【3話】来る刺客
このマンションはオートロック式で、エントランスからのチャイムと、玄関からのチャイムの音が少し異なる。
今鳴り響いているのは、エントランスからのチャイムだ。
「誰だろう、こんな時間に……」
鵜飼は遺影を片付けて、部屋のインターホンに向かった。
「はい、どちら様ですか?」
『良かった、出てくれましたか!』
若々しい女性の声だった。モニター機能が付いていないこのインターホンでも、エントランスには二十代前半ぐらいの女性が居るであろうことが分かった。
「あの、僕に何か用ですか?」
『朝早くからすみません。私、厚生労働省の者です』
「……厚生……労働省?」
『はい、厚生労働省の者です。今日はあなたに大事な話があって伺いました。あまり時間を取らないので、ご協力お願いできますか?』
「……えっと、まあ、いいですけど……」
『ありがとうございます!』
鵜飼はエントランス側のオートロック解除ボタンを押し、女性が玄関まで来るのを待った。
「厚生……労働省か……。何かのアンケートかな……」
しばらくすると、玄関からのチャイムが鳴り響いた。速足で玄関に向かい、扉を開けると、その先には警察官の男が一人立っていた。
ギョッとした鵜飼に対し、警察官は優しく微笑んだ。
「ああ、朝早くからゴメンね」警察官は帽子のズレを直して、「今からちょっと署に来てもらえないかな?」
「……警察の人ですか? 厚生……とかいうのじゃなくて?」
「いやー、厚生労働省の人に、君の『護送』を頼まれてね」
護送? と鵜飼は心の中で呟いていた。そして、さっきの女性の声は何だったのだろう。
「……あの、これ詐欺だったりします……?」
「ははっ、安心して。パトカーを用意する詐欺なんてあると思うかい?」
警官は視線で外の方を差した。それにつられて外に出て下を確認すると、マンションの駐車場にパトカーが停まっているのが見えた。
「何なら今から通報しても大丈夫だよ。もう伝えてあるし」
「あ、いえ、大丈夫です……。すみません失礼なこと言って……」
「いやいや、疑われるのは当然だから気にしないで」
優しい人だった。警官は、もっと高圧的なイメージがあった。
「ともあれ、今から署のほうで、厚生労働省がらみの質問があるんだって。あまり時間は取らないし、来てくれるよね?」
「は、はあ……。まあ、早く終わるならいいですけど……」
「ありがとう。じゃあ行こうか」
鵜飼は警察官に連れられて、ラフな寝間着姿のままパトカーで署に向かった。