【初日の出リレー】
目に留めていただき有り難うございます。
お試し投稿です!
更新しまくると思うので宜しくお願いしますっ。
どうぞ読んでみてください♪
『プロローグ』
この物語はフィクションだ。
厳しいこの世界に活動している未成年者も少なくは無い。
例えばーアナウンサー、ゲーマー、大女優、アイドル練習生、それにー大人気の歌手。
「君たちにやってもらおうかな。」
彼女に会った時から、彼らの運命は決まっていた。
〝さあ、俺たちの新しい幕を開けよう”
これは,俺ら物語だ。
主な登場人物
柊鳴 流夏ルカアイドルの研究生。優しいが、怖く見られがち。ラテたちと一緒に「初日の出リレー」と言う企画をすることになった。
森中 蘭天(RATE) 可愛らしい歌手。フレンドリーな性格で、ルカたちと一緒に「初日の出リレー」と言う企画をすることとになった。オレンジ色のキラキラの目。
片方だけ三つ編みの黒い髪。
赤いピンを前髪につけている。
服装は白いパーカー。
ツキ 有名な大女優で、アイドルの活動も少ししている。おとなしい性格。
龍斗 明るい性格の天才くん。色々な知識を持っている。
結和 しっかりとした性格のアナウンサー。「初日の出リレー」という企画のメンバーで、リーダーを務める。
〜第一話 幕開け〜
ガチャ、と俺はドアを開ける。
その瞬間、ふわっと何かが俺の視界を薄ピンク色に染める。
あとからふわふわとどんどん雪のようなものが天から降ってくる。
上を向く。
満開の桜が咲いていた。
今年も、春が来る。
「今年もきれいだなあ。
ん、アイスの販売機がある。」
俺は道のそばで見つけたアイスの販売機の目の前に行く。
クールに見られることが多い俺は実は,甘いものー特に,アイスが大好きだ。
俺はその中の一つを選ぶ。
お金を払い、
「ソーダキャンディ ソーダくん!」
を手に再び歩き出した。
「初日の出リレーか。
どんな奴がいるんだろ。」
俺が向かっているあるビルが見えてきた。
この先にはどんな奴がいるんだろ。
その人たちと俺はどんな未来を描くのだろう。
桜はまだ、舞っている。
〜第二話 始まりは〜
「ふう。」
やっとレッスンが終わった。
今日は土曜日。
明日は日曜日。数少ないお休みの日だ。何をしよう。
俺は、そんなことを考えながら更衣室へと続く通路を歩いていた。
「柊鳴くん。」
俺の苗字を呼ぶ声に気づき、足を止める。
呼ばれた方ーとなりを見るといつものスタッフさんが黒いキャップを被った男性と一緒に立っていた(スタッフさんも男性なんだけどな)。
「どうしました?」
そういえば、どこかでデビューが決まった人はこっそり呼ばれてそれを告げられることがあるということを聞いたことある。
そんなことをぼんやりと考えながら、俺はなんですか、とスタッフさんに問いかけた。
「こちらの方、マネージャーさんの山田さんっていうんだけどね、山田さんが考えたある企画に柊鳴くんに出て欲しいんだって。」
「こんにちは。」
山田さんが、帽子を取り、礼を一度して俺の方を向いて。
「僕が山田だよ。今回、僕が考えた「初日の出リレー」っていう企画に柊鳴くんに出て欲しいんだ。」
歳は30歳ぐらい前半。髪は少く短く,茶色に染めているようだ。
そんな情報を頭の中で山田さんという名前とくっつける。
「企画に出させていただけるなんて光栄です。どうぞよろしくお願い致します。」
もししかして企画に出て少しでも知名度が上がったりしたら、デビューさせていただけるかもしれない、と考えながら俺は頭を下げた。
俺が頭を上げたのを確認してから、山田さんは俺に一通の封筒を手渡した。
「ここに詳細は書いてあるから。是非、目を通しておいてね。じゃあ、約束の時間に約束の場所で。」
山田さんはそう言って片手を上げ行ってしまった。
俺は、いつものスタッフさんにペコリと頭を下げ、更衣室へと向かった。
〜第三話 出会い〜
俺はあの日に家に帰ってすぐに封筒の中身を読んだ。
そこには、こんなことが書いてあったんだ。
「初日の出リレーの参加者様へ」
こんにちは、山田です。
この度は僕が提案した企画、「初日の出リレー」への参加の決定をありがとうございます。
この企画は「〇〇駅」から「東京湾」までの20キロメートルを1月1日の日の出までに5人でリレーを繋いでいって、初日の出を見るという企画です。
参加者は、4月□日10:00に上記の地図の場所に集まってください。
参加者一覧(仮)。
柊鳴流夏
森中蘭天
有栖月
星野龍斗
白雪結和。
最後にもう一度、参加を決めてくださってありがとうございました。
4月□日に会えることを楽しみにしています。
山田。
俺はハッと我に帰る。
そうだ、今は電車に数十分揺られ,集合場所のビルに入る所だった。
「よろしくお願い致します。」
そっと、頭を下げて、指定された部屋に入る。
まだ誰も来てないようだ。
俺は一つの椅子に座り、ソーダくんの袋を開ける。
口に含んだとたん、ソーダのいい匂いと、ひんやりとした冷気がふわっと漂う。
かじるするたびにシャリっ、シャリっ、ひんやりとした爽やかな音と感触がする。
俺はしばらくソーダくんを楽しんでいた。
ガチャ、ドアが開く音がしてそちらを向く。
「ここのビル、意外と綺麗だよね〜。」
高くて可愛らしい声がした途端、ガヤガヤと部屋の中が少し賑やかになる。
数人が部屋の中に入ってきた。
中心にいるさっきの声の子を見る。
オレンジ色のキラキラの目。
片方だけ三つ編みの黒い髪。
赤いピンを前髪につけている。
服装は白いパーカー。
おしゃれだな、と俺は思う。
その子を取り囲むようにして、4人が集まっていた。
しばらくそのまま話していたが、不意に真ん中にいた女の子がこっちを向く。
「ねえ,君の名前は ?」
キラキラとしたオレンジ色に目がこちらを向いた瞬間、俺の顔がほんのりと熱くなる。
他の3人は一緒にいたから、残る1人の俺の名前は知っているはずなのに、俺に聞いてくれた。
きっと1人でいた俺を気にかけてくれたのだろう。
その嬉しさが込み上げてくる。
「俺の名前はルカ。柊鳴流夏。」
「へえっ!いい名前だね。」
その子は嬉しそう笑った。
「私に名前はラテだよ!これから宜しくね。」
彼女が,微笑んだ。
「どうやって書くんだ?」
「ですよね、私も気になってたんです。」
「俺も。」
「私も。本名なの?」」
他の3人もいつのまにか近くに来ていた。
「うん。本名もラテって言うの。本名は、蘭に天って書く。芸能名はカタカナかローマ字。」
「「「「へえ…!」」」」
俺たちの声が重なる。
俺たちは、それぞれ、でも一緒に笑った。
そして、ふと気づく、いつのまにか溶け込めてることに。
と、その時ガチャ、というドアが開く音がした。
入って来た人を見る。
山田さんだった。
今日も、あの黒いキャップを被っている。
「今日は集まってくれてありがとう。僕は、山田だ。」
ペコリと、山田さんがお辞儀をする。
僕たちも小さく会釈をし、
「「「「「よろしくお願い致します!」」」」」
と、言った。
「まずは、お互いが初めて会う人もいるだろうから、自己紹介をしようか。」
山田さんが言う。
椅子は、学習室に普通あるような真っ白い椅子と机の組み合わせで、それぞれに一セットあり、横に一列に並んで居た。
一番左はー俺だ。
「柊鳴流夏です。本名は流れるに夏。芸能名はカタカナです。どうぞ、よろしく。」
に、と俺は最後に軽く口角を上げる。
みんなも、ほっと緊張を和らげてくれたみたいだ。
次に、隣の子が立ち上がる。
ラテ(さん?)だ。
「森中蘭天だよ!本名は蘭の花に天。呼び捨てで大丈夫!みんな、よろしくね!」
俺は初めて気づく。
彼女は背が低くて、体が小さかった。
少し、体も弱そうだ。リレーで倒れないかな、俺は少しだけ心配になってしまった。
「あ、そうだ。どこで活動しているかも教えてもらおっか。」
山田さんの声に俺は我に返って、立ち上がる。
「アイドルの研究生です。」
「歌手として歌を唄わせてもらってます。」
その途端、ざわざわとした。
「え、ラテちゃんってRATE?」
「うん!そうだよ。もしかして知ってるの?そうだったらありがとう!」
「「「俺・私も知ってます!」」」
俺たちの言葉が再び重なる。
ラテは、きょとんとした表情になる。
「え、嘘!マジで?嬉しい〜。」
ラテはきょとんとした表情からゆるゆると笑みを浮かべた。
「じゃあ、次。」
会話が長引きそうなのに気づき、山田さんの息遣いが聞こえた。
すっと、女の子1人が立ち上がる。
「有栖月です。」
その女の子が言葉を発した途端静かな衝撃が俺たちの間を走った。
〜第四話 気づき〜
「…。」
「皆様、どうしました?」
女の子が言う。
「えっと、芸能名は?」
ラテが慌てて聞く。
「ツキです。」
またもや、俺たちの間を衝撃が走る。
「ツキちゃんってもしかして、『永遠の絆』の永遠役の子だよね?」
ラテがツキに食い入るように聞く。
「わ、私もそれ見たわ!確か、永遠の役の子が上手すぎて映画の予約が殺到したんだよね!?」
「そう!で、小説も出たんだけど、映画の永遠役の子がいい!ってネットで話題になってた!」
明るくもう1人の男子も言う。
「普段、俺は映画とかアニメとかあんまり見ないけど、永遠の絆は俺も見たよ。」
俺を含める、4人の熱い眼差しを受けてツキは恥ずかしそうにでも、嬉しそうに顔を赤らめた。
「皆様…本当にありがとうございます。」
「では、次の子。」
山田さんが再び言う。
「あ、俺か。」
と言ってもう1人の男の子が立ち上がる。
「星野龍斗っす。えー、主に龍斗って名前でゲーム実況してます。たまにテレビ番組にも出させてもらえるのでよく出てます!」
龍斗は軽く笑った。
「最後は私ね。」
女の子がそっと立ち上がる。
「白雪結和です。テレビのアナウンサーをしているわ。よろしくね。」
高く綺麗な聞き取りやすい声が部屋に響く。
ーアナウンサー
そうだよな、もう直ぐ俺たちだって大人、になるんだからアナウンサーがいても不自然じゃないのか。
ー僕は改めて、彼女に感心した。
にっこりと結和が笑った。
「では、リーダーを決めてくださいー!」
山田さんが大きな声で全員に呼びかけた。
俺たちは顔を見回す。
「やっぱり、結和ちゃんがいいでしょ。」
ラテが言う。
「ああ、俺もそう思う。ツキは?」
「あっ、はい。結和ちゃんはしっかりしてそうですし、私もそう思います。」
いきなり話を振られたツキは驚きながらもしっかりと自分の意見を言う。さすが大女優。
「俺もそう思うぜ〜。」
「ええっ、星野くんまで!」
「ああ、星野くんまでだぜ。」
龍斗がふざけて言う。
「もうっ、まあ、良いわ。みんながいいって言うなら。」
そう言いながらも結和は少し、嬉しそうだった。
責任があり、やりがいがある仕事が好きなのだろうと、見てわかった。
「では、決まったね。これから練習をしよう。」
山田さんが手を叩き、俺たちはビルの付属のグラウンドへと向かった。
「ああ、疲れた。」
俺は息をフーッと吐いた。
他の4人も汗だくになっている。
実際、みんな運動神経は良かったが、練習が大変だった。
「今日の練習はこれで終わりだ。また明日、同じ時間にあるので送れない様に。」
ありがとうございました。
と、俺たち5人が頭を下げる。
「おい、差し入れがあるから食べてけよ!」
山田さんがみんなにサンドイッチを配る。
ちょうどお腹が空いていた俺たちは目を輝かせた。
「あ、うま。」
サンドイッチに一口かぶりついて、俺は呟いた。
「本当ね。」
一口かじった結和も言う。
「本当だ、すごく美味い!」
龍斗がやや大袈裟に褒める。
「う、卵…。」
ツキが微妙に顔をしかめる。
「どうしたんだ?」
「あ、龍斗くん、私卵アレルギーがあって、。」
「じゃあ、俺のと交換するか?」
龍斗がツキにカツサンドを突き出す。
俺たちのサンドイッチは、卵サンドとカツサンドがある。
「あ、ありがとうございます。」」
ツキがほんのりと顔を赤く染め、お礼を言う。
「役に立ててうれしいよ。」
龍斗もツキの可愛さに目を奪われながら、らしくない様な気がする返事を返した。
「…っ?」
俺はツキと龍斗の2人からラテに視線を移し、驚いた。
「ラテ、本当にそれだけでいいのか?」
俺は驚きすぎて思わず聞いた。
ラテはカツサンドの半分とまだ未開封の卵サンドをしまいながら頷いた。
「もう、お腹いっぱいになっちゃったの。」
「カツサンドも卵サンドもすごく美味しいぜ?俺はカツサンドは食べてないからカツサンドの方は知らないけど。」
龍斗が冗談を混じらせながらラテに言う。
他の2人も心配そうにラテのことを見ていた。
「大丈夫、大丈夫。ちょっと体が弱いだけだから。」
心配しないでね、と言ってラテは椅子から立ち上がった。
〜第5話 外食で〜
それから俺たちは春休みだということもあって、毎日大変な練習をしている。
ほとんどの日は差し入れがある。
山田さんの妻の方がサンドイッチやおにぎりを作ってくれてるらしい。
「今日の練習はこれで終わりだ。また明日、同じ時間にあるので送れない様に。」
ありがとうございました。
と、いつも通り俺たち5人は頭を下げた。
「今日は妻と僕が寝坊をして差し入れがないのでそのまま帰ってね〜。」
と、山田さんが少し恥ずかしそうにいう。
「じゃあ、帰ろうぜ。」
龍斗がいい、俺たちが賛成する。
ビルを出て、同じ方向に歩き出す。
「そういえば、私たちって帰る方向、同じだったんだ。」
ラテが驚いた様に呟く。
「確かににそうだな。今まで一緒に帰ったことなかったから。」
「大体龍斗くんが一番早く食べ終わって、ルカくんと一緒に帰ってますよね。」
「ツキ記憶力いい〜。確かにこれまで男子と女子って別れてるよね。」
「そうね。でも大体それは星野くんが差し入れにかぶりついて食べてるからよね。」
「お腹が空いてるから余計に美味しく感じるんだもん。しょうがないだろ。」
ふふっ、と俺と、同じく笑ったラテが顔を見合わせた。
「あ、じゃあ私こっちなので。」
「私も〜。」
「あ、俺もだ。」
ツキ、結和、龍斗の3人が駅の入り口で手を振った。
俺とラテも手をふり返した。
「私達、同じ方向だったんだね。」
「ああ、そうだな。」
「これまで差し入れがあったからなんか外食って新鮮だね〜。」
「確かにそうだな。」
俺は相槌を打ちながら、ふと思う。
山田さんからの差し入れがなかったら俺たちは毎日の様に外食、または家でお昼ご飯を食べていたのだ。
「もしかしたら俺たちがもっと仲良くなれる様に差し入れをしてくれたのかもな。」
そう思うと改めて山田さんへの感謝が湧いてくる。
「確かにそうかも!」
ラテが大袈裟に頷くので俺は思わずぷっと吹き出してしまった。
ラテ当人は、
「もうっ、何よ〜。」
なんて言ってほおを膨らます真似をした。
「あ、じゃあ私はこっちで外食できる場所探すね。」
バイバイ、と手を振ってラテは違う道を歩いて行った。
ここら辺は人がいっぱいいて明るいお店もたくさんある。
ここならたくさんレストランもあるか。
俺はそう思いながら再び歩き出す。
パン屋、イタリアン、おにぎり屋まである。
あ、おにぎり屋は最近流行っているんだっけ?
色々なお店を覗きながら、一つのお店に決めた。
明るい木造風のレストランだ。
チャリン、とドアを開けるとベルが鳴った。
「いらっしゃいませー!」
定員さんがにこやかに迎えてくれる。
あるハンバーガー店では、女性定員のスマイルで好意と勘違いして告白する人が多くいるとかいないとか。
そんなくだらないことをぼんやりと考えて座るスペースに目を向けた俺は驚いた。
「ラテ…。」
俺は静かに彼女の名前を呼ぶ。
ラテは俺に気づくと手を振った。
「おいでよ!」
ラテの口がそう動いて、小さく声が聞こえた。
ああ、と頷いて俺はラテが座っているソファにに似た椅子の目の前のソファに似た椅子に座った。
「あのね、こ私このジャガイモアンドバターを頼んだんだけど…。」
ラテがお皿を指さす。
そのお皿にはたくさんのチーズととろりとしたチーズがかかっているじゃがいもがあった。
「それで、どうしたの?」
俺は優しくラテに聞いた。
「予想以上に多くて。」
ラテは恥ずかしそうに肩をすくめながら言う。
ー一緒に食べてくれない?
と。
「ええ!?」
いきなりのお願いに俺は驚く。
「だめかな?」
彼女は上目使いに俺を見た。
ラテのためなら。
「うん、いいよ。」
俺は頷く。
ラテはじゃがいもを口にいれ、かかっていたチーズをとろんと伸ばした。
「ん、ありがと。美味しいんだけどね。」
じゃあ、俺はフォークでじゃがいもを刺そうとして、ラテに止められた。
そのかわりラテが新しくフォークを手に取りじゃがいもに刺した。
「はい、あーん。」
大胆なことするな。
心の中でラテにつっこむ。
うう、恥ずかしい。
俺は目を閉じて口を開けた。
じゃがいもが口の中に入ってくる。
そしてあったかいチーズがとろんと口の中でとろけた。
ラテがフォークを俺の口から抜いた。
「美味しい。」
俺は目を開け、目の前の彼女に言う。
「よかった。ごめんね、じゃがいもに付き合わせちゃって。」
いや、大丈夫。
と言いながらお皿を見ると空っぽだった。
もしかしたらあのじゃがいもに全部のチーズをつけたのだろうか。
ふふっと笑いが口から溢れた。
「何笑ってんのよー!」
ラテがからかうように言う。
「い、いや何も。」
俺は顔をぷいとそらした。
「もうっ。照れちゃって。耳が真っ赤だよ。」
お母さんの様な口調でラテが俺をさらにからかう。
「あ、じゃあ俺がお金払ってくるから、」
と赤い耳を隠すように俺は立ち上がる。
「あ、いや。私が頼んだものだし。私が払うから。」
とラテに強い口調に押されて俺は渋々頷いた。
ただ、レストランから出る時、
「楽しいデートを。」
と定員さんに言われて、流石のラテも少し慌てていた。
「じゃあ、バイバイ。」
「う、うんっ。また明日!」
俺たちは駅の改札口で手を振り合った。
〜第6話 秘密の時間〜
これはある日の、私たちだけが過ごした秘密の時間の
物語。
いつものように練習が終わり,帰ろうとした時。
「どうしたの?」
龍斗くんが此方を見て聞いてきた。
「何が?」
いや、と少し笑った。
「今日,結和さんちょっと元気ないなって思って。」
彼が、そう言った途端、
我慢していたものがぱっと溢れた。
あっという間にこらえていたものが視界を歪ませて、視界が、透明な雫で、ぐちゃぐちゃになっていく。
みんなの視線を感じて,痛い。
でもね,
それに比しないくらいすっごくー。
心も、痛い。
「そと、出よう。」
ね、と龍斗くんが言ってくれて、私はやっと頷ける。
外に出ても,彼はなにも聞いてこなくて。
ただ,ベンチに一緒に座ってくれた。
それだけのこと。
なのに,また涙が出そうになるくらい嬉しい。
何故だろうか。
「いつからだろう。」
「ん?」
優しい声音。
「私、みんなにいつもしっかりモノって言われてて。」
頼られていて。
責任がある仕事も。
断れない性格だったから、いつも引き受けていてー。
「なんだろう。いつかそれが自分の仕事みたいに思い込んじゃってて。」
「このあいだ、ね。やらせてもらえなかったんだ。」
アナウンサー。
私の大切なお仕事。
それなのにー
「仕事を?」
「もちろん、私が無理しないように、辛くならないように、できるだけ忙しすぎないように、っていうマネージャーさんの優しさだって言うのは分かってる。」
でもね、
「それからずっと自分が否定されている気がするんだ。」
「そっか。」
「じゃあ、今日ぐらいはその仕事から離れてみようよ。」
風が吹いて,緑がふわふわと揺れた。
「え?」
「一度普段の自分から離れてみたら意外と分かるかもよ。」
一番大切なこと、が。
電車に彼の隣で揺られて、彼の隣でまだ見知らぬ道を歩いて。
やってきた。
「ここのドーナツ屋さん、すっごく美味しいんだ。」
「俺,いつもここでドーナツ買ってて。」
何味がいいー?
そう聞かれて、えっと、とメニューを見る。
メニュー表という文字の下に,可愛らしい字体で商品の名前がが並んでいる。
「じゃあー俺から選ぼうかな。」
と,トナカイのドーナツを指さす龍斗くん。
少し,迷う。
「私はー,ウサギで。」
公園に寄り,噴水の周りがベンチになっていて,そこで食べようという話になる。
今思えば,こんな事するの,久しぶりだなぁ。
可愛らしいウサギのドーナツをじっと見つめていたら,
ぷっと隣で音がする。
気になりそちらを見ると,龍斗くんが小さく吹き出していた。
私は彼にその理由を問いかける。
「ウサギってさ,結和に似てるなって。」
何故か周りの音が小さくなり,どき,と心臓の音がした
そんな気がした。
心臓の音を聞かなかったふりをするべく,私は龍斗くんから顔を背ける。
知ってる。
そう思って,買ったのだもの。
本当の私は臆病で。
そういうところが,ウサギとー。
「そういう, 可愛いところとか。 」
似てるって…。
「!」
甘く,低い。
そんな声がそう奏でた瞬間,私の心臓の音が速さを増していく。
どく、どく。
と。
「ありがとう!」
心から,そう言った。
「ああ。」
彼の答えも。
心からのものだといいな、
そう微笑んんでいたら。
くす,と彼も笑う。
「え?」
「ドーナツのかけら,付いてる。」
え?
ほら,と。
「!」
次の瞬間,私の体は彼の腕の中にいて。
「嘘。」
彼の甘くて低い。
大好きな声が耳元で囁かれて、くすぐったくて。
彼が,私を選んでくれたことが何よりも嬉しくて。
その後2人で食べ合いっこしたドーナツはとろけるほど甘かった。
〜第6話 炎上〜
俺は最近、時間よりも早く行って練習したりしている。
その日も、ちょうど9:00ごろに体育館に着いて覗いたのだった。
そこには
ーツキがいた。
ツキはいつも大体、大人しかった。
そんなツキが体育館で一人で発生練習をしていた。
発声練習が終わると、映画でやったセリフを口に出す。
自分のセリフだけでなく、相手のセリフも。
そしてそれが終わった後はリレーの練習。
何度も何度も向こうから走ってきて、見えない誰かにバトンを渡す練習。
俺は中に入るのを忘れてそれに見入っていた。
10:00になり、ツキがこちらに気づく。
俺はしばらく、あることについて考えていた。
もちろん俺たちは頑張っていたが、そんなに練習するほど熱くはなっていなかった。
本番が近づいたら違うかもしれないが、まだ6月の今、そんなに練習しようとは思っていなかった。
だからこそー。
どうしてツキがそんなに練習に励んでいるのかが気になった。
「ルカくん…?」
ツキが俺を見て声をかけた。
次の瞬間俺は疑問をそのままツキにぶつけていた。
疑問を問われたツキは驚くなく落ち着いて、携帯を操作しあるページを俺に見せた。
「ルカくんは、見たことありませんでしたか?」
「…これなんだ?」
「初日の出リレーの番組の感想を言える場所です。」
荒れているでしょう、とツキは微笑む。
見ると
「うまくねーな。」
「番組打ち切りだぁ。」
「下手すぎて笑える。」
などのコメントが好感や,応援のコメントに紛れていた。
「これ、悔しくないですか?」
ツキが目を伏せ、バッと手のひらを空で開き、握った。
そこには練習場の大きな窓から入ってくる太陽の光が輝いていた。
まるで、手の中にある輝きーまるで星や月のようなものを掴むようだった。
「もちろん、下手かもしれません。ですが、一生懸命練習している私たちと違って、
相手は何もしていない。」
だから、これぐらいの練習じゃ相手は軽く見て平気で此方を傷つけるようなことを言える。
だから、とツキが続ける。
「もっと練習するんです。
私が練習することで、みんなが助かったらー達成できたら幸せじゃないですか。」
ツキの言うことはわかった。
だけどー。
何か違うような気がする。
「私、間違ってますでしょうか?」
目の前にいる,小さいはず女優が微笑んでいった。
俺はその笑顔に寒気を感じた。
その時はまだ、軽く見てたんだ、この出来事を。
でも、俺が想像してなかった方向にどんどん物事が進んでいった。
簡単に言うと、炎上した。
原因はある日の放送だった。
転んでしまったツキに龍斗がそっと、手を差し出したのだった。
「大丈夫か?」
龍斗の小さな気遣いにツキの顔はぽっと桜色に染まった。
これは、きっと番組を盛り上げるため、ツキなりに工夫した演技だったのだろう。
だけれどもーこのせいで、コメント欄がさらに荒れてしまったのだった。
「あれ?これって恋愛番組だったっけ?」
「ツキちゃーん?龍斗様には似合わんよ?これ以上近づくんだったら番組から去れ。」
「龍斗様に近づくなー!」
「…。」
携帯電話を見ては表情を暗くしている俺とツキを見て、ラテが近づいてきた。
「どーしたの?」
「実は…。」
さっきからずっと黙っているツキの代わりに俺が炎上を説明したー。
説明し終わるとラテはにっこりと笑った。
「それならインターネットに接続できないようにしてあげよーか?それ。」
「い、いや大丈夫です。遠慮しておきますね。」
慌てたようにツキがいった。
俺も少しビビる。そんなこともできるのか、ラテは。
「ま、それも気にしなくて大丈夫だと思うよ、嫉妬しているだけだから。」
ラテは明るくからっと笑う。
その笑顔に俺はみとれ、明るい気持ちになった。
だけど、その時の俺は未来を想像できなかったんだ。
家に帰り、ようやく一息ついた時。
プルル、と電話がかかってきた。
ー発信者はラテ。
最初に出会った時に電話番号は交換したが一度も電話をしたことはない。
ー嫌な予感がする。
「つ、ツキが…。」
「え。」
「ツキが、倒れちゃったんだって…!」
ラテから聞いた話はこうだ。
帰り道を急いでいたツキは気づかず、誰かとぶつかって、その時ツキは一応変装していたみたいなんだけどツキだってことがバレちゃったの。
そこまではよかったんだけど、その人は実はツキの活動の反対者だったんだー。
それで,傷つかれ、疲れていたツキをさらに傷つけたー。
俺はツキの家の住所を山田さんに教えてもらった。
山田さんも行きたがっていたけれど俺とラテで行くことになった。
みんなと相談して、できるだけ少ない人数の方がいいということになったんだ。
ピンポーン。
おしゃれな木造建築の家のインターフォンを俺は押す。
「はーい。少し,待っててくださいね。」
ドアが開いて、優しそうなおばさんが出てきた。
俺が口を開く前に、おばさんが俺に話しかけてくれた。
「初日の出リレーのルカくんよね。なかなかのイケメンね。」
「こっちの美少女は,ラテちゃんね!良くテレビで見るわ。」
褒めてくれるおばさんに,俺とラテは会釈。
用件を伝える。
「ツキに,会いにきたのですが。
今会えるでしょうか?」
「どうぞどうぞ、中に入って。」
おばさんは優しそうに微笑み、俺をドアの中に迎え入れてくれた。
「ありがとうございます。失礼致します。」
靴を揃えた後,案内された部屋の前に着く。
おばさんがガチャ、とドアを開ける。
「おばさん!勝手に開けないでよ。」
中からツキの声がした、
いつものおとなしい声ではなく、ちょっと怒った声。
この人が,ツキのおばさんなんだ…。
「ツキ、入っていいか?」
俺がそっとツキへ呼びかける。
「え、待って、ルカ、も来てるの?」
驚いたのか、ガチャ,と音がしてドアが開きとツキが顔を覗かせた。
「…帰って。」
いつも、おとなしめのツキが、通常とは比べ物にもならないぐらいの暗い表情をしている。
「 なんで… ?」
「分かってたんだよ。私なんてっ、企画に参加する資格なんてないこと。」
「ツキ…?」
はあ、とツキが少し、溜息をついた。
隣で,ラテも、驚いたように目を見開いている。
「ラテちゃんは、もういるだけで存在感があって,キラキラと輝いていて,お話も面白いから,みんなに好かれている。しかもかわいくて、歌も上手い。
ルカくんは、クールでカッコいいんだけれど、優しくて、みんなに気遣いができる。しかも、アイドルの実習生だから,運動神経も良い。龍斗くんは,明るくて。優しくて,頭も良い。場を盛り上げる能力があるよね。結和ちゃんは、クールでかっこいいんだけど,みんなのことをきちんと分かってくれる。」
でもー。
「私には,演技以外の武器がないの。ううん。それだけは、ある。って信じてた。」
「でもね、その演技の武器すら活かせなくて。みんなに炎上で迷惑をかけてしまった。」
だから、
「そんな私にもう,あの企画に参加する資格はない。」
「え、?」
「もう、行きたくない。」
「ツキちゃん、、」
だって、とツキが薄く笑ったー、
「何もできない私なんて、いらないでしょ。」
「そんなことー。」
蘭天の言葉をツキが
ほら,
「反論できないでしょう?」
と自嘲するように笑う。
あはは,という乾いた笑いに蘭天が言葉を飲み込む。
「ラテ…。」
思わず,ラテの名前を呼ぶ。
「何しに来たのよ,もう…。」
ツキが呟いて,床にしゃがみ込む。
ツキの様子を伺っていた俺は,ふと気づく。
「このマットって,ミニミニの,限定の?」
「?」
突然の,予想外であろう質問にツキが顔を上げて眉を顰める。
「可愛いよね〜。」
「ツキちゃんも好きなんだ?」
私も好きで,買ったんだよ〜,マットだから床に敷けていつでも見れるのが良いよね。だなんて,ツキに話しかけているラテを見ると俺も話に加わりたくなった。
「ミニミニって,あのゆるふわゲームか?」
「そう!良く知ってるねー、ルカも。」
「わざわざ朝の七時から並んでこれ買ったんだよ〜。」
ラテが笑って,ツキをチラリ,と見た。
「わ,私も朝から並んで買っちゃいました!」
見事,ツキも話に食いつく。
流石のコミュ力に,俺も思わず感心する。
そのコミュ力で,俺も救われたのだ。
「え,ツキちゃんも!仲間~!」
そう言ってツキに寄り添っているラテを見ると,改めて感謝に気持ちが湧いてくる。
ツキの心が開いたのも,ラテのおかげだ。
ありがとうな,ラテ。
次の日,ツキは練習に来た。
そしてー
炎上も,無事収まったのだった。
〜第7話 夏休み(そうめん・おそろい・海に行こう)〜
夏休みになって、暑くなった。
俺は毎日の様に「ソーダキャンディ ソーダくん!」を買ってから行っている。
他の4人は毎日暑くて,とけそうになりながら来ている。
山田さんもそれを察し、毎日の練習はビルについている体育館でやっている。
「練習終わったし、流しそうめんするか!」
山田さんが練習が終わった瞬間みんなに向けて叫ぶ様な勢いで言った。
「え…?」
何を言っているんですか?と言わんばかりの顔で結和がつぶやく。
「え、なんのためにです?」
龍斗も聞く。
「もっと仲を深めるためにとネタのためだぁ!」
山田さんが腰に手を当てワッハッハと笑った。
スタッフさん達が駆け寄ってきて山田さんと相談をした出した。
「今の流しますか」「撮影のどこからにします?」
みたいな声が聞こえ,漏れてくる。
「よし、決まった。」
俺たちは近くの竹藪に連れて行かれ(結和は途中で誘拐かって聞いていた)流しそうめんを始めた。
そうめんが流れ出すと、最初に声を上げたのはラテだった。
俺が取ろうとしたそうめんを横取りしたのだ。
ふふっといたずらっ子ぽく笑うラテに見惚れていたら次に流れてきたそうめんも取られた。
俺たちは争奪戦を始めた。
次に龍斗、ツキ、結和とそうめん争奪戦に加わる。
そして最後は何故か数人のスタッフさんも山田さんもメンバーに加わって
そうめん争奪戦に参加していた(マジで謎だよ)。
それも放送されるらしいが。
そのあと。
俺たちは久しぶりにあの道を歩いていた。
「ねえねえ、柊鳴くんってどうしてそんな涼しそうで,暑そうじゃないの?」
「あ、そういえばルカって毎日アイス食べてるよね。」
ああ、と俺は頷く。
「教えてくれませんか?」
いつもおとなしいツキが珍しく目をキラキラさせて俺に勢いよく聞いた。
「えっと、そうそう。あそこにアイスの自動販売機があるから。」
おれはアイスの販売機を指で示す。
メンバー全員がキラキラとした目で,販売機を見ている。
「ソーダキャンディ ソーダくん!」
を俺は指さした。
「このアイス,めっちゃ美味くて涼しくもなるんだよ!」
「いいわね。」
結和が言う。
「うん、みんなで買おう?」
ラテの提案で全員がそのアイスを買った。
並びながら、全員でアイスを頬張る。
「ああ、美味しい。」
「うんっ。美味しいね。」
「ああ、美味い〜。」
「ひんやりしてますねっ!」
「めっちゃ美味しいわ。」
全員が感想を述べ,
「いつも食べてる時よりもみんなで食べる方が美味しいかも。」
俺が呟くとラテが、
「おお、ルカくん。いいところに気づきましたね〜。」
なんて先生みたいな口調で言ってから笑った。
「みんなで、お揃いだねっ。」
「そうだな。」
ラテ…。
ありがとう。
「ねえねえ、みんなで今度海に行かない?」
ラテの問いかけに
「「「「海?」」」」
俺たちの声が被る。
「いいかも。初日の出リレーのゴールの海にいきましょう!」
みんなが賛成し、その週の土曜日に行くことになった。
「うわあ。」
気持ちー!
とラテが手を伸ばす。
今日のラテは白い長いワンピースに麦わら帽子だ。
爽やかな海と似合っていてとても可愛いらしい。
「うん、気持ちいわね。」
そう言って微笑む結和は肩出しの紺色洋服。
流石,大人の世界で既に生きているプロだ。
服も,お洒落で着慣れている。
きらっと光るものが視界に止まり、それを拾い上げる。
とても綺麗な貝殻だった。
「あ、こっちにも。」
俺はそう言いながら大きな貝殻を拾った。
「ラテ、これあげる。」
「ありがとうっ!」
彼女は貝殻を受け取ると耳に当てた。
「んん、波の音が聞こえる。これで海の音をいつでも聞けるねぇ。」
嬉しそうにラテはつぶやく。
「もうっ、結和ちゃんったら。」
ツキの嬉しそうな声に振り向くと、海の浅瀬でツキと結和が遊んでいた。
ツキが結和に水飛沫をかけた。
「!!」
水飛沫が舞って、太陽に反射してキラキラ光る。
それをラテは楽しそうに見つめていた。
「ほら、柊鳴くん達もおいでよ。」
結和が手真似をする。
俺たちは、結和がおやつを持ってきたのに気づくまで水を掛け合っていた。
「このドーナツ、可愛いでしょ。」
そう言って結和は自慢げに動物をモチーフとしたドーナツを見せる。
「これ、有名なお店で買ったのよ。」
「へえ、凄い!」
ラテが嬉しそうに目を輝かせる。
「どれが良い?」
結和がみんなに尋ねる。
「あ、じゃあ俺ウサギで。」
ひょいっと龍斗がウサギをモチーフとしたドーナツを取る。
龍斗がウサギを選ぶなんて,少し珍しいな。
「あ、ちょっと。」
結和は何故か少し慌てて顔を赤く染めたが,ま、いっかと言って肩をすくめた。
「取っていいわよ。」
「じゃあ、私猫で。」
「わ、私はヒヨコで。」
「じゃあ俺は龍で。」
「私はトナカイね。」
全員がドーナツを手に取り、かじった(龍斗はかぶりついていた)。
「美味しい…。」
ラテが呟く。
「ありがとう、結和。」
「森中さんに気に入ったもらえて嬉しいわ。」
俺もゆるキャラの龍のドーナツにかぶりつきながらチョコの味を堪能していた。
「あ、夕焼け。」
ラテが海の方向を指さした。
海に、綺麗なオレンジ色の太陽が沈んでゆく。
太陽を映している海もオレンジ色に染まっている。
太陽はまるで、ラテの綺麗な目みたいだった。
「ふう、今日は楽しかったわね。」
「そうですね。」
「うん、俺も楽しかったよ。」
「お、珍しいですね〜。ルカが楽しいって言うのわ。」
またラテがからかってくる。
「そういうラテはどうなんだよ。」
「ん、私?私は楽しかったけど疲れちゃったみたい。」
そう言って彼女は肩をすくめた。
「じゃあ、また明日な!」
龍斗が言い、駅の改札口の前で別れた。
〜第8話 異変〜
次の日の練習にラテは来なかった。
山田さんに聞くと、体調不良なんだそうだ。
ツキがお見舞いに行こうと言っていたが、家の場所が分からないので行けなかった。
次の日。
「ごめんね、昨日熱出ちゃって。」
そう言って体育館に入ってきたラテの顔色はいつもよりも少しだけ悪かった。
「ま、無理すんなよ。」
龍斗が励ましたの言葉をかけ、
「無理しないでね。」
結和も優しい言葉を言った。
俺は…いつも元気なラテが体調不良で休んだ事実をまだ受け止めきれていなかった。
ツキも同じようにうつむいている。
「ま、もう元気だから、心配しないでねっ!」
そう言って俺たちにウィンクしたラテはいつも通りだった。
実際に、暑いし練習も大変だったけどこれまで一度もそんなことはない。
この出来事が大きな出来事になることは俺は全然想像してなかった。
ただ、ほんの少しの不安が胸にまとわりついてきた。
そう、決定的な異変を感じたのは次の週だった。
「ラテ、大丈夫か?」
走り終わって少し経った時、まだラテの息が乱れていた。
「う、苦しい…。」
「ラテ…!」
彼女はつぶやくと俺の腕のの中に倒れてしまった。
どうしたの?と、みんなが集まってくる。
「保護者様に電話してくるわね。」
「まずは休ませてあげましょう。」
スタッフさんがどこかにラテを連れて行った。
まだ数人のスタッフさんは俺の近くに来て、何があったかとかを聞いている。
と、何かおかしなものが視界に留まる。
後ろを再度見る。
ー数人のカメラマンさんがカメラを持って体育館を出て行こうとしていた。
もしかして、と嫌な予感が頭をもたげる。
次の瞬間、俺は叫んでいた。
「カメラマンさんっ!今のラテの状態を取るなっ!人のプライバシーだぞ?」
カメラマンさんがビクンッと反応し、俺に謝りに来る。
「ルカくん、かっこよかったです。」
なんてツキが俺に話しかける。
だけど、俺の意識はラテの方にあった。
ラテは、大丈夫なのか?
その疑問ばかり頭にまとわりついている。
そして、次の日も、次の日もラテは練習を休んだ。
そしてその次の日、ラテは練習の終わり頃に現れた。
久しぶりに見るラテはいつものように、可愛らしくて、おしゃれで。
元気だった。
「ごめんね、心配かけて。私実は持病があって持病の検査とかしていて入院していて、なかなか来れなかったんだ。」
これ差し入れね、と彼女が言って机にソーダくんが入った袋を置く。
「わあ、ありがとう、」
と、すっかりソーダくんのファンとなったツキが目を輝かせる。
「ラテ、体調の方はどうだ?」
「うん、取り合図大丈夫だと思う!」
「良かった…!」
俺たちはみんなでホッとした表情を浮かべた。
帰り道。
「ねえねえ、」
ラテが俺に聞いた。
「ん?どうしたんだ?」
「焼き芋、食べよ?」
ラテが静かに言った。
そう、今思い返せばこの日は意外と寒かった。
検査直後のラテはきっと、寒いという理由ではなく,
焼き芋を食べることで一つでも多くの思い出を残そうとしたのだ。
その後の自分の未来を予想して。
「はい、ルカに半分あげる。」
ラテは近くの売店で焼き芋を半分俺に分けてくれた。
「いいのか?」
「うん、せっかくだし。」
ヒュウっと冷たい風が半分にしたばっかりの焼き芋から出る湯気を揺らす。
ゆら、ゆらりと。
まだ湯気はゆらゆらと、震えながら揺れている。
次の日から、ラテは練習には現れなかった。
山田さんに聞くと、きっと事情があるんだな、と繰り返すばかりだった。
だけど、少しずつ寒くなって来る。
「そろそろ、冬ね。」
俺たちが意図的に避けていた言葉を結和が最初に発したのは11月の初め頃、練習が終わったすぐ後だった。
その一言で、俺たちの間に冷たい緊張が走る。
「そ、そうだな…。」
いつも元気な龍斗の声が硬い。
「そうだね。」
ツキも静かに言う。
結和も口を開けて、息を吸って何度も言葉を言いかける。
そのまま、俺たちは駅に向かって歩き出す。
誰も何も言わなかった。
ただ、澄んだ沈黙が生まれただけ。
みんながそれぞれ色んなことを考えている。
それぞれ、バラバラに。
だけど、確実にもう寒くなって来ている。
もうすぐ、冬が来る。
〜第9話 冬の初め〜
そのメッセージが来たのは12月に入って少ししてからだった。
初日の出リレーに向けての準備が本格的に始まった頃だ。
「ルカ、久しぶり。ずっと行けてなくてごめんね。
実は私、脳腫瘍って言う種類の病気で、検査とか入院とか…手術とか、繰り返してたんだけど、この間検査してた時脳のがんの再発が見つかっちゃって。」
ラテが、病気。
すぐには信じられなかった。
続きを読みたくないけど、読んでしまう。
「ずっと治すために手術とかしてて、でも残念ながら、手術は失敗しちゃって!そんで、残り生きれる時間があとちょっとしかないんだって!
だからさ、ルカ。
みんなと一緒に頑張ってね。
私も応援してるから。」
ラテ…。
読み終わった俺の目から出てきた何かがほおを伝った。
その明るい口調が、俺たちを心配させないようにしてくれていた優しさが、なんでか非常に切なくて…。
次の日、俺はメッセージのことをみんなに伝えた。
来たばかりだった山田さんは頷いた。
恐らく、知っていたのだ。
みんなは突然のメッセージに驚いて固まっていた。
いつもならとっくに練習を始めている時間。
だけれども、誰もその場から動こうとしていなかった。
その時ー。
パンパン。
と、手を誰かが鳴らした。
「みんな、練習するよ!」
結和だ。
結和が渋い顔をして手を叩いたのだ。
「もう、12月よ。
しかも、ラテが来られなくなるなら,走る距離は1人5キロメートルに増えるでしょう。」
5キロメートル。
増えた1キロメートルが俺たちに追い討ちをかけるようだった。
「ボーッとしてたらダメよ!
ラテが…ラテに喜んでもらうためには練習しないとでしょう!」
結和の眉がピクり、と動いた。
そう、みんな辛いのだ。
だから、そんな時こそ…。
そうだね。
「結和の言う通りだ。
練習しよう。」
俺がそう言うと、結和が少し微笑んだ。
俺たちは、椅子から立ち上がって練習を始めた。
山田さんもいつもより厳しい。
俺たちはいつもは気にしないところも細かく気にして練習をした。
家に帰って、一息ついていたら電話がかかってきた。
誰だろう?
発信者は
ーラテ。
猛烈に嫌な予感がする。
前にラテが電話を掛けてきた時もそれは大ごとの予兆の様なものだったから。
「る、ルカっ!」
通話を開始した途端、ラテが何かに怯え、怖がっているのが分かった。
「助けて…。」
「ラテっ!」
思わず大声を出す。
いつも元気なラテの声は今は小さくかすれていた。
「怖いの…。」
「今から行くから。待ってろ!」
あまりにも心細くて、誰かに、一緒にいて欲しくてー。
そして思いついたのがルカだった。
そういえば前電話したのは夏前だったなんてことをルカに病院の名前を伝えてから思い出す。
なんで…?
なんで、私なの?
他にもいくらでも人間なんているじゃん、きちんと掃除をやってないやつとか、平気で人に迷惑かけてるやつとかじゃなくて、なんで私なの?
あ、もしかして私、人に迷惑かけてたのかな。
そうなんだね、きっと。
私は学校のみんなにとっては重い病気で死んでしまう子でしかないんだ、みんなと違って。
私も、普通に生きたかったな。
誰かと一緒にもっと笑いたかったし、泣きたかった。
毎日、そんなことばかり考えている。
「ラテ。」
少し低くて優しい声。
私はベットから少しだけ身を起こす。
「る、か。」
彼は頷き切なげに微笑む。
突然、涙が溢れた。
「私、もう生きれないの。病気で、だから、ごめんね、もっと生きたかった…。」
少しだけ驚いているルカに、背を向けてパジャマの袖で目を拭く。
「ごめんね、いきなり変なこと言っちゃって。」
これで、本当は終わらせるつもりだった。
だけど、
「驚いた?迷惑でしょう?私ってね、他の人が病気になれば良かったって思ってる嫌なやつなの。イメージ崩れた?ごめんね、これが本当の私なの。」
冷たく言い放ち、私はベットの中でため息を小さくついた。
やってしまった…。
本当はこんなこと思ってなかったのに。
「…。」
長い時間、ルカは黙ったままだった。
突然、ルカは私に背を向けた音がした。
そっと、私はベットからルカの様子をのぞく。
その途端、ルカがつぶやいた。
「馬鹿。」
ーえ?
「誰もお前のこと嫌いになってねえよ。」
ーそれって、ほんと?
ルカの瞳をみると切なげな色が揺れていた。
「だから、笑って欲しい。」
「天に咲き乱れる蘭のように。花が咲いた後は実を結ぶから。」
私の名前の漢字、覚えていてくれたんだ。
ふいに涙がこぼれそうになる。
それをグッとこらえる。
「でも、綺麗に咲いた桜の実は甘くないって聞いたことがある。桜の話だけれど…。」
私は弱々しく呟く。
私はいま何を言っているんだ。
桜なんて話に関係ないのに。
「甘い方がいいけれど。大切なのはどれだけ笑顔だったかで決まるんだよ。俺らは桜とは違うんだ。
人間だから。実を結ぶなら綺麗に咲いた方がいいだろう。だから,笑顔でいて欲しいんだ。ラテ、
君の人生は君の幸せが一番だから。」
言い終わってからルカはパッと顔を赤くした。
「とにかく、そういうことだから。手術応援しているからな。」
そう言って、ルカは机に四角いものを置いて病室から去ってしまった。
それを手に取ってみる。
蓋を開けると、
「fight!」
と書かれている真っ白い紙に桜が舞っている便箋に書かれていた。
それをどけてみると。
そこにはスノードロップ形をしたものがついているネックレスが入っていた。
スノードロップって知ってる?
真っ白な花びらがランタンのような形で開く姿は、ヨーロッパでは純潔の象徴とされているんだって!
ーそして花言葉は『希望』。
ルカの弾けるような笑顔が思い出された。
ふいに、視界が滲んだ。
ー「笑っていて欲しい。」
ルカの少し低めの,それでも限りなく優しい声。
ねえ、ルカ。
私に勇気をくれてありがとう。
こんな弱い私だけれど、いつか笑顔でいられるように頑張るよ。
その時まで、待っててくれる…?
〜第10話 ショー・イズ・スタート!〜
いよいよ、やってくる。
泣いても笑ってもあと何時間かしたら日が昇る。
今まであまり気にしていなかったが、そういえばこれはテレビに放送されているんだった。
俺たちは真っ暗なうちに〇〇駅に集められた。
年越しそばを食べ、仮眠をとっていたら電話が鳴ったのだ。
準備運動をして、そろそろ始まる。
スタートは龍斗。
アンカーは
ー俺、ルカ。
俺たち(龍斗以外)は電車に乗り、それぞれスタートの場所に待機をする。
最後のツキも降りておれだけになった。
カタン、カタタン。
始発の列車だからか乗っている人は貸切をしていなくても誰もいなかった。
その時、プルル、プルルという音がした。
一瞬俺は驚いたが、電話だと気づく。
発信者は、ラテ。
通話開始ボタンを押すとラテの元気な声が耳に飛び込んできた。
「ルカ!もうすぐ始まるんだってね。
出られないのは残念だけど応援してる。
絶対に成功させてね!」
それだけ言うとお礼を言う暇もなくラテは電話を切ってしまった。
いくら声が明るかったとはいえ入院中だ。
そして、ラテは…。
一瞬思い出し、心が不安の闇に包まれる。
「っ!」
この感じ、前にもあった。
例えば。
俺だけ、バク転ができなかった時。
アイドルの練習生の同じクラスの奴らはもう帰ったのに、体育館で練習していた。
何回も、何回もやっても出来なかった。
もしかして、これからも俺はバク転をできるようにはならないのだろうか。
そう思って、どうしようも無い不安に襲われた。
アイドルになるためには運動神経が良くないといけないと聞いたことがある。
もしかして同じクラスの奴らはみんなアイドルになって俺だけなれない…?
そんなことを考えたこともあった。
それでも、俺はアイドルになりたい。
誰かに、希望を届けたい。
だから、俺は諦めない…!
準備運動を念を入れてもう一度する。
あと少し、あと少しでツキが来る。
あと少し、あと少しで月が今夜で1番の,輝きを放つ。
パンっ。
ピストルの音で俺は走り出す。
朝の空気はひんやりとして寒い。
それは、冬になったと言う証。
もうすぐ大寒(1月20日のこと)だ。
と言うことは…。
もうすぐ春になる。
春といえば俺たちが出会った頃だ。
この一年、色々なことがあった。
いや、この一年だけじゃ無い。
俺が山田さんにこの企画に誘われる前に、俺は悩んでいた。
テレビに出るようになってから、人気になってから、どんどん上の人々に会ってきた。
そのたびに俺は打ちのめされた。
人一倍、いやこの地球上で一番賢くなれるように勉強してきたつもり,だった。
一番,ゲームが上手くなれるように練習してきたはず,だった。
だけれど上には上がいることを知った。
それを知らなかった俺の不甲斐なさと上の人々の凄さに圧倒される。
その度にもっと、もっとやらなければと思う。
段々、目が悪くなってきたような気もするし、寝不足にもなる。
でも、俺は本当にこうなりたかったのだろうか…?
違う、俺がなりたかったものは。
ーなんだろうか。
そう考え悩んでいる日々を過ごしていたある日「山田さん」が手紙を持って来た。
結和が待つ場所が近くなったので俺らしくなく,がむしゃらに走って,少しでも早く君のもとへー。
それでもみんなのためだから。俺のためだから。今そうやって走っていい、そう思えた。
結和の姿がだんだん見えてくる。
この暗闇の中で結和の姿だけがくっきりと見えた。
パシッと音がして、俺はバトンを渡す。
そばに駆け寄ってきたスタッフさんに倒れ込むようにして道路のはじによった。
龍斗からのバトンがパシン、と手に当たる。
そのまま、ぎゅっとバトンを握り走り始める。
この1年間いろいろなことがあったな、そう思った。
もともと私は頑張り屋だった。
だから小学校低学年の時にからかわれたことをきっかけにどうやったら滑舌が悪いのをなおせるかを研究し、夏休みの自由研究として発表した。
発表の時にはもう滑舌は結構良くなっていたから研究の内容と滑舌の良さをかわれて私はどこかの放送局の方にスカウトされた。
気づくと私は子役を始めていた。
そして,どんどん仕事が増えて。
楽しくなって。
ある日,アナウンサーに慣れて…。
でも。
ある日突然、私は何をやりたいかわからなくなった。
アナウンサーと学校の往復で、過密なスケジュールで疲れたところ、あの日「山田さん」が手紙を持って来たのだった。
ツキの小さな背中がみえる。
夜の街にくっきりと浮かび上がった大女優に、バトンを託す。
私は気持ちよく草原を歩いていた。
草を踏みしめるたびにサクッ、サクッといういい音がしている。
あたりにはいろいろな花も咲いていた。
しばらく歩いていくと、川が流れているのが見える。
その向こう側には
ー楽しそうに笑っている人たち。
私は川の前で立ち止まる。
すると、天使のような格好をしている女性が川の向こう立って、私に優しく微笑みかけた。
私は、直感的に,知る。悟る。
この人は天使のような格好をしているしている人ではない。この人は、本物の天使だ。
「こちらにおいでよ。」
天使の囁きに、私は首を傾げる。
「だって、いつも人間は忙しそうじゃない。他の人と同じように、あなたも死にたいって思ったことがあるのじゃない?」
天使は微笑みを絶やさずにいう。
確かに、死にたいと思ったことがあるかもしれいない。
頷きそうになった瞬間、ふと、病室で読んだ新聞が思い出された。
「あの人の分も、生きます。」
そして,ルカの笑顔が思い出された。
そうだ。
私が笑っている時間は、誰かが行きたかった時間、私が死にたいと思った時間も誰かが生きたかった時間。
私が生きている『今』は誰かが生きたかった『瞬間』なのだ。
それにー。
ツキちゃんと、一緒に映画に出てみたい。
龍斗くんに、勉強を教えてもらいたい。
結和ちゃんと、またいっしょにあの美味しかったドーナツを食べたい。
そして、ルカに、好きって伝えてみたい。
そしたら君は、どんな顔をするかな。
私は、首を横に振る。
「まだ、そっちにはいけない。大切な人がいるから。」
まだ私は死にたくない。死ねない。
そう伝えると天使は今まで見た1番の温かな笑顔を見せた。
そして、女性は頷くと、あの笑顔のまますうっと消えていった。
私は目を開く。
夢…。
そばにいたお父さんが涙を流していた。
「良かった。本当に良かった。」
彼に会えるのだ。
また。
一番会いたい彼に、大切なことを伝えるために。
夜が明けて、お日様が顔を出し、病室の窓から明るい光が病室に中にさす。
誰からも理解されないし。
死にたいなんて言えないし。
夜が過ぎればなんて願わなくても。
朝は来ちゃうし。
でもね,彼女が照らしてくれたの。
私の闇夜を太陽のように。
太陽のように輝くその目で私を見つめてくれたの。
だから,救われた。
だから,生きて。
私たちの為にも。
ラテちゃんに想いが届くように,とルカくんにベトンをしっかり渡す。
その瞬間,月が今夜で1番の輝きを放った。
まだ太陽は登らない。
今夜は,満月ではなくて。
本当に良かった。
ああ,届け。
後一歩,もう一歩。
一歩ずつを確実に,少しでも早く。
ゴールが見えてくる。
この1年間を過ごした仲間たちの姿,がまだ暗い夜に闇に見えてくる。
この距離では見えないはずなのに。
3人の笑顔と,ラテの後ろ姿が見えた気がした。
「「「ゴールっ ‼︎ 」」」
俺はゴール地点まで走り切る。
その次の瞬間,みんなが笑顔で迎えてくれる。
そしてー,
ずっと後ろ姿だったラテが振り向き,
太陽のような笑顔を見せた。
「「「「わあ!」」」」
海から登る太陽。
それは俺たちが思ったよりも綺麗で,大きかった。
果てしない海を青く。
空をはちみつ色に。
砂を,白く。
それは
眩しく,全てを洗練されたような色に染めていったー。
次の日は,雪だった。
今日は何故か,朝早く目が覚める。
何故だろう。
君に,無性に会いたくなって。
俺は,走り出す。
君に,出会えて本当に良かった。
白い病室に太陽の光が差し込んでいる。
病院に着いたら山田さんと,3人がいて。
ラテに笑顔を見ながら,俺たちは涙を堪えて,
君の幸せと,俺たちの将来を願った。
〜第11話 エピローグ〜
「君の,全部が好きだったの。」
「君の,生きたかった時間を。」
「僕は,一生懸命に歩いて行く。」
「私は,一生懸命に君を探して行く。」
「「また,あえーるひまでー!」」
俺とツキが歌い終わった瞬間,割れんばかりの拍手が起こる。
はぁはぁ,と息が乱れていて,心臓の鼓動が聞こえる中,俺たちは微笑みあった。
「最高のステージをありがとうございましたー!」
「ルカくんとツキさんのコラボだなんて,最高でした!」
マイクを持って,隣でアナウンサーの結和と,特別ゲストの龍斗が喋っている。
俺は今日も昨日を超える最高のステージを届けることができた。
収録が終わった後,楽屋を出るために扉を開け,俺は驚いた。
綺麗な漆黒の髪に,海のような大きな目。可愛らしい女の子がいたからだ。
その子は,うるうると目を潤ませて俺の方を見ていた。
「あのっ,楽屋まで押しかけてしまってすみません…。」
「ルカさんのファンで,どうしても会いたかったんです。」
何故か,俺もこの子に会わなくてはならなかった気がする。
会ったことも,無いはずなのに。
ぼんやりとして,答えるにも忘れていた俺に,彼女は
「迷惑でしたよね…すみません!」
と,ぺこりと頭を下げ,踵を返す。
「ま,待って!」
俺は我に返り,少女を呼び止める。
驚いた顔で振り返る彼女。
ああ,それで確信した。
丸く,大きく見開かれた目。
綺麗で,まるで吸い込まれそうな目に向かって,俺は言った。
「ねえ,君の名前は ?」
と。
彼女の顔が熱を帯び,赤くなった気がした。
此処まで見てくださってありがとうございました。
更新お待ちいただけたら幸いです。