【11話】夢の取り扱い説明
「少々間が挟まれたので、先ほどのおさらいをしましょうか、鵜飼さん。夢で誘拐された三人は、現実世界で自殺する人の一部です。あなたは彼らを救うことができますが、その中の一人しか救うことができないのです。つまりあなたは三人の内、一人の命を選ぶのです」
「……うん……」
「夢で助けた人は現実世界で自殺をしません。しかし、残りの二人は自殺します。勿論、助けに行っても助けられなかったら、その人も自殺します。制限時間は、あなたが目を覚ますまで……です。救出中にあなたが夢から目を覚ませば、自動的に救出失敗となり……後は分かりますよね? まあ、基本的な説明はこれぐらいです。何か質問は?」
鵜飼が「あの」と言うと、神崎は「どうぞ」と言わんばかりに微笑んだ。
「つまりこの前の……最初に見た夢の中では『失敗』ってことになって、三人とも自殺したってこと?」
いえ、と神崎は素早く否定。
「この間の夢はデモンストレーションのようなものでして、自殺者には関係ありませんよ」
「そっか……良かった……」
「では次に段取りを説明します。話についてきて下さいよ?」
「大丈夫。頭に入ってるから、続きをお願い」
鵜飼が真剣な顔つきで言うと、神崎は微笑んだ。
「段取りを説明します。まず、教室の黒板に書かれた三人の名を確認します。次にあなたがすることは『協力者』を待つことです」
「……『協力者』?」
「はい。三人の内の一人が誘拐された場所に導いてくれる人のことです。この前あなたが見た夢で言えば、藤井一輝さんが『協力者』に該当します。突然、廊下の先から走ってきて、あなたの真正面に立ったでしょう? そういう人を廊下で待つのです。ほら、噂をすれば来ましたよ」
神崎の視線を辿ると、廊下の先からスーツ姿の見知らぬ男が走ってきていた。
中肉中背で眼鏡を掛けたその男は、無表情で鵜飼の真正面で立ち止まった。
対応の仕方が分からず、鵜飼は神崎に問いかけの視線を当てた。
「黒板に書かれた名前の内、一人の名前を言うのですよ」
「えっと、じゃあ……星川友喜――」
鵜飼が名を言った直後、
「ヨーロッパ! 赤いポストと共に!」
男は無表情のまま、意味不明なことを叫んだ。鵜飼はすかさず神崎に視線をやる。
「全く意味の無い言動なので、気にしなくても結構ですよ」
「……そ、そうなんだ……」
意味不明なことを叫んだ男は、鵜飼に右手を差しだしてきた。その表情は未だに無表情。
「これって……もしかして握手すればいいの?」
「その通りです。握手して、救出の意志を念じれば、誘拐された場所に転移できます。が、その前に『誘拐犯』との戦闘の説明をします」
「誘拐犯と……戦闘?」
「はい。現実世界でも誘拐された人を救出するには、誘拐犯を捕まえなければならないでしょう? それと同じように、この夢の中では誘拐犯と戦闘し、倒さなければなりません。あなたが誘拐犯を倒せば救出は成功となり、やがて強制的に目が覚めます」
「それってつまり……誘拐犯に勝てば、選んだ一人は自殺しなくなるってことだね?」
神崎は静かに頷いた。
「誘拐犯に対抗する手段は様々です。呪文や魔法、超能力。他にも霊能力、忍術、剣術等々……何でもアリです。何せ夢ですからね。でも『対象を一瞬にして完全に滅する』等といった反則的な効果のものは存在しません」
すると、神崎は教室のドアを開けた。
「では今から教室で、ちょっとした動作テストを行います。さあ、入って下さい」
「え? でも……」鵜飼は、右手を差しだしたまま静止する男を指差した。「あの人、このまま放っておいていいの?」
「ええ。何の支障もありません」
「そ、そうなんだ……」
無表情で静止する男を横目に、鵜飼は教室に入った。