【4話】 人生初の取調室にて、少女と出会う。
刑事ドラマでよく舞台になる取調室。そのイメージは、狭い、パイプ椅子と机、向かい側からライトを当てて「吐け!」と怒鳴る刑事、カツ丼を食べる場所、ぐらいなものだ。
実際に来てみてイメージ通りだったのは、狭いことと、パイプ椅子と机だけであった。
イメージとはちょっと違った取調室にて。
鵜飼はパイプ椅子で独り寂しく待機していた。
(……いつまで待たされるんだろう……)
静寂が保たれた取調室で待つことおよそ三十分が経過……。
ようやく誰かが入ってき、鵜飼は反射的にその方を見た。入室してきた意外な人物を見て、鵜飼の脳内は「?」に埋め尽くされた。
入室してきたのは、セーラー服を着た少女。歳は、中学生ぐらいだろうか。
小柄で、あどけなさが抜けていない愛らしい顔立ち。短髪をワックスか何かで所々跳ね上げ、ボーイッシュにセットしている。
「お待たせしてすみません」
中学生と思しき少女は一礼すると、静かに扉を閉めた。少女は髪の毛をいじりながら、鵜飼の向かい側に着席した。
「どうぞヨロシクお願い致します」
少女は頭を下げた。はいどうぞヨロシク、と言えるはずもなく、鵜飼は「?」で埋め尽くされた頭を右手で抱えた。
(んーと……)
鵜飼は現状を再確認するために辺りを見渡した。
まず、朝っぱらから警察官に連れられて、この狭い取調室に。そして現在、机の向かい側に中学生と思しき少女が座っている。
(もしかしてこの子も?)
ジーッと鵜飼が少女を観察していると、少女は不思議そうに小首を傾げた。
「あの、どうかしましたか?」
「え? いや、あの……。もしかして、君もここに連れてこられたとかいう状況?」
「いえ、私がここに呼んだのです。こうでもしないと、話を真剣に聞いてくれないと思いまして」
少女は丁寧な口調で意味の解らぬことを言った。それにより、鵜飼の頭は更にこんがらかる。
「……何だかワケ解らないんだけど……」
まだ夢の中に居るのだろうか。鵜飼がそう思った矢先、少女はコホンと咳払いをして、鵜飼に名刺を差し出してきた。
「申し遅れました。私は厚生労働省の自殺予防総合対策センターに勤める、神崎チカという者です」
少女から受け取った名刺には、名乗った通りの名前と勤務先が書かれていた。
「……え? 厚生……労働省の……自殺? 予防総合……対策センター?」
鵜飼は名刺を右手に首を傾げた。
「こんなの聞いたことないし……。そもそも厚生労働省って――」
鵜飼は名刺の『厚生労働省』と、向かいに座る少女を見比べた。どこからどう見ても、神崎チカと名乗った少女は中学生にしか見えない。
「君、子どもだよね?」
「ええ。あなたと同じ高校一年生ですが、何か?」
「……あ、いや、別にいいや、もう……」
鵜飼は呆れ、大きくため息を吐いた。もう、ここが警察署の取調室であることなど忘れるほど場馴れしている。
「あのさ、家に帰っていいかな?」鵜飼は名刺を机に置いた。「どうやって警察とか使ったのか分からないけど……。これ以上、君の冗談に付き合いたくないし……」
「そうはいきません。私はあなたに説明しなければならないことがありますので。とにかく話を聞いて下さい。いいですね?」
神崎チカはかなり強引に話題を切り返した。その勢いのある強引さに、鵜飼は咄嗟に「あ、うん」と答えてしまっていた。
「では単刀直入にお訊きします。よろしいですね?」
「……うん……いいけど……」
何を訊かれるのだろうと、鵜飼が心を構えた時――、
「妹の、鵜飼穂苗を蘇らせたくありませんか?」
神崎は、確かにそう言ったのだった。