【7話】 政治家と接触せよ
翌朝。
眠気と共に、鵜飼は通学路を歩いていた。
(どうしよう……。もう水曜日だよ……)
例の夢を見る金曜日は、着実に迫ってきている。
見郷吉宗が自殺する根源そのものをどうにかする。
昨夜から、鵜飼の脳内はそれ一本に絞られていた。
(どうすれば……)
考えながら歩いていると、黒の普通車が一台、近くに止まった。そこから出てきたのは、白いマスクをした見郷紫乃であった。
ドアを静かに閉めると、見郷は運転席に向かって手を振り、そのまま車を見送っていた。
「毎日親に送ってもらってるの?」
車が見えなくなったタイミングを見計らって、鵜飼は見郷に話しかけた。すると見郷はサッと後退りをして、耳を紅潮させた。
「う、鵜飼……」見郷は周りをキョロキョロ確認して、「何であんたがここに居るのよ」
「ここは僕の登校ルートだからね。ていうか耳赤いよ? もしかして親に送ってもらってたところを見られて恥ずかしいとか、小学生みたいな理由?」
見郷は速足でこちらに向かい、鵜飼の足をギューッと踏んづけた。
「なワケないでしょ! バッカじゃないの!」
見郷は更に体重を乗せてきたが、女子の軽い体重のためか、ちょっと痛い程度であった。
「ごめん、言うほど痛くないんだけど……」
「……あっそ……」
見郷はプイッと背を向けて、肩まで伸びた黒髪をなびかせながら先を歩いて行った。
「ちょ、ちょっと待ってよ」
鵜飼は小走りで見郷の横に追いついた。
そのまま鵜飼が歩調を合わせると、見郷はため息を吐いた。
「何で隣に来るのよ、あっち行きなさい」
見郷はシッシッと虫を払うように手を振った。そこまで拒否されると、男として自信を無くす。
「……そういえばさっきの、見郷の親……だよね?」
「ええそうよ」見郷は面倒くさそうに答えた。「朝はお父さんに送ってもらってんの」
「へえ……」
「もういいから早くあっち行って。鵜飼とは並んで登校したくないの」
「はいはい、分かったよ……」
ご所望どおり離れようとした寸前、鵜飼はハッとした。
「ちょっと待ってよ! 今、お父さん……って言わなかった?」
「はぁ? そうだけど……何なのよ? 早くあっち行ってほしいんだけど」
「ど、どっちに行ったっけ? 車」
「はぁ? あっち……だけど……」
見郷は今進んでいる逆の方向を指差した。
鵜飼は「よーし」と気合いを入れてから、その方向へ猛ダッシュした。
「ちょっと鵜飼、何処行くの?」
「用事思い出した! また後でね!」
鵜飼は全力で、見郷が指差した方向へと走り続けた。そして息切れを感じ始めた頃に気づいた。
(……ていうか、車に追いつくはずないじゃん……)
立ち止まった場所は、見知らぬ道ばたであった。