98話 己を餌に
「これでも……」
「くらえっ!」
二人の団員が左右から槍で突いてきた。
鋭く、速い。
それでいて、こちらの逃げ場を封じるような軌道を描く。
普通に考えれば、逃れるためには宙に跳ぶしかない。
しかし、それは悪手だ。
離れたところに、さらに別の団員がクロスボウを手に控えている。
跳んだところを狙い撃ちにするつもりなのだろう。
だから、
「ふっ」
「「なぁっ!?」」
俺は、槍と槍の間に生まれるわずかな隙間に身を滑らせて、攻撃を回避した。
ガチン、とほぼほぼ目の前で槍が交差する。
二本の槍をそれぞれ掴んで、ぐいっと捻る。
突然、意図しない方向に力が加わり、団員達は槍を手放すことに。
すぐに別の武器に切り替えようとするが、それを許すほど、俺は甘くない。
槍を回転させて、威力を乗せつつ、柄で団員を叩く。
それぞれの脇腹に痛烈な一撃。
骨を砕く、確実な手応え。
二人の団員は地に沈んで……
それを最後まで確認することなく、今度は、俺は槍を投擲した。
クロスボウを持ち、後方で待機する団員を狙ったものだ。
「ひっ……!?」
「ぎゃっ」
槍は団員達の足の肉をえぐり、地面に突き刺さる。
殺していないが……
しかし、これでいい。
生きているのなら、仲間の救助、治療をしなければならない。
そのために人が割かれる。
だからこそ、あえて致命傷を避けている、というわけだ。
もっとも……
相手は金で動く傭兵。
必要以上に傷つけて、下手な恨みを買いたくない、という本音もあるが。
「さあ、次はどいつだ?」
駆けつけてきた団員達を睨みつける。
「な、なんだこいつは……」
「一人で俺達全員を相手にするなんて、化け物かよ」
「まるで、団長や副団長みたいだ……いや、もしかしたら、それ以上に……」
応援にやってきたものの、団員達はすぐに動こうとしない。
周りに倒れている仲間達の数を見て、尻込みしているみたいだ。
これはこれで理想的な展開だ。
俺の目的は、とにかく目立ち、時間を稼ぐこと。
陽動にある。
団員の全てを誘い出して。
ブリジット王女の警戒を薄くすれば、それでいい。
「おっ、なんか面白いことになってるじゃん」
「笑えない事態だ」
「っ!?」
瞬間、背中がゾクリと震えた。
他の団員達のことが欠片も気にならなくなってしまう。
代わりに、新しく現れた二人に視線と意識を奪われてしまう。
双剣を持つ細身の男。
己の身長ほどもある巨大な大剣を持つ少女。
この二人が放つオーラは別格だ。
恐怖なんて感じないように訓練を積んできたはずなのに……
それでも、素直に怖い、と思う。
それに、この気配……
ブリジット王女がいると思われる客間で感じたものだ。
と、いうことは……
「お前達は……暁のトップか?」
「あれ? 私達のこと、知っているの?」
「いや。ただ、他の連中と明らかに別格だからな。そうじゃないか、と思っただけだ」
「へぇ」
少女が薄く笑う。
「私達のこと、見ただけでそこまでわかるんだ。うん。うん。あんた、いいね。狩り甲斐がありそう」
「まだ始めるなよ?」
「えー、なんでさ」
「聞きたいことがある。さて……お前は、どこの誰だ?」
細身の男が圧と共に問いかけてきた。
……これも時間稼ぎの内に入るか。
「誰だと思う?」
「言葉遊びをするつもりはないが、そうだな……王家に属する者。見た目から素直に考えるのなら執事になるが、そのようなことはあるまい。執事に扮した、暗殺者といったところか?」
「いや、執事なのだが」
「バカを言うな。うちの団員を、一人でほぼほぼ倒してしまうような執事がいてたまるものか」
鼻で笑われてしまった……
どうして、こう。
俺はちゃんと事実を告げているのに、それを信じない者が多いのだろうか?
むう。
「アルム君のせいだよ」
「アニキのせいっす」
またまた、そんな幻聴が聞こえてきたような気がした。




