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夢の中の誘拐事件  作者: 灰色坊や
第2章∶蘇りの代償
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【1話】馴れ初め


 目を開くと、見知らぬ天井が見えた。


「ここは……」


 鵜飼うかいはベッドの上で仰向けになっていた。ゆっくりと半身を起こした瞬間、頭にキーンと嫌な感覚が走った。

 脳が悪い電波で刺激されたような、初めての刺激だ。


「うぅ……」


 頭を軽く振って緩和を試みたが、キーンと、脳に嫌なものが走る。


「安静にしてた方がいいらしいわよ」


 突然、横から聞き覚えのある鼻声が……。

 その方を見ると、ベッドに隣り合う椅子に、白いマスクをした女子が座っていた。

 見郷みごう紫乃しのだ。


「ここ……何処?」


 鵜飼はキーンとする頭を抱えながら、辺りを見渡した。

 ベッドの周りは白いカーテンで遮断されている。


「学校の保健室よ。寝ぼけてんの?」


 見郷は鼻声で攻撃的に言うと、肩まで伸びた黒髪を邪魔くさそうに後ろへ払った。


「……ねえ……今……何時間目?」


「放課後」


「うわ……最悪だ……」


 鵜飼は頭を掻き乱した。その時、見郷が手のひらを差しだしてきた。

 差し出された手のひらには、とっても怪しい白い錠剤が一粒。


「えっと、何これ?」


「さあ?」見郷は肩をすくめた。


「いや、『さあ?』って……」


「知らないものは知らないのよ。保健室の先生に『緩和剤かんわざいだから飲ませろ』って言われただけだから」


「え? 緩和剤? 何の?」


「あーもう! つべこべ言わずに飲みなさいよ! 面倒な奴ね!」


 見郷は更に強く錠剤を差しだしてきた。その勢いに呑まれ、鵜飼はつべこべ言わずに錠剤を飲んでいた。

 すると不思議なことに、キーンとしていた頭が一瞬にしてスッキリした。


(あー……この緩和剤か……)


 おそらく神崎かんざきが夢のこと等を上手く伏せて、飲ませるように仕向けたのだろう。


「……ていうか、何で見郷がここに居るの?」


「保健委員だから、先生に『目を覚ますまで看病しろ』って言われたのよ。面倒だけど断ったらもっと面倒なことになりそうだし、今日は別にこれといった用事は無いから、暇つぶしも兼ねてしょうがなく嫌々待ってたってワケ」


「は……はは……。そうなんだ……」


 そこまでハッキリ言われると、男として自信が無くなる。

 もし鵜飼が藤井ふじいのような美少年だったら、良い雰囲気になっていたのだろうか。


「ま、そういうワケだから」


 見郷は椅子から立ち上がり、肩まで伸びた黒髪を後ろに払いながら背を向けた。


「ねえ、ちょっと待てよ」


 見郷がカーテンに手を掛けた瞬間、鵜飼は呼び止めていた。見郷は面倒くさそうに振り向き、腕をダラッと前で組む。


「何よ?」


 ここまで攻撃的な鼻声はあるか? と思えるほどの勢いで見郷は言った。


「ありがとう。理由はどうあれ、目を覚ますまで居てくれたんでしょ?」


 礼を受け取ると、見郷は鵜飼を鋭く見つめた。

 今朝の、攻撃的な目とは違い、何だか不思議な生き物を見るような目をしている。


「な、何?」


「別に」


 見郷は背を向け、カーテンを勢い良く開けて出て、シャッと勢い良く閉めていった。


「何だかな……」


 鵜飼は背中からベッドに倒れ込んだ。



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