【10話】神崎との約束
「僕は……」
ゆっくりと、静かに鵜飼は目と口を開いた。
「僕は……穂苗を蘇らせたい……」
「鵜飼さん……」
神崎は悲しげな表情だ。気に病む鵜飼を心配してくれているのだろう。
「どうしても会いたいんだ……。会ってまた、元気にはしゃぐ穂苗と喋りたい……。助けに行けない二人には悪いけど……やっぱり会いたいんだ……」
神崎は険しい表情で深く頷いた。
「あなたの決意、しかと受け取りました。これにて私が約束しましょう。鵜飼穂苗の蘇りまで、あなたを導くことを」
「……うん……」
命を選択する……。その太いトゲが心に突き刺さっていて、鵜飼は素直に返事することができなかった。
「鵜飼さん。そう気に病まないで下さい。我々が何もしなければ、三人とも自殺するのですから。その中の一人を『救える』と考えて下さい」
「……うん……そう考えることにするよ……」
とは言ったが、やはり心のトゲは抜けない。鵜飼の表情からして、神崎にもそれが伝わってしまっているだろう。
「鵜飼さん。一つ、約束しませんか?」
「……約束?」
すると、神崎は右手を鵜飼に差しだして、その小指を立てた。
「私と、そしてこの先、救出に行けない自殺者たちに約束して下さい。鵜飼穂苗が蘇った後も、一つの命の大切さを忘れないことを約束して下さい。どうかその優しさを持ち続けることを約束して下さい」
「……君と……この先助けられない自殺者たちに?」
「……はい。そうすればきっと少しは報われるでしょう。あなたが救出に行けなかったことによって自殺してしまう人も、その遺族もきっと、少しは報われるはずです。そう信じるしかない、としか言えませんが」
とても悲しげな表情で小指を立てる神崎。その、優しさに包まれた彼女の小指と、鵜飼は静かに小指を合わせた。
「……分かった……約束するよ……。君と、救えない人たちに」
「少し出過ぎたことを言ってしまったかもしれませんが」
「そんなことないよ。逆にありがとう。神崎のお陰で、ちょっと楽になれたから」
鵜飼と神崎は微笑み合った後、静かに指切りを解いた。
「何だか凄いね、神崎って。僕と同い年なのに、そういう考え方ができるなんて」
いえ、と神崎は恥じらうように跳ね上がった髪の毛をいじった。
「では鵜飼さん。夢の説明の続きをさせて頂きます。準備は良いですか?」
「あ、うん……」