【14話】ついに誘拐犯と初遭遇
気付けば、鵜飼は夕焼けに染まる工場の前に立っていた。
何かの製造所……だろうか?
無数に刺さった煙突からは白い煙が出ている。
噴出された白い煙は、夕焼けによって赤みがかっており、何かと不気味な雰囲気を漂わせている。
「普通に考えると、この中……だよね?」
工場を封鎖する門は錆びていて、鵜飼の背丈ぐらいはある。鵜飼は夢の力を借りて二メートルほど跳躍し、錆びた門を突破した。
「こういうことはできるみたいだね……」
どうやらこのような類の動作は、いちいち合図を言う必要は無いらしい。そのことをしっかりと把握してから、鵜飼は忍び足で工場の入り口に向かった。
(いや、正面からはまずいかも……)
向かう途中に勝手口が目に入り、鵜飼は迅速かつ慎重にそこへ向かった。そして扉をそっと開けて中を確認。
(……ん?)
ベルトコンベアーとそれに繋がる何かの製造機、褐色の床は滑りにくい。
スクラップ機……だろうか? それらしき巨大な機械も置かれている。
しかしそれらの全ては停止しており、錆びていたり欠けていたりと、長年に渡って使われていないことが分かった。それでも煙が出ていたところは夢特有のバグなのだろう。
鵜飼は物陰に隠れつつ、慎重に奥へと進む。
(――っと、危ない……)
人影の存在に気付き、鵜飼は急ブレーキ。
素早く物陰に隠れて人影を覗く。
(何だあいつ……)
工場の中心の何も無い場所に、中肉中背の男が立っている。上下に青のジャージを着たその男は、何故か覆面を被っている。
男が被っている覆面の不気味さに、鵜飼は思わず首を引っ込めた。
(何だあれ……)
鵜飼は勇気を振り絞って男を再確認。
男が被っている覆面には、目や鼻や口の部分に穴が無く、まるでフェンシングの選手がするマスクのような形をしている。
覆面には無数の横線が引いてあり、それらは数センチほどの隙間が空いている。その隙間ごとに色が塗られていて、赤、青、黄、緑……等、多くの色が使われている。
多色の……いわば虹色の覆面を被る男の不気味さに、鵜飼はゾッと背筋を凍らせていた。
(気持ち悪いな……。ていうか、あいつ生きてるのかな?)
男の不気味な点は虹色の覆面だけではなかった。
普通の人間なら呼吸をすれば胸が動いたりするはずなのに、男のあらゆる部位はピクリとも動いていないのだ。まるで石像の如く、直立不動している。
(まあ、夢だし……。ていうか多分、あの虹色の覆面を被った人が誘拐犯だよね……)
他にそれらしき人物は居ないので、そうなのだろう。
(あんな気味悪い人と闘いたくないけど、やるしかないよね……。戦闘に慣れなきゃいけないし……。早く終わらせないと目が覚めるかもしれない……)
鵜飼は深呼吸をしてから、
「ゆ、誘拐した人を……えっと、解放しろ!」
勢い良く飛び出した鵜飼だったが、覆面の男は微動だにしなかった。
「えっと、誘拐した人は何処か……教えてくれない……かな?」
覆面の男は石像の如く、動かない。