【13話】それは恥ずべき行為だった
「では鵜飼さん、今から誘拐犯との戦闘に向かって下さい」
「ちょ、ちょっと待ってよ……」
「……何でしょう?」
「あのさ、誘拐犯との戦闘とか……急に『やれ』とか言われても、その――」
「あなたの思うように闘えば良いのです」
表情は柔らかではあるも、神崎は急いだ様子で鵜飼の言葉を遮った。
「先日見せた夢と同様に、この夢も、あなたに自殺者を救うことができる夢の大まかな流れを知ってもらうための舞台でしかありません。ですから、誘拐犯に負けても《《自殺者が出ることはありません》》し、鵜飼穂苗の蘇りが遠のくこともありません。『戦闘』に関しては、また後日、説明させてもらいます」
「……そっか……。でもやっぱり戦闘に関しても説明してほしいかな……。穂苗の蘇りに関わる夢を見る時のために、なるべく早めに夢のことを全て知っておきたいから」
うーん、と神崎は可愛らしく唸る。
「そうですね……。できれば戦闘の説明もしたいところなのですが、なにぶん、私も忙しい身でして……。これから『他の夢』に出向かなければならないのですよ。夢の説明をしなければならない人は……蘇りを求めている人は、あなただけではありませんので」
そのことを聞いて、鵜飼は自分を恥じた。
他にも沢山『蘇り』を求めている人が居るのに、自分のことだけを考えて説明を求めるだけの自分を恥じた。
自分だけが悲劇の人だから、自分だけが特別なチャンスを得ているからと思い込んで、それに甘えて求めるだけの自分を恥じた。
(僕は馬鹿だ……)
穂苗の蘇生に目が眩んで、全体を見ていなかった。
つい、自分が『全て』の世界に入ってしまっていた。
「鵜飼さん? 急に思い詰めた顔をして、どうしましたか?」
「う、ううん、何でもないよ」
「そうですか。では気を取り直して、鵜飼さん、廊下に出ましょう」
神崎と共に、鵜飼は教室から廊下に出た。廊下には無表情の男が、右手を差しだしたまま静止し続けている。
「この男と握手をして、救出の意志を強く念じて下さい。そうすれば誘拐犯と誘拐された人のもとへ一瞬にしてたどり着けます。私は別の夢へ向かうので、この先はあなたなりに動いてみて下さい」
「……うん、分かった」
鵜飼は男の右手と握手し、救出の意志を強く念じた。
直後、鵜飼の視界は、電源コードを無理やり引き抜いたテレビ画面のようにプツンと暗転した。