【6話】 政治家の悩みを晴らせ
夜。
鵜飼が何気なく点けたテレビでは、あるニュースが報じられるところであった。
『次です。昨年の自殺者が十年連続で三万人を超えたことで、本日昼頃、厚生労働省が会見。その模様をお送りします』
画面は綺麗な女性キャスターから、脂ぎった中年男性が会見する映像に切り替わった。
『えー、この深刻な事態に我々厚生労働省は、ある特殊な手段を用いて、今年中に自殺者を三万人未満までは減らすと断言します。その手段の概要としては、後日――』
しばらく不毛な会見がダラダラと続いた。そんな中、鵜飼のスマホがブルブル反応。藤井からの着信であった。
「藤井? どうしたの?」
『鵜飼、テレビを点けてみろ。厚生労働省の会見がやっている』
「藤井も見てるんだ?」鵜飼はスマホを右耳から左耳に当てるように持ち変えた。「僕も今、見てるとこ」
ここで会見は終わり、画面は綺麗な女性キャスターに戻された。
『特殊な手段……鵜飼が見る夢のことだろうな……』
「うん、多分……。これで神崎の言うことが本当だって信じてもらえた?」
『……そうだな……。まあ、この際だから信じてやろう。夢の中で自殺者を救うことができることだけはな』
その言い方からすると、藤井はまだ、穂苗の蘇りについては信じきっていないようだ。
『それで、おまえが次に見る夢では、見郷吉宗が誘拐されるんだって?』
「うん……。でも、神田ヨネっていう人には『誘拐犯の核』が住み着いてるから、それを消すために神田ヨネの救出に行かないと……。
一度でも『誘拐犯の核』を消せる機会を逃したら、蘇りが消滅するらしいから……」
『なるほど……』
ここで鵜飼はテレビの音量を下げておいた。
「どうしよう……。命の選択について、十分覚悟はできてるはずなんだけど……。見郷とはもう友達だし、その親を見捨てることなんてできるはずないよ……」
『……確かに……そうだな……』
藤井は極めて小さな声で言った。
『鵜飼、夢の中で救出する以外の方法で、見郷吉宗の自殺を阻止する方法は無いのか?』
「それが分かったら苦労しない――」
鵜飼はハッと先の言葉を飲んだ。
「そ、そっか! その手があるじゃん!」
鵜飼は思わず立ち上がった。
「見郷吉宗が自殺する『根源』をどうにかすればいいんじゃない? 悩みとかを解消すれば、自殺しなくなるでしょ?」
『そう簡単に言うが、その悩みとやらは何なのか、どうすれば解消されるのかも分からないし、第一、おまえが見郷吉宗と接触できるはずがないだろ?』
「そ、そうだよね……」
鵜飼はベッドの上に座り込んだ。
『政治家の悩みなんて知っても、俺たち一般市民にどうこうできるはずもないしな』
「……だよね……。じゃあ、どうすればいいんだろう……」
その後、色々と議論したが、パッとした結論には至らなかった。