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夢の中の誘拐事件  作者: 灰色坊や
第2章∶蘇りの代償
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【18話】夢の管轄について


鵜飼うかいさん、本当におめでとうございます。これでかなり鵜飼穂苗(ほなえ)の蘇りは近づきましたよ」


「そ、そうなの?」


「ええ。あと一つだけですよ」


「一つって」鵜飼はゴクッと生唾を飲んだ。「じゃあ来週の金曜日に見る夢の中で『誘拐犯の核』を消すようにすればいいの?」


 いいえ、と神崎かんざきは柔らかに否定した。


「あなたはもう『誘拐犯の核』を消す必要はありません。次に見る夢の中で自殺者を救うだけで、鵜飼穂苗は蘇ります」


「誰を救えばいいの?」


 つい、鵜飼は神崎に迫っていた。神崎は後退りをして鵜飼から距離を取り、首を一往復だけ横に振った。


「そう焦らないで下さい。それに、次の夢で救うべき人は決まっていません。つまり、あなたが誰かを救えば、その時点で鵜飼穂苗は蘇ります」


「……本当に……本当に蘇るんだね?」


「本当です」


 神崎はキッパリ言い切った。

 鵜飼は思わず、普段ならしないガッツポーズをした。


「よし!」


 鵜飼は叫び、再びガッツポーズ。


「ふふ。鵜飼さん、嬉しいのは分かりますが、気を引き締めて下さいよ? 何せ次の夢の中では、あなた一人で誘拐犯に勝たなくてはいけないようになっています。鵜飼穂苗が蘇るための仕上げとして、ね」


「大丈夫だよ……。身が滅びても誘拐犯に向かって勝つつもりだから」


 ふむ、と神崎は声を出す。


「確かに、今のあなたの強さなら大丈夫でしょう。いざとなれば、あなたには『普通の域を超えた戦闘アイディア』が浮かびますしね。その点、二階堂にかいどうさんクラスの逸材です」


「そ、そうなの?」


 鵜飼は照れ隠しに頬を掻き、神崎は優しく微笑む。


「あ、そういえばさ、二階堂さんが僕の夢の中に来てたことについてだけど……」


「……それが何か?」


 神崎は、不思議そうに首を少し傾げた。


「二階堂さんも、金曜日に見る夢の中で救出しなきゃいけないんだよね? だったら僕の夢の中に来てる場合じゃなかったんじゃないの?」


 鵜飼がそう言った直後、神崎はアッと何かを思い出したかのように声を出した。


「すみません。そういえば、一番重要なことをお話ししていませんでした。まず、鵜飼さんは金曜日の救出者で、二階堂さんは木曜日の救出者なのですよ」


「僕が金曜日で、二階堂さんが木曜日?」


 神崎は頷いて、


「鵜飼さんは金曜日の夜に見る夢の中で自殺者を救うことができ、二階堂さんは木曜日の夜に見る夢の中で自殺者を救うことができるのです。


 それはつまり、鵜飼さんは土曜日に自殺する人を助けることができ、二階堂さんは金曜日に自殺する人を救うことができる、ということなのです」


 神崎の丁寧な説明は、鵜飼の頭の中にスッと入ってきた。


「……人によって違うんだ……」


「『人によって違う』というよりは、私が能力を授けて契約した時点で、そのように設定しているのです」


 徹夜されたらどうしようもないが、例え日付が変わった深夜一時や二時等に寝てしまっても大丈夫のように設定していることも、神崎は付け足してくれた。


「そしてもう一つ、最も重要なことをお話ししていませんでした」


 神崎はいつにも増して表情を引き締めた。


「あの夢について、です」


 爽やかな朝の風が吹きすさび、鵜飼の髪と、神崎の跳ね上がった髪を同時に揺らした。


「鵜飼さん。もしかしてあなたは、あの夢の中で誘拐された三人だけが、次の日に自殺する人だと思ってたりしてますか?」


「えっ……そうじゃないの?」


 いいえ、と神崎は否定した。


「日本には年間約三万人以上の自殺者が居ます。ザックリ計算すると、一日に百人弱は自殺者が居ることになります」


 そういえば、この前に見たニュースでやっていた。


「複数の自殺者の内、三人を私が選出して、鵜飼さんの夢の中で救出できるように仕向けているのです。これを『ゆめ管轄かんかつ』と言います」


「『夢の管轄』か……。なるほど……。神崎が三人を選んでるんだ……」


 神崎が三人の自殺者を選んでいる。

 ……つまり見郷みごう吉宗よしむねも……神崎が選んだということだ。


「三人選んでも、結局はその中の一人しか救出できませんけどね。だから鵜飼さんが見る夢の中で誘拐された三人以外にも、自殺者は居ることになります。そして、その三人以外の自殺者も、夢の中で誘拐されているのです」


「僕の知らない夢の中で、他の自殺者が誘拐されて――」


 ハッと、鵜飼は気付いた。


「……つまり、その夢の中には救出者が入ってないから、自動的に救出は失敗になって自殺してるってこと?」


「そうなります。その場合だと――」


 と切り出して、神崎は自殺者が『自殺するタイミング』について話し始めた。


 まず『夢の管轄』による三人に選ばれずに、自動的に救出が失敗となった自殺者は、朝だったり、昼だったり、夕方だったり、夜だったりと、色々なタイミングで自殺する。


 しかし『夢の管轄』によって選ばれた三人の自殺者は、救出に失敗した場合、救出者が目を覚ますと同時に自殺するのだという。

 それ即ち、救出者が目を覚ました後に無事であれば救出の成功を意味するのだ。


 神田かんだヨネの無事をいち早く確認できたのも、そのような法則があってのことであった。


 まず、二階堂が『同時に目が覚めるハイタッチ』を夢の中で鵜飼に仕向けた。鵜飼と同時に目を覚ました瞬間、二階堂は、神田ヨネの家を張り込んでいた仲間に連絡を入れた。

 そして神田ヨネの状態を確認させた結果、神田ヨネは無事だったのだ。


「――とまあ、話は以上です。説明しておいてこう言うのも何ですが、これらのことは、鵜飼さんにはあまり役に立たない知識でしたでしょうがね」


「ううん、そんなことないよ」


「そうですか……良かったです……」


 神崎はホッとした様子を見せた。


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