【5話】二階堂の実力
「では鵜飼さん、鵜飼穂苗の蘇りに近づくために、あなたに命じます。
次の金曜日に見るあの夢の中で、神田ヨネという人物を救出するのです。その人物こそ『誘拐犯の核』が住み着いた人物です」
「救出って、誘拐犯と戦闘するんだよね……」
「ええ。そして今までの夢とは違い、救出に成功すれば、自殺者を一人救うことができます。
失敗すれば自殺してしまいますし、一度でも救出に失敗すれば、鵜飼穂苗の蘇りは消滅します。そのことは肝に銘じて下さい」
「……うん……分かってる……。でも大丈夫かな、僕……。救えるかな……」
夢の中での戦闘経験が浅い鵜飼にとって、不安が募るだけであった。
「大丈夫ですよ、鵜飼さん。あなたの戦闘能力は十分に高いですし、二階堂さんがその夢で助太刀してくれますから」
「……二階堂さんが?」
鵜飼は向かいの座席に座る二階堂を見た。すると、二階堂は遠慮がちに会釈。
「安心して下さい。二階堂さんはあくまで厚生労働省の新米です。
厚生労働省に入る前に、夢の中での戦闘を私の傘下で何度も行ってきています。
ですので夢の中での戦闘能力は極めて高いです。私の知る限り、彼女を超える実力者はまだ居ません」
「そ、そんなに凄いんだ……」
「ええ。二階堂さんが助太刀するとなれば、難易度はゼロ同然ですので安心して下さい」
神崎は優しく微笑むことで、独特の間を空けた。
「あ、でも『誘拐犯の核』が住み着いた自殺者と『何らかの関係』じゃないと、救っても自殺しちゃうんだよね? 僕、神田ヨネなんて人、知らないよ?」
「大丈夫ですよ。神田ヨネとの『何らかの関係』については、鵜飼さんには内緒で既に持たせています。
その手段については申し訳ありませんが、機密事項なのでお伝えすることはできません」
神崎は一礼した後、紺色のメモ帳を出して、あるページを開いた。
「ええと、あなたが次に見る夢の中では……神田ヨネと、吉池五郎と、見郷吉宗の三名が誘拐されます。
ですので、廊下の先から走ってきた人物に、神田ヨネの名前を言って下さいね。くれぐれも、他の名を言うことのないように」
頷く寸前、鵜飼はハッとした。
「ちょ、ちょっと待ってよ! 今、見郷吉宗って言わなかった?」
「ええ。それが何か?」
見郷吉宗……彼は政治家であり、見郷紫乃の父親である。
「あの、神崎……見郷吉宗の救出に向かうってのは、ダメかな?」
「……どうしてです?」
神崎は表情を渋らせた。
「あのさ……さっき、僕と一緒に居た女子が……見郷紫乃っていう人で……。見郷吉宗は、その人の父親なんだ……」
「……そうだったんですか……。しかしこればかりはどうしようもありません。
一度でも救出に失敗すれば消滅するように、一度でも『誘拐犯の核』を消せる機会を逃してしまったら、蘇りが消滅するのです」
「……な、何とかならない?」
神崎は首を一往復だけ横に振った。
「すみません、無理です。鵜飼穂苗が蘇らなくてもいいのなら可能ですが」