99話 勧誘
「逆に尋ねるが、お前達のことを聞いてもいいか?」
「そうだな……まあ、自己紹介くらいはしておこう」
細身の男は軽く礼をする。
「俺は、カイン・ナイツフィール。傭兵団『暁』を束ねる者だ」
「私は、セラフィー・ナイツフィール。団長の娘で、副団長をやっているよ」
「やはり、暁のツートップか……」
陽動は成功だ。
しかし……
まさか、ここまでの化け物が出てくるなんてな。
弱気になってはダメなのだけど、正直、生きて帰れるかわからない。
でも、恐怖はない。
むしろ、絶対にやり遂げなければ、という強い使命感が湧いてくる。
「それで、お前の名前は?」
「アルム・アステニア。ブリジット王女に仕える執事だ」
「まだ執事と嘘をつくか」
「いや、それは本当なんだが……」
「名前はともかく、簡単に身分を明かすつもりはないということか。王家に深い忠誠を誓っているようだな」
だから、なぜ執事ということを信じてくれない……?
「ま、執事だろうが騎士だろうが、なんでもいーじゃん。私は、楽しくヤれれば、それでいいよ。こいつなら、最高に楽しめそうだ♪」
舌なめずりをしつつ、セラフィーがこちらを見る。
ちょっと勘違いしてしまいそうな台詞ではあるが……
彼女が言っていることは、そんな生易しいものではないだろう。
バトルマニア。
命を賭けた戦いを望んでいるに違いない。
「まったく……いつも言っているが、戦いは遊びではないのだぞ?」
「私にとっては、最高に楽しい遊びだよ」
「困ったやつだ」
それ以上はなにも言わないらしい。
カインの方は、バトルマニアというわけではなさそうだ。
ただ、徹底したプロではあるのだろう。
俺を逃がすつもりはないようで、話をしている間も、しっかりとこちらを視界に補足していた。
「それで」
カインがこちらに向き直る。
「ウチの者をずいぶんと可愛がってくれたようだな」
「いやいや、やられる方が悪くね? こいつら、最強とか呼ばれて、最近、イキってたし。慢心だよ、慢心。良い薬になったでしょ」
「……お前は少し黙れ」
「はーい」
どうでもいい情報だけど、カインは子育てに苦労しているみたいだ。
「お前の目的は、王女の救出だな?」
「その通りだ」
素直に頷いた。
ごまかしたとしても、隠し通すことはできないだろう。
まあ、ここまできて、隠す意味もないが。
「なるほど……そして今、時間稼ぎをしている、というわけか?」
「なんのことだ?」
なんとか動揺を顔に出さずに済んだ。
こいつ、さらりとした顔で、いきなり核心を突いてくるな。
侮れない。
「とぼけても無駄だ。これだけ派手に暴れて、俺達が来ても撤退しようとしない。陽動だろう」
「そう言い切れる根拠は?」
「勘だ。まあ、笑われるかもしれないが、傭兵の勘というヤツはバカにできなくてな。わりと当たるのさ」
「戦闘以外は外れること多いけどね」
「だから黙っていろ」
「へーい」
セラフィーは、ちょっと拗ねた様子で唇を尖らせた。
「仮に陽動だとして、どうして戻ろうとしない?」
「お前は、それを許すのか?」
「……」
「それに、お前のような強者に背中を向けるわけにはいかない。全力を出せねば、こちらが食われてしまうかもしれん」
それは俺の台詞なんだけどな。
「さて……やろうか」
構えて、
「が、その前に、もう一つ聞きたいことがある」
気楽な調子に、少し拍子抜けしてしまう。
「ウチに来るつもりはないか?」
「……なんだって?」
動揺を表に出さないようにしていたが、限界。
ついつい驚きの感情を顔に浮かべてしまう。
「お前みたいな強者なら、ウチは大歓迎だ。今なら、幹部クラスで歓迎するぞ」
「団員をこんなにしておいて、それが許されるのか?」
「許される。ウチは実力主義だからな。言うことを聞かないヤツも出てくるかもしれないが、力で叩き伏せればいい。よくあることだ」
物騒な傭兵団だ。
まあ、傭兵というのは、そういうものなのかもしれないが。
「細かい待遇としては……」
「断る」
「……まだ話し終わっていないが」
「あいにくだが、俺はもう、仕えるべき主を見つけている。今更、変えるつもりはないし、あの方が死んだとしたら、俺も死ぬだけだ」
カインがじっとこちらの目を見た。
そして、ため息。
「やれやれ、本気のようだな。ますます惜しいが……説得は無理か」
「ねー、もういいじゃん。引き抜くなんて無理に決まってるから、楽しいことしよ? しよ?」
「お前はお前で……まあいい。今回ばかりはセラフィーの言う通りだ」
カインは双剣を構えた。
そして、セラフィーは巨大な大剣を構える。
「契約により、貴様の命をもらう」
「楽しい戦いにしようね、あはっ♪」




