【3話】同じ境遇の仲間と出会う
校門を出てすぐそこに、黒のリムジンが一台止めてあった。外から車内が見えないよう、窓が黒塗りになっている。
後部座席のドアの前には、スーツを着た女性が立っている。
(あの人は一体……)
女性の年齢はパッと見で二十代、若しくは十代後半。
身長一七〇センチの鵜飼よりやや低い程度。女性にしては背が高い。体型がスラッとしているため、スーツがとても似合っている。
銀縁の眼鏡を掛けていて、ポニーテールの先端が腰まで届いている。
「どうも、お待ちしており……ました……」
ぎこちなく丁寧に言うと、メガネを掛けたスーツ姿の女性は後部座席のドアを開けた。
「お先にどうぞ」神崎は車の方に手を添えた。
「うん……」
スーツ姿の女性を横目に、鵜飼は車内に入った。その時、女性の右手人差し指に、黒いテープが巻かれているのを確認していた。
(僕と同じ……なのかな?)
リムジンの座席は向き合う形で配置されており、鵜飼はトランク側の座席に座った。座ったとき、フワッと高級感のある座り心地を感じた。
神崎は鵜飼の隣に座り、スーツ姿の女性は向かい側の座席に座った。
「重要なお話しの前に、私の部下を紹介します」神崎は、向かいの座席に座るスーツ姿の女性に目をやった。「二階堂さん、自己紹介をして下さい」
「は、はい!」
二階堂と呼ばれた女性は、慌ただしく眼鏡のズレを直した。
「私は二階堂優奈です、ヨロシク。ええと、う……う……何でしたっけ?」
向かいの座席で、二階堂優奈は斜め上に視線を泳がせた。
「僕は鵜飼、だけど……」
「そ、そうでした!」二階堂は顔を青ざめながら、両手で頭を抱えた。「忘れててごめんなさい!」
「う、うん……。別にいいけど……」
二階堂はホッと息を吐くと、力尽きるように背中から後ろへもたれた。
(何だか騒がしい人だな……。神崎とは真逆かも……。ていうか二階堂さんの声、どこかで聞いたことあるような……)
気のせいかな、と片付けようとした時、鵜飼はハッと思い出した。
「ねえ。二階堂さんってさ、もしかして、僕の家に訪問したことない?」
「私が鵜飼クンの家に訪問……ですか?」
二階堂は中指で眼鏡を押し上げながら、視線を斜め上に泳がせた。
「二階堂さん、あの日の朝のことですよ、きっと」
神崎がそう言うと、二階堂はアッと声を上げた。
「思い出しました思い出しました! 鵜飼クンが警察署に行く前の……ですよね?」
「うん……。やっぱりあの時の人?」
「は、はい! ご、ごめんなさい! そのことも忘れてました!」
二階堂は顔を青ざめながら、両手で頭を抱えた。
「別に謝らなくてもいいよ? 全然気にしてないから」
「そう……ですか?」
二階堂はホッと息を吐き、力尽きるように背中から後ろへもたれる。
「騒がしくてすみませんね、鵜飼さん」神崎は声をヒソヒソさせて、「二階堂さん、まだ新米なもので」
「ううん、気にしてないよ」鵜飼も声をヒッソリさせる。「あともうちょっとだけ落ち着いた方がいいとは思うけどね……」
「ええ、そこが問題なんですよ……。新米とはいえもう二十歳なので、年相応に落ち着いてほしいのですが……」
やれやれといった感じで、神崎はため息を吐いた。
「あのさ、神崎。二階堂さんも、僕と同じなの? 右手人差し指に黒いテープが巻かれてるようだけど……」
「ええ。彼女も夢の中で自殺者を救うことができ、あなたと同じ境遇の人です。詳細はいずれ、彼女の方から聞くことになると思いますよ?」
「……そうなんだ……」
同じ境遇ということは、彼女にも自殺した家族が居るのだろうか。
「まあ、余談はここまでにしておきますか」
神崎は声のボリュームを戻した。
「では鵜飼さん、本題です。心の準備はよろしいですね?」
「あ、うん……」
鵜飼は顔を引き締め、緊張感を高めた。