()と約束とかしてない?」


 口に何も含んでいないはずなのに、鵜飼はむせてしまった。


「か、神崎かんざきは彼女じゃないって! まだ誤解してたの?」


 鵜飼が慌てふためくと、見郷はニマッと口元を緩ませた。


「ようやくいつもの勢いが出てきたようね」


 見郷は何だか嬉しそう。


「じゃあ、今から鵜飼にちょっと付き合ってほしいんだけど?」



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