【4話】誘拐犯の核について
「まず、あなたに『誘拐犯の核』についてお話しします」
「『誘拐犯の核』?」
初めて聞くキーワードに、鵜飼はオウム返しした。
「『誘拐犯の核』とは、誘拐犯の心臓のようなものです」
「……心臓?」
「はい。私たちが遭遇している誘拐犯は、核となる数多の誘拐犯の分身の一つでしかないのですよ」
え? と、鵜飼は声を漏らした。
「……その言い方だと『誘拐犯の核』は沢山居るってこと?」
「ええ。鵜飼さんが今まで戦闘してきた誘拐犯は『誘拐犯の核A』の分身であったり『誘拐犯の核B』の分身であったりと、数多に存在する『誘拐犯の核』の分身でしかないのですよ。名称は例ですがね」
ゆっくりと知識に刻んでから、「なるほど」と鵜飼は呟いた。
「先ほど申し上げましたが、『誘拐犯の核』とは、人間でいうところの心臓。つまり破壊したら分身の誘拐犯は消滅します」
そして、と神崎は繋げる。
「『誘拐犯の核』は自殺思念(自殺する気持ち)を持った人間が現れる度に分身して、その人間の夢に潜り込んで自殺させているのです。
私たちはその『誘拐犯の核』を絶滅させて、日本の自殺者をゼロにしようとしているのです」
「日本の自殺者を……ゼロに? そんなことができるの?」
神崎は真剣な顔つきで頷いた。
「さて鵜飼さん。どうすれば自殺の根源となる『誘拐犯の核』を消せると思いますか?」
「それは……『誘拐犯の核』を探して……倒す?」
「不正解です」
神崎は優しく微笑みながら言った。
「正解は『誘拐犯の核が住み着いた自殺者を救出する』です。唯一の弱点であり、これ以外の方法では消えないという強みが向こう側にはあります」
「住み着いた人物って……。『誘拐犯の核』は、誰かの中に居るってこと?」
「その通りです。『誘拐犯の核』は、自殺思念を持った人に住み着くのです。
そして、その住み着いた人間を我々のような救出者が夢の中で救出すると消滅します。
逆に救出に失敗すると、他の自殺思念を持った人へと移るのです」
「なるほど……。じゃあ『誘拐犯の核』が住み着いた自殺者を救っていくことで『誘拐犯の核』をどんどん消していけば、自殺者が減っていくってこと?」
いえ、と神崎は鋭く否定。
「自殺者そのものを減らす方法は、鵜飼さんのような救出者が夢の中で救う方法以外はありません。
何せ『誘拐犯の核』の分身の量は無限大ですから、『誘拐犯の核』が百個残っていようが一個残っていようが自殺者の総量は同じなのです」
「……そっか……。じゃあ『誘拐犯の核』を絶滅させた時にしか減るようなことはないんだね……」
「ええ。先ほど申し上げたように、鵜飼さんのような救出者が夢の中で救出することで、一人だけ減らすことは可能ですけど」
神崎は「そして」と繋げる。
「『誘拐犯の核』を消すことは、通常の自殺者を救うよりも遙かに蘇りが近づくのです。
つまり鵜飼さんの場合なら『誘拐犯の核』を一つ消せば、通常の自殺者を一人救うよりも遙かに鵜飼穂苗の蘇りが近づくのです」
「ほ、ホントに?」
「はい。個人差はありますが、最短で『誘拐犯の核』を一つ消しただけで蘇ったケースだってあります」
うんうん、と向かい側の座席で二階堂が頷く。
「ここで一つ、重要な事項を申し上げます。『誘拐犯の核』を消すためには、一つだけ厄介な条件があるのです」
「……条件?」
「通常ならば、救出者が夢の中で救出すれば、対象の自殺者は自殺しません。ですが『誘拐犯の核』が住み着いた自殺者は違います。ある条件がない限り、夢の中で救出しても自殺してしまうのです」
ある条件? と鵜飼は心の中で呟く。
「『誘拐犯の核』が住み着いた自殺者をAとします。救出者をBとします。通常の自殺者は、Bのような救出者に夢の中で救出されれば自殺しません。
しかし、先ほど話したように、ある条件を満たさない限り、救出してもAは自殺してしまいます。
ですが、AとBが『何らかの関係』を持っていた場合、Bが救出すればAは自殺しません」
「……何らかの関係?」
神崎は頷いて、
「何らかの関係については条件が結構緩いです。例えAとBが友達以上の関係でなくても、BがAの親族と友達になれば、AとBは『何らかの関係』となります。直接的な関係を持たなくても良いのですよ」
「えーっと、つまり……」
鵜飼は知識を整理する。
「……『誘拐犯の核』が住み着いた自殺者を救うためには、僕のような救出者が、『誘拐犯の核』が住み着いた自殺者と『何らかの関係』を持たないといけないってこと?」
神崎は頷くことで肯定した。
「理解が早くて助かります。そして救えると同時に『誘拐犯の核』を一つ消せるのですよ」
なるほど……と、鵜飼は深く頷いた。