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夢の中の誘拐事件  作者: 灰色坊や
第1章∶動き出す希望と、目覚める本能
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【15話】誘拐犯との初戦闘!


「……えーっと……聞いてますか?」


 覆面の男は未だ尚、静止し続けている。


「何だあいつ……。ていうか、あれは何だろう?」


 男の足下には黒塗りの棺桶が無造作に置かれている。何だか良く分からないが、とりあえず鵜飼うかいは男に接近してみることにした。


 始めはゆっくりと慎重に覆面の男との間合いを詰めていた。しかし覆面の男があまりにも無反応だったため、途中からは緊張感が無くなってしまい、普通のペースで歩み寄っていた。


 結局、覆面の男は鵜飼が真正面まで来ても、終始微動だにしなかった。


「何なんだよこいつ……。誘拐犯じゃないのかな?」


 鵜飼は覆面の男の肩をポンと叩いた。瞬間、覆面の男はぬるりと動きだし、鵜飼の胸に神速の掌底を放った。


『ドン!!』


 鈍い音と共に、鵜飼は後方に勢い良く吹き飛ばされた。そのまま製造機に背中からぶち当たって、全身がめり込んだ。でも夢なので痛くない。


「な……んだ急に……」


 突然のことに、鵜飼の脳内は掻き乱された。

 次第に混乱が解けていって、『覆面の男に攻撃された』と鵜飼は知覚し始める。


「なるほど……やっぱりあいつが誘拐犯なんだね……」


 鵜飼は製造機から抜け出して、ベルトコンベアーに着地。一方、覆面の男はゆったりとしたペースで鵜飼に歩み寄ってくる。


 いや、覆面の男は棺桶に向かっているようだ。意図はさっぱりだが、とにかく隙だらけなのは確かだ。その好機に、鵜飼は覆面の男に向かって右手を広げた。


「【ヒラケゴ――」


 刹那、合図に割り込むようなタイミングで、覆面の男は右手で鵜飼を指差した。


「――マ】」


 と鵜飼は唱えきったが、右手から炎が放出されることはなかった。それもそのはず。鵜飼がかざそうとした右手は、いつの間にか手首の付け根から先が消滅していたのだ。


 出血は無く、その断面は白くて、マネキンの手がもげた後のようになっている。勿論夢なので痛みは無い。


 いつの間に……と焦る鵜飼。覆面の男はというと、そのままゆっくりと棺桶に到達。覆面の男は棺桶に合わせてしゃがみ、手刀で棺桶の中心を豪快に貫いた。

 ゴシュッ! と鈍い音がして、棺桶は粉々に砕け散った。それと同時に覆面の男は煙のように姿を消した。


「一体何が……」


 しばらくすると、謎の力が働いて、鵜飼のまぶたが静かに閉じられた。


 ゆっくりと目を見開くと、薄暗い天井が見えた。鵜飼はベッドから体を起こして、すかさず右手を確認――。


「……ある……」



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