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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

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異世界恋愛

ベッドの上で婚約破棄されました

作者: フーツラ
掲載日:2023/05/10

最後までお付き合い頂けたら幸いです。

「ニーナ、君との婚約を破棄させてもらう」


 窓から差し込む陽の光は柔らかだったけれど、ハロルド様の表情は冷たく強張っていた。


 有無を言わさない、確固たる意思を雰囲気で私に伝えているつもりだろう。


「理由を聞いても?」


「ニーナと婚約してから私は病気になった。未だに原因不明だ。君が見舞いに来る度に酷くなっている」


 随分ないい草。でも、罪悪感からかハロルド様の顔は引き攣っている。


 そして、大きく息を吸った。


「もう、私のところには来ないでくれ! 君の顔は見たくない!」


 ベッドの上で身体を起こし、ドアの方を指差す。


「さぁ、出て行ってくれ!」


 何故、瞳に涙を溜めているのでしょう?


「分かりました。今日のところは帰ります」


「……」


 言葉を詰まらせたハロルド様に会釈をし、ベッドの端から立ち上がる。


 ドアの前まで歩いて振り返ると、サッと顔を逸らされた。一体、どんな顔をしていたのでしょうね……?


 病人にそんな意地悪を言う訳にもいかず、私は部屋を出た。



 廊下を少し歩くと、機を伺っていたかのように男が一人現れる。


「何か……?」


「もうこの屋敷に出入りしないでくれるかな?」


 ハロルド様の弟君、ヒルデブラントだ。


「それは出来ない相談です。ハロルド様から、"また来てくれ"と伝えられましたから」


「そんな訳ないだろ! 兄上は其方に婚約破棄を宣告した筈だ」


「あら、そんなことあったかしら……?」


 ヒルデブラントの顔が歪む。


「話が通じないのか!? これだから辺境の野蛮人は……! 早く出て行け!!」


 はぁ。兄弟でもここまで違うものかしら。


「では、失礼します」


 舌打ちを背に受けながら、侯爵家の屋敷を後にした。



#



 ハロルド様と初めて出会ったのは魔法学園の入学式の日だ。透き通った碧い瞳に金糸のような髪を靡かせ歩く姿を見て、私は一目惚れしてしまった。


 そして、はしたなくも自分から声を掛けた。


「君は?」


「辺境から参りました、ニーナといいます。お名前を伺っても?」


「私はハロルドだ。辺境と言えば……辺境伯の?」


「はい……噂の出来損ないです。上手く魔力を扱えるようになるまで、こちらでお世話になることになりました」


 私は……幼い頃に魔力を暴走させ、城の屋根を吹き飛ばした女として有名だ。


「ははは。面白い人だね。ニーナは」


 自分で話し掛けておきながら、顔が真っ赤になる。辺境では見ることのなかった、美しい男性の笑顔に照れてしまったのだ。


 それからことある毎に私はハロルド様に話し掛けた。彼はいつも気さくに相手してくれた。だから、侯爵家の嫡男だと知った時はとても驚いた。中央の高位貴族の人達はきっと傲慢に違いないと決めつけていたのだ。



#



 二人の関係に変化があったのは現侯爵、ハロルド様のお父上がご病気で伏せられた時だった。


 当主が倒れ、嫡男に婚約者がいないのは如何にも不味い。となったのだろう。


 ハロルド様の周囲は俄に慌しくなり、次々と縁談が舞い込んだ。しかし、彼はそれらを悉く断った。そして──。


「私と結婚してくれないか?」


 今思い出してもニヤけてしまう。確かに私とハロルド様は仲が良かった。でもまさか、プロポーズされるとは思ってもいなかった。


「喜んで!」


 辺境伯である父に相談することもなく返事をしてしまった。


 辺境はちょっとした騒ぎになったらしいけれど、私には関係ない。乙女の一目惚れを舐めないで頂きたい。



 それから少しの間、幸せの絶頂だった。ハロルド様が原因不明の熱で苦しむようになるまでは……。


 最初の頃、彼は無理をして魔法学園に通っていた。「侯爵家の当主が倒れている時に、嫡男まで病気となれば妙な噂が立ちかねない」と言って。


 しかし容態は悪化し、ハロルド様はベッドに寝たきりとなった。


 現侯爵に続き、嫡男までも。


 国中の名医が呼ばれたが、一向に良くならない。


 学校内では「新しい流行病では?」と噂になりつつあった。


 勿論、私はそんな噂なんて気に留めない。授業が終わると彼の元へと向かった。


 毎日、毎日。


 そして、あの日の婚約破棄である。



#



 夜半。もう寝ようかという時に寝室のドアがノックされた。声は執事長のジルドレだ。


「どうしたの?」


「お嬢様……ヒルデブラントに動きが。スラムで情報屋と会いました」


 ついに尻尾を見せたわね。


「相手は確保したの?」


「勿論です。地下牢におります」


 ジルドレはニヤリと笑う。今でこそ落ち着いた老爺だが、元々は辺境の随一の冒険者だ。荒事には慣れている。


「行きましょう」


「はっ!」


 ジルドレは張り切った足取りで地下牢へと私を案内した。


 王都の屋敷にこんな設備があるなんて、辺境伯が野蛮と言われる所以かもしれない。


 そんなことを考えながらカビ臭い階段を降りると、鎖に繋がれた男がいた。痛めつけられたようで、鼻血を流している。


「あなたが、ヒルデブラント様のお友達の情報屋さんね。最近、彼から何かお願いはされなかったかしら?」


「そ、そんな奴、知らねえ……!」


「侯爵家が怖くて口を噤んでいるの? だとしたら、自分が何処にいるか理解した方がいいわよ?」


「……ここは?」


「辺境伯が王都に所有する屋敷よ」


 情報屋の顔色が変わる。


 王都の人々にとって、辺境伯は力で全てを解決する悪漢として有名だ。実際にはそんなことないのだけれど……。


「頼む……! 殺さないでくれ! 何でも話すから!!」


「素直ね。じゃあ、もう一度聞くわ。ヒルデブラント様に何をお願いされたの?」


「呪術師を紹介してくれと言われた。どんだけ毒を盛っても死なない相手がいるらしい。だから、次は呪術で何とかしたいと」


 ……どれだけ毒を盛っても死なない? ハロルド様のこと? まぁ、いいわ。後回しね。


「で、紹介したの?」


「あぁ。異国の呪術師の住処を教えた」


「私もその呪術師の住処、知りたいんだけど……」


 情報屋の額から汗が流れ落ちた。


「分かった……。教える」


 私はジルドレに目配せをした。


 これから、忙しくなるわね。



#



 埃っぽいバーの店内に、男が二人入って来た。


 カウンターの中に立つ私を見て驚き、一瞬動きを止める。そしてキョロキョロと忙しなく首を振りながら、席についた。


「いらっしゃい。酒かい? それとも、別の用事かい?」


「別の用事だ……」


 見覚えのある使用人が答えた。


「ちょっと待って。今、店の鍵を閉めるから」


 鍵を閉めてカウンターの中に戻ると、二人は少し落ち着いたようだ。急に話し始める。


「呪術師と聞いて老人を想像していたが、声は若い女だな」


 主人の方が意外そうに言った。


「若い女じゃ不満かい?」


「い、いや。そんなことはない。凄腕の呪術師と聞いて相談に来たんだ。仕事を頼みたい」


 もう後がないのか、焦っているようだ。


「話を聞かせてもらえる?」


「実は……殺したい相手がいるんだ。奴はいくら毒を盛っても死にやしない。異国から仕入れた強力な毒なのに、いつまで経っても生きていやがる。そこで、呪術師の噂を聞いてここに来たんだ。受けてくれるか?」


「仕事だからね。受けるよ。相手は?」


「侯爵家の嫡男、ハロルド」


 なんとまぁ。ぬけぬけと。


「……金貨100枚出せるかい?」


 主人と使用人が顔を見合わせた。


「侯爵の位を継げば、それぐらいなんとかなる! だから、力を貸してくれ!」


「ツケかい? それは出来ない相談だよ。ヒルデブラント」


 呪術用の仮面を脱ぎ捨て、素顔を晒す。


「なっ……ニーナ……! 何故ここに……!?」


「中央の貴族はちょっと弛んでいるんじゃないかしら? 行動が筒抜けよ」


「ふざけるな!」


 ヒルデブラントと使用人がナイフを抜いた。しかし──


 ドンッ! とカウンターが内側から倒れ、二人は下敷きになる。


 隠れていたジルドレが押し倒したのだ。


「失神してやがる。中央の貴族はやわですねぇ。お嬢様」


「本当に」


 二人をロープで縛り上げ、馬車を呼んだ。



#



「……と、いう訳らしいです」


 記録の魔道具が再生した私とヒルデブラントの会話を聞いて、ハロルド様はベッドの上で頭を抱えた。


「ニーナ……すまなかった。私は君に酷いことを言ってしまった」


 碧い瞳が潤む。


「平気よ。本心じゃないってわかっていたから。どうせ、ヒルデブラントに唆されたんでしょ?」


「……」


「"病気が治る見込みがないのなら、婚約破棄すべきだ。今のままだとニーナを不幸にしてしまう"とか言われたんじゃない?」


「……その通りだ。私が愚かだった……」


「あの男、私が侯爵家に出入りするのが嫌だったんでしょうね。でも、すぐ分かったわよ。ハロルド様は何でも、表情に出ちゃうから」


 そう伝えると、バツの悪そうな顔をした。


「我ながら、貴族に向いていない性格だと思う」


「私はそこも含めてお慕い申しております」


 黄金色の髪が揺れる。


 見惚れていると、ハロルド様の手が伸びてきた。


 抱き寄せられ、すぐ側で熱を感じる。


「ニーナ……。私と結婚して欲しい」


「喜んで」


 二度目のプロポーズもずっと私の記憶に残ることでしょう。



#



 ハロルド様に毒を盛っていたヒルデブラントは勘当され、侯爵家から追放となった。その姿を最後に見かけたのは王都のスラムという話だ。


 ハロルド様の体調はすっかりよくなり、もう魔法学園にも復帰している。


 そして私はというと──。


「ニーナ・ゲオルグを聖女に認定する!」


 枢機卿から、聖杯で清められたワインを与えられた。


「謹んでお受けいたします」


 教会の聖堂に大きな拍手が鳴り響いた。


 振り返り来賓に礼をする。顔を上げると、最前列でハロルドが瞳に涙を溜めていた。本当に涙脆い。


 何故こんなことになっているかというと、私がうっかり聖なる魔力を発するようになったからだ。


 いくら毒を盛られてもハロルド様が死ななかったのは、私が毎日ベッドまでやってきて、聖なる魔力を撒き散らしていたせいらしい。無自覚に、癒していたのだ。


 魔法学園に講師としてやってきた司祭に指摘されて初めて分かったのだけれど……。


「ニーナ、おめでとう!」


 ハロルド様が私に駆け寄る。


「聖女ニーナ……。漏れておりますぞ」


 枢機卿に指摘された。目下の課題は聖なる魔力をコントロール出来るようになることだ。


 聖女として、ハロルド様の婚約者として。また、しばらく忙しくなりそうだ。

最後まで読んで頂きありがとうございます!!


少しでも楽しめたなら、ブクマと評価をよろしくお願いします!! モチベーションになります!!


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― 新着の感想 ―
[一言] 聖なる力が漏れてるって微妙にエロいですねwwwwwフフフフ…
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