#5.芸術の都とテイマーギルド
「ここからは私が答えます。」
そう言ったのは、シスターだった。
「申し遅れました。私は、カノン。シスター=カノンです。本名は、カノン=マウント=テイマーと申します。」
シスター=カノンは、頭を下げる。
「よろしくお願いします。お見知りおきを。」
僕は、カノンに優しく微笑みかける。
「確かにここは、貴方の仰るように、【芸術の都】と名乗る、6大国の一つ、フィルドランド王国の王都です。そして、あなたが今いるこの建物は、教会と孤児院。そして、テイマーギルド総本部だった建物です。私の父は、テイマーギルドのギルドマスターです。」
僕は目を見開いて驚く。
教会と孤児院ならわかる。シスターと、子供達がいる。
だが、この建物がテイマーギルドの総本部だとは・・・・・・。
だからかなり大きな建物だったのか。
テイマーギルド。6大組織の一つで、フィルドランド王国では、このテイマーギルドが6大組織の中で、最も大きな組織だったはずだ・・・・・。
だが、この総本部は、いかにも粗相だった。屋根も抜け、ところどころ、傷みが激しく、雨漏りも防げるのか不明な状態だった。
そして、シスター=カノンの父親はどこにいるのだろうか。ギルドマスターならば。
僕の疑問はすぐにカノンが答えてくれた。
「正確には、だったと言った方がいいでしょう。でも、信じてください、ここは2年前まで、キラキラと輝いていた、芸術の都、フィルドランド王国の王都だったのです。私の父も・・・・・。殺されましたから・・・・・。城の兵士たちに。」
僕は息を飲む。
なんと、何ということだ。
ということは、実質、いや、建物を見て当たり前ではあるが。テイマーギルドのギルドマスターを失った今、6大組織の一つ、テイマーギルドは機能していないことが分かった。
最も、このギルド総本部の現状を見て、それは、明らかだった。
「そんな、6大組織の、しかも、この国でいちばん有力なトップが殺されるなんて。一体。」
「それを知っていただくためには、少し昔話を聞いていただく必要があります。」
シスター=カノンは落ち着いて、語り掛ける。
僕は頷く。
「ケンさんはテイマーの戦い方をご存じでしょうか?」
カノンが聞いてきたので、僕は正直に答える。
「魔物とか、動物とかを、契約して、召喚したりして、戦う、もしくは、物を運んだり、仕事したり。ですかね?」
カノンが頷く。
「その通りなのですが。どうやって、それをするかはご存じですか?」
僕は首を振った。
カノンは頷き、竪琴を取ってきた。
だが、確かに竪琴ではあったが、埃をかぶり、大分汚れていた。
「この世界の魔物や動物、その他の生物は、音や絵で、心を左右すると言われます。音楽や芸術は私たちの心、だけでなく、生きとし生けるものすべての心を癒してくれるのです。
テイマーは、特殊な魔力が施された、楽器を使い、音楽を奏で、契約したり、召喚したりして、戦わせるのです。また、音に敏感な生物もおり、そういう生物は美術などを見せて、戦わせます。
私たち、テイマーの武器はこういった、楽器なのです。」
シスターの言葉に、僕も、心が癒された気がする。
「なるほど。だから、【芸術の都】なのですね。音楽と、獣たちの共存という意味で。」
シスター=カノンは頷く。
「はい。ここも、全ての生きとし生けるものと音楽が、互いに共存していました。」
カノンはさらに続ける。
「そして、獣たちが好む音色はそれぞれ異なり、竪琴などの弦の楽器は、地上の特に4足歩行をする生き物たちが好んでいます。この竪琴も、ユニコーンを呼び出すことができました。少なくとも2年前までは。」
カノンの表情が一気に暗くなる。
「2年前・・・・・・。」
僕は少しつぶやく。
カノンは悲しい顔をしながら、魔法陣を出現させる。魔法陣は竪琴の上に出現している。
「こちらを、ご覧いただけますか?」
僕は歩み寄り、魔法陣を覗き込む。
シスター=カノンが、施した魔法陣の正体。それは鑑定魔法だった。
どういった、効果があるのかを確認することができるが、それを見て絶句する。
複雑な闇の付与魔法。さらにそれに準ずる、特殊効果がいくつも付いている。
僕は察した。これが、この竪琴の輝きを保っていない要因だ。
「これじゃ、まるで。テイマーは勿論、魔物たちは、人を襲ってしまうのでは・・・・・・。」
カノンは頷く。
「2年前。魔王軍が攻めてきました。王都は一瞬にして、魔王に乗っ取られ、多くの人が殺されました。中でも、一番ひどい殺され方だったのが、この町のテイマーたちです。その殺され方が・・・・・・。」
カノンは涙を浮かべる。声をあげて泣く。
なかなか言い出せない。
だから・・・・・・。
「自分たちの仲間である獣が、魔王軍の支配に下り、そいつらが暴走した、ということですね。」
「・・・・・。はいっ・・・・。」
カノンは声をあげて泣いた。
「私の父も、母も、兄も、姉も。全部、全部・・・・・。私はその時、隣町に出ていたので、難を逃れました。帰宅したときは、見るも無残で・・・・・。私の友達も、男は殺され、女の子は皆、魔王軍たちの奴隷として売られ・・・・・・。だから私は、この、場所の、この、孤児院の地下にずっと。子供たちと・・・・・・。」
なんということだ。
「この竪琴も、実は、父の形見です。私の竪琴は、もう、壊れてしまいました。」
悲しみの王都。
それでなら、この悲しみも頷ける。廃れた王都の原因も・・・・・。また。
「そして、レオのご両親も・・・・・。」
レオは黙って、僕にフルートを差し出す。
先ほどの竪琴と同じように、見るからに、闇魔法が付与されたフルートだった。
「レオのご両親は、このテイマーギルドで、Aランクの優秀な人物でした。私も尊敬していて、レオは小さいころから知っています。フルートの音は空を飛ぶ獣が好みます。ご両親が、契約をしていた、大きな大きなグリフォンは立派でした。」
カノンはそう言って、レオの頭を撫でる。
「僕、父ちゃんたちと一緒に、空を飛んでみたかった。」
レオは悲しそうな顔で、言う。
何だろうか。僕も涙が止まらない。
レオは確かに僕に襲いかかろうとした。
だが、あまりにも傷の根の深い原因を聞いて、それも許せてしまう。
彼らは明日生きることがやっとだ。
「もう、いいです。よく話してくれました。すまない。辛いことを思い出させてしまった。」
僕は頭を下げる。
僕はレオにさらに、金貨を取り出し。
「どうか、これで生活の足しにしてください。私は。これで。」
レオにあげた金貨とは別に、金貨5枚をシスターに手渡す。
「そ、そんな、ケンさん、これは受け取れません。」
カノンがそういうが。
「いえ。どうかこれで、彼らを護ってください。」
僕はそう言って、立ち去ろうとするが。
「ならば、せめてものお礼として、今夜は泊っていってください。しかも・・・・。」
シスター=カノンは外を指さす。
辺りは真っ暗な夜に包まれていた。
「ああ。夜になっていたのですね。」
「はい。危険です。これから外を歩いて、旅をするのは。恐い魔物もうろついていますし。」
カノンは頭を下げた。
「そうですか。それならばお言葉に甘えて。ありがとうございます。」
「いえ、お礼を言うのはこちらの方です。」
僕と、シスターはお互いに頭を下げた。
ご覧いただき、ありがとうございました。
まだまだ序盤なので、どうなるかお楽しみに。
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