【20話】 どうすれば良かったの?
鵜飼は、はやる気持ちと共に藤井からの着信に出た。
『鵜飼、話したいことが――』
「藤井、聞いてよ!」
鵜飼は叫ぶように言い、藤井の言葉を遮った。
『……急にどうした?』
「穂苗が蘇るんだ! 来週!」
一旦、間が空いた。
『そうか……』
藤井は極めて小さな声で言った。
「藤井も素直じゃないね。穂苗に会えるんだよ? もっと喜んだらどうなの?」
弾む声で言った鵜飼だったが、藤井の反応は無い。
「ねえ、どうかした?」
『鵜飼、テレビを点けてみろ……』
「……え? テレビ? 何で?」
『いいから点けろ』
「あ、うん。別にいいけど……」
指示通り、鵜飼はテレビを点けた。
丁度、番組と番組を繋ぐニュースが流れていたところであった。綺麗な女子アナウンサーが、真剣な顔つきでニュースを告げる。
『今朝未明、見郷吉宗さんが、事務所で首を吊って死んでいるのが秘書によって発見されました。警察の調べによると、外傷は無く、遺書もあることから、自殺の可能性が高いと――』
そこまで聞いたところで、鵜飼の全身に嫌な汗が滲んだ。
『鵜飼、これは一体どういうことだ? 夢のバグで救ったはずの見郷吉宗が、何故自殺をしている?』
「それは……」
鵜飼の額から頬にかけて嫌な汗が伝う。
「そ、そんなの……どうでもいいじゃん……。ほら、穂苗が蘇るんだからさ……」
『どうでもいい?』
藤井は強い口調で言った。
『娘の見郷紫乃や家族はどうでもいいと思ってないはずだが? おまえなら十分理解しているはずだろ?』
「そんなの……僕は……」
鵜飼はゴクリと唾を飲んだ。
「だって、僕は……選んだんだ……。自分の気持ちを……」
『人を不幸にしておいて、良く言えるな、その台詞が』
「…………」
『鵜飼、聞いているのか?』
「………………………………じゃあどうすれば良かったって言うんだよ!」
鵜飼は叫んだ。
「穂苗が蘇るんだから、それでいいでしょ! 藤井だって穂苗のことが好きで、会いたくてしょうがないんでしょ!」
向こうは無反応。
「大体、何もできないくせに口出ししないでよ! それに穂苗が蘇ったら、どうせ藤井はそんなことは忘れて、笑顔で穂苗に会いに行くんでしょ!」
藤井は無反応。
「さっきから黙ってないで、答えてよ!」
続けて叫んだことにより、鵜飼は息を切らしていた。
『……悪い、人違いだったようだ』
「人違いって何? 言いたいことはハッキリ――」
プツッと、通話が切れた。
ツーッ……ツーッ……と、耳元で鳴り響く中、テレビではバラエティ番組が始まった。
「……僕は……僕は……間違ってないでしょ?」
鵜飼は穂苗の遺影に向かって呟いた。
いつもより、遺影がくすんでいるような気がした。