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夢の中の誘拐事件  作者: 灰色坊や
第1章∶動き出す希望と、目覚める本能
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【21話】 目覚める戦闘の才能①



 鵜飼うかいの右手からゴウッ! と豪快に炎が放出され、誘拐犯に向かった。


 誘拐犯は消えるような速さのサイドステップをして、炎をかわした。隣に居た神崎かんざきも同程度のスピードで横に跳躍してその場を離れた。


 鵜飼が放った炎は、通過した床を燃え盛らせることはなく、一瞬にして消えてしまった。この部屋の性質か何かだろうか?


「【ヒラケゴマ】だけでは勝てませんよ?」神崎は宙に浮いている。


「分かってるけど――」


 そういえばまだ他の技を思いつけていなかった、なんて言えなかった。


 本物の夢で失敗はできない……と気が急いて、つい無策で誘拐犯に仕掛けてしまっていたのだ。


 他の技について神崎に相談していれば良かった……。そう考えたところで、誘拐犯がこちらに疾走してきた。鵜飼は慌てて誘拐犯に向かって右手をかざす。


「ひ、【ヒラケゴマ】!」


 誘拐犯はこちらに向かいつつ、神速のサイドステップで鵜飼の炎をかわし、体勢を十分に整えてから鵜飼を指差した。あの動作は……、


「しまっ――」


 時すでに遅し。気付けば鵜飼の右手は、手首の付け根から先が綺麗に消滅していた。


「これは【ヒラケゴマ】以外の手段を使わざるを得ませんね」神崎は宙に座った。「良い実戦になりそうです」


 鵜飼は後ろへ跳び退いて、誘拐犯から大きく間合いを取った。 


 鵜飼が着地すると同時に、誘拐犯は床を強く殴りつけた。瞬間、鵜飼の足下が広範囲に渡って紅く輝いた。


(この感じ……ヤバい……!)


 鵜飼は本能的に危険を察知して、紅く輝く床からダッシュで退避。直後、輝きを放った範囲から、極太の火柱が螺旋状に舞い上がった。炎の光が、部屋を赤く照らす。


「危機察知能力は高いですね」神崎は宙に座ってまったりしている。


 炎は床を焦がす等といった形跡を一切残さず、一瞬にして消えた。やはりこの部屋には、そういうものをキャンセルする性質があるようだ。


 それらについて鵜飼が考察していると、その隙に誘拐犯は鵜飼を指差して左手も滅してき、追い討ちをかけた。


「くっ……」


 正に窮地。鵜飼は両手を回復するような『合図』を急いで考える。


「そういえば言うのを忘れていました。鵜飼さん、この夢には……《《自殺者を救うことができる本物の夢》》には『人体の再生』という概念はありません。つまり、夢に入り直さない限り人体の再生は不可能です」


「え、ええ? 早く言ってよ!」


「すみません」


 神崎は宙に座りながら、ニコッと微笑んだ。


「再生は無い、か……」


 だったら、と、鵜飼は窮地の中で、咄嗟にある策を思いついていた。


「じゃあ、【トムとナンシー】!」


 鵜飼が合図を唱えた瞬間、鵜飼の前方に外国人の若い男女二人組が出現。

 鵜飼が招いた二人を警戒してか、誘拐犯はバックステップやバク転等を併用して大きく距離を取った。


「ほう。この状況で召喚に辿り着きましたか」


 神崎は宙に座りながら感心するように言った。


 鵜飼が召喚した男女は、色白で顔立ちが整った、緑色の瞳を持つ金髪の外国人。英語の教科書の会話文でよく出てくる男女二人がモチーフとなっている。彼らが上下緑のジャージ姿なのはご愛敬。


「二人とも頼む」


 鵜飼はまずトム(男)に合図を唱える。


「【装刀そうとう】」


 トムの右手に、いかにも斬れそうな刀が鞘から出された状態で出現。

 鵜飼は次にナンシー(女性)に合図を唱える。


「【装銃そうじゅう】」


 ナンシーの左手にリボルバー式の拳銃が出現。


「なるほど、やりますね鵜飼さん」


 神崎は宙に座りながら言った。


「さあトム、ナンシー、行って!」


 トムとナンシーは頼もしく頷いてから、誘拐犯に向かった。


 そのまま誘拐犯に向かい続けるトム。ナンシーは立ち止まり、誘拐犯に向かって銃を撃った。

 撃ち放たれたのは銃弾ではなく、蒼白い超極太のレーザー。誘拐犯は神速のサイドステップでそれをかわした……かに見えたが、右腕が滅されていた。どうやらかすっていたらしい。


 誘拐犯が体勢を立て直そうとする暇を与えず、向かい続けていたトムが刀で誘拐犯に斬りかかった。


 キン! という爽快な斬撃音と共に、誘拐犯のもう片方の腕が切断された。

 誘拐犯は後ろへ跳び退いてその場を離れ、再び体勢の立て直しを試みるが、今度は鵜飼がその暇を与えない。

 鵜飼は誘拐犯の背後に回り込んで、


「【ミギテ借り出し】」


 と静かに合図を唱えた後、誘拐犯の背中に『右手』をピタリと付けた。


「ゼロ距離ならかわせないよね? 【ヒラケゴマ】」


 ゴウッ! と鵜飼の『右手』から炎が放出された。鵜飼の【ヒラケゴマ】をゼロ距離からマトモに喰らった誘拐犯は、白い煙となって完全に消滅。


「……勝った」


 鵜飼は大きく息を吐いた。夢の中なのに、全身にはまだ実戦の緊張感がほのかに残っている。


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